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岩本 晃(いわもと あきら)です。8回目の投稿となりました。
新型コロナの影響で、多くの人たちがリモートワーク生活に慣れきってしまった昨今。
社内オフィスや取引先でも、こんなに会社は広かったのかというくらいガラガラで、多くの総務担当者が家賃の無駄問題に悩んでいると聞きます。
「通勤しなくても成り立つ仕事」って、「一人一台PC」や「どこにいても携帯電話」以来の、社会的大変化ではないでしょうか。
効率的な働き方や必要とされてきた経費が劇的に削減できた反面、「対面商売」の良さが失われつつある、と昔を知る昭和世代のおじさんを中心に、嘆きの声も聞こえます。
今回は、この世代に代表である私から、対面によるハートワークの大切さについて考えてみたいと思います。
【人懐っこい猫はトクをする】
昨年6月、三陸海岸沿いの山道をテント担いで100kmほど歩く「みちのく潮風トレイル」に行ってきました。一人で3泊4日の気ままな旅です。
とあるリアス式海岸の露営地にテントを張った三日目の早朝、出発して1時間ほど歩くと、やたらと猫のいる小さな漁港がありました。どうやら漁師が魚をやるらしい。
そこで気づいたのですが、でかいザック背負った初めて見かける人間にも、ミャアミャアと近寄ってくる猫たちは、何故かことごとく肥えているんです。
彼らを見ながら、その理由が分かりました。そうか、人懐っこいから餌を貰えるんだ!
これって仕事でも同じです。少なくとも人見知りより、心の壁を越えて平気で近づける人のほうが、商売は楽なはず。仕事に限らず、世の中の人間関係、全て同じですよね。
「痩せたソクラテスより、太った猫」。いや、ちょっと違うか…。
【DB解析より貴重な対面での情報】
10年ほど前のこと、某得意先営業部長にWEBマーケやDBの効果的な仕組みについて話をしている中で、彼が「昔はもっと分かりやすかったのに」と、ぼそっと漏らしました。
今の時代、デジタル化で顧客データの蓄積が進み、アクセス推移から問い合わせ率・平均リードタイム・担当営業ごとの商談進展率まで、全てが数値化管理されるようになってきた。
でも、お客さまの癖がつかめる情報は、昔のほうが分かりやすかった、と言います。
同じ世代として興味が湧き、昔はどんな営業活動をしていたのか、雑談の中で伺いました。
すると彼は、毎年年末の最終営業日に築地市場まで出かけて「生きたカニ」を買い、主要得意先の挨拶回りを恒例化していた、と教えてくれました。
最終日なので得意先担当者の在社率も高く、「生きたカニ」だからこそ、生ものなので受付で「預かります」とはなりにくく、担当者に直接会える確率が高い。
さらには、希少性の高い高級なお届け物だから、その時在社している普段なかなか会えない偉い人が、わざわざ対応しに来てくれる。
そこで会議室に通され、四方山話の中で、翌年の新商品の販売予定や投資計画、人事の裏情報などをさりげなく聞き出しながら、仲良くなっていく。
そこから来期のどの時期に、どんな営業活動をすればいいか、瞬時に判断できたそうです。
生きたカニで心の扉を開かせ、相手の懐に入り込めれば、どんなDBをも凌駕する戦略的な情報が得られ、一日で年間営業計画の土台ができた、と言います。
お菓子のように、安価で預かりやすいものは、部下が受け取ってしまうからダメで、偉い人と高い確率で会話できる方法が、この「生きたカニ」作戦だったそうです。
まさに、勘と経験、そして人の懐にすっと入っていける、人懐っこさのなせる業ですね。
「最近の仕事は、アクセスログ解析やメール上のやり取りになって、確かに効率的でスマートになった。データは沢山あるけど、誰が重要で、いつどんな営業すればいいのか、語り継いで学んでいく機会がない」と嘆いていました。
【“高速道路の先の大渋滞”を突破するために】
昨今、多くの企業でリモートワークをはじめ、MAや営業DX導入による生産性の劇的な効率化が進む中、カニを持参する営業なんて、旧くて突拍子もないやり口に感じると思います。
情報セキュリティの壁や贈答習慣の廃止も、昭和型営業を過去のものにしつつあります。
ところで、今から15年ほど前の話ですが、「ITの未来はどうなるか」を問われた際、“高速道路の先の大渋滞のようになる”と喝破した人がいます。あの将棋の羽生善治氏です。
技術革新やネットワークの進展によって、デジタル習熟した人間は皆、高速道路を走る車のように急激な進歩を達成するけど、そこから先は同じような競争に陥り、抜け出せなくなる。それを突破するには、よりスピードを強化して強引に抜けだすとか、高速を降りて抜け道を探すといった、その人なりの独自性やスタイルを確立することが重要だ、というわけです。
今はまだ高速のスピード競争の渦中ですが、いずれ急激な大渋滞時代がやってきます。
「動あれば反動あり」という言葉があるように、ひとつの大きな動きがあるとき、その反作用として必ず逆の動きが起きるものです。
スマートで生産性の高い、頭の良さが感じられるビジネスこそ最高、と思っている人たちが増えてますが、政治の世界でも最後は「どぶ板活動」ができない代議士は信頼されません。
リモートワークは絶対的に重要だし、今後も進展していくはずですが、人間同士の心の繋がりあってこその技術です。
職場のOJTでも、デジタル世代の若手に対して、具体的にやって見せることで、語り継ぎを競争力に変えていって欲しいものです。