蒼いマンゴーが堕ちたら -9ページ目

蒼いマンゴーが堕ちたら

フィリピンを舞台にした単なるフィクションストーリーです。多分フィクション・・・・

無理な姿勢で寝ていた為に身体中が痛い。死んだ様に寝ていたリリィを起こしてシャワーに行かせた。
今日も暑くなりそうな日射しだ。


バスルームから顔だけを覗かせてリリィが



一緒するか?



バスルームに行き服を脱いでシャワーカーテンを開けると、リリィが頭からシャワーを浴びていた。

褐色の肌が艶かしく濡れている。相変わらずシャワーはやる気のない勢いで生温い雨を降らせていた。昨日の夜の事など忘れたみたいにリリィが抱きついてきた。起き抜けにそんな気にもなれずキスをしただけでリリィにメディカルチェックの用意を急かした。


ビュッフェで朝食を食べてリリィは出掛けていった。女マネージャーの車に乗り込む時、くれぐれも一人で出掛けるなと念を捺された。当然そんな注意を守る気は全くない。一度部屋に戻ってパスポートと煙草と携帯電話、3000ペソをポケットに突っ込んでホテルを出た。知らない街を歩くのは基本直進が迷子にならなくていい。セブンイレブンの前を直進していくと車で通った見覚えのある大きな通りに出た。通りは渋滞の車が溢れジプニーの中から視線を感じながら通り沿いを歩いた。時折けたたましい音のトライシクルが走り抜けて行った。左側の小さい通りにミニストップの看板が見えた。引き寄せられる様にその方向へと歩を進める。裏通りは完全な異世界の空気が流れていてビルの間から見えた一つ向こうの通りが眩しく見えた。ブコジュース売りの屋台の前で知った顔に再開した。

麻袋を持った女の子。

ちょっとびっくりした顔をして照れた笑い顔をした。


ブコジュースの屋台を指さして、ゼスチャーで飲む仕草をすると彼女はニコッと笑って答えた。


ブコジュース売りにピースサインを出して二杯注文する。名前すら知らない彼女と並んでブコジュースを飲んでいる。彼女の持っていた麻袋はペッタリとしていた。オレは50ペソを彼女に渡した。彼女は真顔になって一瞬考えて50ペソをギュッと握った。


携帯電話がポケットの奥で鳴っている。取り出してみるとリリィからだった。


通話ボタンを押すと大きな声で泣きながら



イカウどこ?何でホテルない?



時折解らない言葉が混ざり悲鳴にも聞こえた。


さほどホテルから遠くないところにいると伝えるとすぐ帰って来いと言う。

メディカルチェックはどうしたと聞くとオレの電話が繋がらないのでホテルに電話をしてみたら出掛けたと聞いてメディカルチェックの途中で帰ってきたらしい。


ホテルに戻ろうとするとブコジュースの容器を持った彼女が袖を引っ張る。指をさしてオレを引っ張る。彼女はホテル、ホテルと連呼した。
どうやら連れて帰ってくれるみたいだ。裏通りを引っ張られるままについて行くとセブンイレブンの看板が見えてきた。彼女はセブンイレブンの前まで来ると引っ張るのを止めて元きた道を戻ろうとした。オレは待ての手振りをしてポケットから100ペソ取り出して渡そうとした。彼女は首を横に振り悲しい顔をした。そしてこちらを一度も振り返る事なく帰って行った。



ホテルの前にいたリリィはオレを見つけると走り寄って来てさんざん文句を言った。
オレとホセの予想に反してリリィは1セット90分の間に撃沈した。テキーラを水の様に飲み、ひっきりなしに踊っていれば当然の結果だ。台風が熱帯低気圧に変わった位に拍子抜けした。

店を出る頃には実寸大の木偶人形に変貌したリリィを背負って歩く。途中の屋台でバーベキューを二袋買った。


車のバックシートにリリィが突っ伏して寝ている。
ホセがポツリと言った。



日本行きたい・・・・
難しいな日本行く。



確かにフィリピン人のビサが下りるのが難しくなったと聞いている。協力してあげたいがこれはどうする事も出来ない。



ずっとDJの仕事するのか?



半ば諦めに似た感じでホセは



サウジアラビアかコリアに行く



日本に来れる事を願ってるよと言うとホセの口元が寂しく笑っていた。


ホテルに到着してリリィを部屋に運びホセを見送った。バーベキューの袋を一つ持たせて子供によろしくなと言うと握手を交わしホセは帰って行った。


ロビーに人はいない。エレベーターの中にミラーが貼られてあり映ったオレの顔は紛れもない日本人だ。死んでも・・・・



ベッドの上でリリィが荒く速い呼吸で寝ている。二週間もすればリリィは日本に帰ってくる事が決定している。


冷蔵庫からお気に入りのCOLT45を出す。バーベキューの串をくわえて椅子に体を預けた。


明日はリリィのメディカルチェックの日なのでオレ一人で行動の予定だ。


ベッドのリリィは、時折寝返りを打ち苦しそうだった。

オレはビールを二本空けた辺りに眠りに堕ち、椅子の上で朝まで寝ていた。
ホセのサプライズにオレは浮かれていた。
ホセが連れて来てくれなかったらまずここは無縁だっただろう。折角のフィリピンだから本場のパブに行きたいと思うのは当然だ。ずっとリリィが一緒だとまず有り得ない話だっただろう。


通りを歩くとキャッチが声を掛けてくる。ホセがからかう様にキャッチをパスしている。キャッチの相手が面倒になり日本語でカラオケと書かれた店に入った。


店の中央に張り出したステージがあった。ほぼ満員の状態でオレ達はステージから見て左側の席に案内された。ママらしい女が来てシステムを説明しているがカラオケが煩くて何も聞こえなかった。ママと入れ代わりに三人のババエがやってきた。ババエ達は日本語で挨拶を済ませて席に着いた。



日本と変わらないな



考えれば日本語でカラオケと書いてある店だ。当然日本人が集まる店だろうし日本人相手にババエが日本語を喋るのも当たり前だ。ホセにタイプがいたら指名していいよと言う。オレからのほんの恩返しだ。


一通りの儀式にも似た挨拶が済み乾杯をした。リリィが自慢気に最近日本から帰って来たと言うとオレの隣のババエはオレをプロモーターと勘違いして



アコも日本行きたい



ホセが笑いながらババエに説明をしていた。それを聞きながらリリィが



イカウがパルパロに見えるから



と嫌みを言った。カチンと来たオレは隣のババエの肩に手を回して言った。



日本に来たら電話して。会いに行くから。



リリィの顔が一瞬変わったのをオレは見逃さなかった。ババエの肩から手をどけてビールを取ってホセに話しかけようとしたがそのババエがオレの腕に自分の腕を絡ませてきた。



リリィが更に不穏なオーラを醸し出した。それに気付いたホセがオレにカラオケを勧める。


ホセのナイスアシストに助けられた。リリィはテキーラをオーダーに代えていた。リリィがテキーラを飲む時は決まって酔っ払い暴れるのをオレもホセも知っていた。


客の誰かが入れたカラオケでババエ達が踊り出した。突然リリィが立ち上がり踊り出した。ホセがオレに耳打ちした。



クヤ後でリリィ暴れるな



相槌を打ち、オレはビールを飲み干した。リリィはステージに上り踊っている。



ホセとオレは顔を見合わせて空のグラスで乾杯した。