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売れプロ12期の中小企業診断士、自称「ニコニコみっちゃん経営デザイナー」の石田 充弘(いしだ みつひろ)です。
9回目は、上場企業で作成、開示が進んでいる「統合報告書」のお話です。具体的には、「統合報告書」とは何なのか、作成、開示する意義や含める項目の特徴、主な表彰制度について取り上げます。
(1)「統合報告書」とは何か
「統合報告書」は、以下のような「財務情報」と「非財務情報」のレポートを統合したレポートのことで、いわば、「開示の決定版」のようなものです。
•「財務情報」:従来からある、会社法、金商法、取引所規則に基づく、「事業報告」、「有価証券報告書」、「決算短信」など、財務諸表を中心とした開示
•「非財務情報」:上記とは別に、社会や企業の意識の高まりを受けて、環境問題、人権問題への取り組みや社会貢献活動等について開示するようになった、「CSRレポート」や「サステナビリティレポート」などの開示
(2)「統合報告書」を作成・開示する意義
「統合報告書」は、法定の開示資料ではありませんが、以下のような潮流を受けて、上場企業を中心に、作成する企業が増加しています。宝印刷D&IR研究所によれば、統合報告書の発行企業数は2018年に465社だったのが、2024年2月時点では1,019社に上るとのことです。
① ESG投資の獲得
2006年の国連責任投資原則や2020年のスチュワードシップコード改訂等を踏まえて、近 年、機関投資家は、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点を投資に取り入れ、企業との対話を深めることが求められています。
そのため、企業は、ESGへの取り組みの開示を充実しなければ、そうした機関投資家からの資金を獲得できず、投資を引き揚げられるリスクがあります。
② コーポレートガバナンスコード改訂への対応
コーポレートガバナンスコードにおいても、2021年の改訂により、サステナビリティへの取り組みの重要性が強調されました。また、人的資本・知的財産への投資等についても、経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきことや、特にプライム上場会社は、気候変動に関するリスクと機会が事業活動や収益などに与える影響について、開示の充実を進めるべきことが明記されました。
③ ステークホルダーへの訴求
企業が持続的に価値を生み出す源泉となる強みとして、財務情報で報告されてきた「財務資本」のみならず、財務情報には表れない「非財務資本」、すなわち、人的資本や知的資本等の役割がより重要となっています。
そのため、企業がどのような「非財務資本」と「財務資本」を組み合わせて、どのようなビジネスモデルで顧客に価値を提供し、社会にインパクトをもたらすのか、といった統合的なストーリーを示すことが、投資家の投資判断のうえでも、また、地域社会や従業員などのステークホルダーからの共感を得ていくうえでも、重要になっています。
2023年の東京証券取引所の要請では、上場企業はPBR1倍以上を目指し、資本コストを意識した経営の計画策定と開示が求められました。このPBRについては、1倍までが、BS上の純資産、すなわち「財務資本」であり、1倍を超える部分がBSには表れない「非財務資本」である、という見方があり、これによれば、PBR1倍以上を実現するには、いかに非財務資本の価値を蓄積し、かつ外部に認めてもらうかが重要といえます。
また、別の表現をすれば、PBR=ROE×PERとなり、ROEは顕在化した財務的な収益力、PERは将来に向けた成長期待やリスクの低減を表しています。そのため、サステナビリティやESGの取り組みを外部に認めてもらう取り組みは、PERの引き上げを通じてPBR向上に寄与するといえます。
(3)「統合報告書」に含める項目の特徴
「統合報告書」には決められた様式はありませんが、以下のようなフレームワークが参考になります。
① IIRC(国際統合報告評議会)が公表する「国際統合報告フレームワーク」
特に、「6つの資本」をインプットにして、独自のビジネスモデルにより、顧客へ提供する価値をアウトプットし、社会にインパクト(アウトカム)をもたらし、それが「6つの資本」に還元される、という「オクトパスモデル」が特徴です。
ここで、「6つの資本」とは、「財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会関係資本、自然資本」を指しますが、このことから分かるように、必ずしも自社内部にある資本だけでは無いこと、市場で取引可能な資本だけではないこと、が特徴です。
こうした特徴は、以前にご紹介した、「経営デザインシート」の「資源、ビジネスモデル、提供価値」で表される「価値創造メカニズム」や、「資源」について特に「知的資産」に注目して「関係資産」も含めて「強み」を明らかにする考え方と通じるところがあります。
② 経産省「価値協創ガイダンス2.0」
以下の図にあるように、「価値観」「長期ビジョン」「ビジネスモデル」「リスクと機会」「実行戦略」「成果指標」「ガバナンス」「対話」の8項目が示されています。
2022年の改訂では、「伊藤レポート3.0」を踏まえて、SX(社会の長期的なサステナビリティを展望し、企業のサステナビリティと同期化させるために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)の意義の明示、人的資本への投資や人材戦略の重要性の強調、「長期戦略」、「長期ビジョン」、「投資家との対話・エンゲージメント」の追加などが行われています。
(4)主な表彰制度
① 日経統合報告書アワード
運用機関の他、監査法人、コンサルティング会社、学識経験者等が審査しています。
2023年は、475の参加企業の中から、グランプリ3社(※)、準グランプリ6社、分野別のグランプリE賞1社、S賞2社、G賞2社、新人賞1社、優秀賞42社が選定されています。
(※)コンコルディア・フィナンシャルグループ、東京応化工業、野村総合研究所
② WICIジャパン統合レポート・アウォード
WICIは、事業会社、アナリスト、投資家、官公庁、大学等の研究者が参加する国際団体であり、IIRCの協力団体として、無形資産(特に人的資産等の知的資産)に重点を置いているようです。
2023年は、金賞4社(※)、銀賞2社、銅賞2社、審査員特別賞1社が選ばれています。
(※)伊藤忠商事(4年連続)、東京海上ホールディングス(初)、デンソー(前年銀賞)、三井化学(前年銅賞)
③ GPIF「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」
運用資産が世界最大規模の機関投資家であるGPIF(我が国の公的年金の運用機関)は、国内株式の運用を委託している運用機関に対して、毎年優れた統合報告書の選定を依頼し、結果を公表しています。選定は各運用機関に任されているため、統一的な評価基準は無いとされています。
2023年は、伊藤忠商事が6機関から選定されて本年度もトップ。次いで、アサヒグループホールディングス、日立製作所が5機関、双日、三菱UFJフィナンシャル・グループが4機関から評価されています。
(5)最後に
以上、統合報告書を作成・開示する企業が上場企業を中心に増えるとともに、各種のフレームワークや表彰制度により、内容の充実も進んでいることをご紹介しましたが、こうした潮流や考え方は、中小企業にも参考になると思います。表彰されている企業の統合報告書の内容を見てみるのも良いでしょう。
私は、中小企業診断士として、企業の存在意義、提供価値を明確にし、分かりやすく説明し・実現していくお手伝いをしていきたいと思います。そのため、「経営デザインでニコニコ明るい未来を共に創る」の「Will」(したいこと)の下、「Should」(すべきこと)の具体化に沿って、「Can」(できること)をどんどん増やしていこうと思います。
「売れプロ」は、その意味で、自分の「Can」を増やす、これまでの自分をバージョンアップするのにとても有意義で貴重な場所です。我が12期は3月で修了しましたが、圧倒的な実績の裏にあるノウハウを惜しげもなく伝授してくださる青木先生の下、互いに切磋琢磨する素晴らしい同志とともに学んでこれたことを財産に、今後もますます研鑽を積んでいきたいと思います。
(参照)
最後までお読みいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
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