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売れプロ12期卒の中小企業診断士、自称「ニコニコみっちゃん経営デザイナー」の石田 充弘(いしだ みつひろ)です。
最終回となる10回目は、欧米企業では一般的とされ、最近日本企業でも導入事例が出てきており、経産省の懇談会でも取り上げられた注目のキーワード、「FP&A」についてのお話です。
具体的には、「FP&A」とは何か、FP&Aが導入されている欧米企業と伝統的な日本企業の違い、日本企業が導入する際の留意点について取り上げます。
(1)「FP&A」とは何か
「FP&A」は、Financial Planning and Analysisの略で、直訳すると、「財務的な計画策定と分析」となります。さる5月7日に開催された経産省の「持続的な企業価値向上に関する懇談会」の資料では、以下のように説明されています。
- FP&Aは、CFOの配下で、業績目標の達成のために計画策定やモニタリング、業績予測や分析 を通じて、CEOや事業部門の意思決定を支援し、企業価値向上に貢献する機能で、欧米企業に多く見られる。
- 事業部門に配置されたFP&Aが、事業部門と協業しながら本社のCFO /FP&A部門にダイレクトに報告を行うため、本社CFOは、全事業部門の計数管理や事業計画の進捗モニタリングをタイムリーに実施できる。
- 従来より日本企業では、経理財務部門と経営企画部門で計数管理の機能・権限が分散し、管理会計の所管やレポーティングラインが分かれていることが多いが、欧米企業では、CFOが制度会計と管理会計の両方を管轄する。日系企業がFP&Aに関⼼を持ち始めた背景として、投資家からCFOへの期待が、企業価値向上及びその施策、事業ポートフォリオの組換えなどに広がっていることが挙げられる。
そして、この経産省の懇談会では、「(日本の)多くの企業でCFO /FP&A機能が十分備わっていないため、事業戦略と財務戦略が連動せず、資本効率の低下や成長投資に向けたファイナンス戦略の欠如といった状況になっているのではないか」という課題が示されています。
(2)経産省の「持続的な企業価値向上に関する懇談会」
ここで少し脱線しますが、この経産省の懇談会について補足します。
こちらは、2014年に「伊藤レポート」と称される報告書を世に出し、日本企業の企業価値向上に向けて、「ROE8%以上」を旗印に掲げて一世を風靡し、その後の「価値協創ガイダンス」や「コーポレートガバナンスコード」などの様々な取り組みの流れを産み出した、伊藤邦雄先生を座長に擁し、「伊藤レポート」公表後の10年間を振り返り、日本企業の取り組みが不十分な課題の要因分析と今後の対応の方向性を検討しようという懇談会です。
その中の「座長メモ」には、以下のような「8つの課題」が挙げられています。
- コストカットや自社株買いなどの短期的対応ではなく、成長期待を高める経営戦略
- 「目指す姿」を定め、人的資本投資を含めた成長投資を行う長期視点の経営
- 投資家と対話できるような社外取締役の質の向上と取締役会の実効性
- 社長任期の予定調和によるリスクテイク力の低下や高齢化
- (上述の)事業戦略と財務戦略を連動させるCFO /FP&A機能
- 日本の機関投資家から企業経営者への規律付け
- CEOや社外取締役による投資家との対話
- 企業価値や株価向上の意義に対する経営者の認識不足
(3)FP&Aが導入されている欧米企業と伝統的な日本企業の違い
①2つの壁(組織の分断)
伝統的な日本企業(以下、JTCといいます)では、本社内の壁と、本社と事業部門の間の壁といった、「2つの壁」があります。
本社内の壁は、経理財務部門と経営企画部門の壁です。経理財務部門は、制度会計を司り、日々正しくお金の出入りの帳簿を付け、決算を締め、実績を報告する、資金を調達する、といった、「スコアキーパー」が主な役割を担います。
一方で、管理会計を司り、企業の経営戦略を立案し、予算を策定し、経営資源の配分を決定し、事業部門を評価するといった、「ビジネスパートナー」の役割は、経営企画部門が事業部門を取りまとめて担います。
本社と事業部門の壁については、事業戦略や予算策定に際して、現場を持つ事業部門が主導するボトムアップ型の編成プロセスが取られ、その際、計数の作成と管理は事業部門内の計数担当が担い、専ら事業部門のトップの指示の下で、本社の経営企画部門と折衝するというスタイルのことを指します。
こうした2つの壁がある結果、経営企画部門は、事業の内容把握や会計的な数字の裏付けの理解が不十分となり、事業部門レベルの部分最適が横行しがちになります。かつて、JTCの強みは「現場力」にあり、と言われていた時代は、これでも良かったのですが、事業環境の変化が速く不透明な時代になると、全社的観点から戦略を練り直し、事業の新陳代謝(事業ポートフォリオの変革)を大胆に行っていくことも必要になります。
②2つのレポートライン(指揮命令系統)
FP&Aの考え方が導入されている欧米企業では、本社の経理財務部門と経営企画部門が統合されてFP&A部門として組織され、CFOの配下に置かれます。
また、各事業部門内の予算策定を担う計数担当者は、事業部門のトップの配下となるのは当然ですが、FP&A部門の一員とも位置付けられ、CFOおよび本社のFP&A部門の配下にも置かれます。つまり、2つのレポートラインを持つ、ということです。
このことにより、CFO(および本社のFP&A部門)は、各事業部門の戦略や予算の策定に早い段階から深く関与し、内容を理解しながら、会計やファイナンスの裏付けのもとで、本社の戦略や方針を踏まえた意見具申や意思決定を行うことができるようになります。そのため、各事業部門にとっても、より適切な投資判断等ができるようになるとともに、本社にとっても、全社最適な意思決定を行いやすくなります。
また、社員個人にとっても、例えばある事業部門のFP&Aとして経験を積んだ後に、別の事業部門のFP&Aに転じる、または本社のFP&Aに転じる、そしてCFOを目指す、といったジョブ型のキャリアパスをイメージしやすくなるという面もあります。
(2023年9月12日 日本経済新聞記事を一部加筆)
(4)留意点
FP&Aの導入にあたっては、上記のように、欧米企業の真似をして、組織やレポートラインを変えれば済むという単純なものではありません。「組織、ルール・プロセス、人材、システム、データ」の5位一体での変革が必要と言われています。
新しく導入する、生まれ変わるFP&A部門という組織は、どのような業務、機能を果たすのか、それを、どのようなルール、プロセスのもとで行うのか、それを担う人材に求められるスキルやマインドセットはどのようなものか、どのように育成、採用していくか、をデザインしていく必要があります。
なお、各事業部門や本社で計数を適切に把握し、様々な分析を経て意思決定に役立てていくためには、システムやデータがバラバラ、不揃いのままではうまく行きません。また、既存の業務(例えば日々の経理業務や決算集計業務)を効率化して、FP&A業務を担える余力を創出する必要もあります。こうした観点から、制度会計や管理会計のシステム、データの一元化や標準化といったことも必要になります。
一方で、組織にせよ、システムにせよ、必ずしも唯一の正解があるわけではありませんし、特に現状維持バイアスの強いJTCでは、すぐに大きな変革ができるものでもありません。目指す姿のグランドデザインを構想しつつ、それぞれの企業の組織風土やトップの意向などにあわせて、受け入れやすいことから、できることから始めて、クイック&スモールに成果を積み上げていくことで、共感の輪を広げていく、という工夫も必要になると思います。
(5)最後に
以上、今回は、JTCの企業価値向上に向けて、「FP&A」というキーワードについてお話ししましたが、全10回を振り返ってみると、
①自己紹介、②段取り力、③経営デザインシート、④知的資産経営、⑤⑥⑦信託シリーズ、⑧攻めのガバナンス、⑨統合報告書、⑩FP&A
と、これまでのキャリアを通じて培ってきた知識や経験の中から、少しでも中小企業の経営者や中小企業診断士の方々にお役に立てるようなものを、と思って記事を書いてきました。
これからも、中小企業診断士(ニコニコみっちゃん経営デザイナー)として、「経営デザインでニコニコ明るい未来を共に創る」の「Will」(したいこと)の下、「Should」(すべきこと)の具体化に沿って、「Can」(できること)をどんどん増やしていこうと思います。
「売れプロ」は、その意味で、自分の「Can」を増やす、これまでの自分をバージョンアップするのにとても有意義で貴重な場所です。
我が12期は3月で修了しましたが、圧倒的な実績の裏にあるノウハウを惜しげもなく伝授してくださる青木先生の下、互いに切磋琢磨する素晴らしい同志とともに学んでこれたことを財産に、今後もますます研鑽を積んでいきたいと思います。
4月には、早速、青木先生の紹介で、大企業の新人研修の講師をする機会を頂きました。企業内診断士である私にとっては、通常ではどんなに願っても叶わない貴重な機会です。
「売れプロ」は、もうすぐ13期が始まります。中小企業診断士になったばかりの方はもとより、ベテラン診断士の方や診断士以外の士業の方にとっても、それぞれ意義深い場になると思います。ぜひ一度、説明会などで青木先生の圧倒的な存在感に接してみることをおすすめします。(Don‘t Think, Feel!)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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