蒼いマンゴーが堕ちたら -10ページ目

蒼いマンゴーが堕ちたら

フィリピンを舞台にした単なるフィクションストーリーです。多分フィクション・・・・

ホセはブースの中にいた友達のDJに挨拶に行った。残されたオレとリリィはカウンターで雰囲気に呑まれていた。


小さめなフロアに身動きが取れない位に人が溢れていた。踊ると言うよりはフーリガンの暴動の様だった。


ブースを見るとDJがホセに替わっていた。曲調が変わり、我慢出来ずにリリィがフロアに出て行った。

あいかわらずフロアはデモ隊と機動隊の衝突の様になっていて踊れる様な状況ではない。悪態をつきリリィが戻ってくるまでにそれほど時間はかからなかった。


ビールをもう一本オーダーした時にホセが帰ってきた。ホセは気を使ってくれたのか他に行きたい所はあるかとオレに言った。元々騒動しいのが苦手なオレはホセの気遣いに感謝した。フィリピンに来て観光地にまだ行った事がないと言うと、ホセはならばマニラベイに行こうと言った。マニラベイの事は地球の歩き方で見たが、夕日が有名で今は夜だ。それをホセに言うと



クヤ大丈夫よ。マニラベイは広いから・・・・



そう言うと歯を見せて笑った。
意味が判らぬまま車に乗り込みマニラベイへ向かった。


マニラの夜は賑やかだ。道沿いには屋台が見える。町中が夏祭りの様に見える。大きなホテルが並ぶ前を越え沿道に車を停めた。

ロハスブルバードを横断すると海が見えた。所々に船の灯りが見えたが別に何て事はない。

ホセは煙草が買いたいから行こうと言う。まだ5分も経っていないのにだ。言われるがままホセについていくと車を停めた方向ではない方に歩いて行った。ホセが小さい声で



クヤもうちょっとだけね



何がなんだと思いながらついていくと通りの明るさが変わった。KTVが立ち並んでいる。ホセが言った。



クヤ、ここマビニよ。飲むか?



先程からのホセの言動がやっと判った。
心の中でホセに賛辞を送った。リリィに行くかと言うと軽い感じでいいよと答えた。リリィは何故か楽しそうだった。リリィは続けてオレに言った。



イカウはババエ指名出来ないな。



約束の時間が迫ってきた。リリィとオレはロビーに下りてホセを待った。


15分ほど遅れてホセが到着した。赤いキャップに派手な大きめのTシャツ、パンツは腰辺りでラッパー風。足元を見ると見覚えのある黒いナイキのエアフォース1。気付いたホセが笑いながら



覚えてるクヤ?イカウのドロボウのよコレ。




ホセがフィリピンに帰る前にオレの家に来たことがあった。帰国する一週間前の事だ。ホセに、明日は休みだからフィリピンへの土産を買いたいので連れて行って欲しいと頼まれた。それならオレの家で飲もうじゃないかと誘ったのだ。リリィの事でホセには色々と世話になった。オレはホセの好きなラーメン屋のチャーシューを特別に分けてもらい、焼き肉の用意をしてホセをもてなした。ホセの後任のスタッフのライアンも同席して、男三人だけの飲み会だった。リリィも来たかったらしいが店のショータイムの練習の為に来れなくて嫌がらせの様に30分おきに電話をしてきた。



焼き肉を食べながらオレはホセに聞いた。



ホセ、何か欲しいものあるか?



ホセは家と車が欲しいと言う。笑いながら、それは自分で買ってくれとオレは返した。
ホセは靴が欲しいと言う。オレはサイズ間違いで買ってしまったナイキを思い出した。一度履いてみたがつま先が痛くなって諦めた物だった。


クローゼットからナイキのマークが入った箱を取り出してホセに渡した。


ナイキエアフォース1の復刻版を貰い、ホセは子供みたいに喜んでいた。


次の日、土産を買う為にオレの家を出た時にホセの手にあったナイキの箱を見てオレは



ホセ、ドロボウしたな。



すると笑いながらホセは落ちてたから拾ったと言った。




その時の事を思い出して二人はホテルのロビーで拳を合わせてタッチした。リリィは訳が判らずキョトンとしていた。



ホテルの外に出ると排気ガスと夜の暑さがまとわりつく。ホセの運転する車にリリィと乗り込んだ。オレはホセに聞いた。



車買った?



ホセはとんでもないと言う顔で



貸してだけよ。アコおカネないよ。



ルームミラーにはロザリオが揺れていた。車は街灯の少ない埃っぽいストリートを走り、薄暗い中にネオンが光る建物の前に停車した。


建物の外にまで大音量の音楽が洩れている。オレのイメージのディスコとはかなりかけ離れている。


ホセがドアを開けると更に大きな音のうねりが外に流れ出した。大勢の人間が踊るせいか建物自体が揺れていた。オレ達はカウンターの端に行き、ビールを注文した。

この頃にはリリィの機嫌も元に戻り、音の波に揺られて楽しそうな顔をしていた。

冷蔵庫からCOLT45の缶を取り出し、TVを点けた。
オレはこのCOLT45のビールが好きだ。有名なサンミゲルでは少し物足りない気がする。独特の味がして外国のビールと言う感じが好きだ。リリィに言わせればビールと煙草は日本の方が旨いと言う。


COLT45を飲み干し、フィリピン製のマルボロに火を点けた。TVの画面はフィリピンのニュースで交通事故の映像が流れていた。



突然、オレの電話が鳴った。安物のノキアの着信音がチープだ。


電話にはJoseと出ていた。



ハロー、クヤ。何してる?



何もしていないと伝えると飲みに行こうと言う。ホセのDJ友達が働いているディスコでイベントがあるから誘ってくれたのだ。

一時間後にホテルのロビーでと約束をして電話を切った。


既に目を覚まして話を聞いていたリリィは顔だけブランケットから覗かせてオレを見ている。



行くか?



リリィはガバッとブランケットをまた頭から被り返事をしない。
オレはバスルームに行きシャワーのHOTの蛇口を捻った。さして熱くないお湯が勢いなく控えめに出ている。それを頭から浴びてオレの眠気が消えていった。バスタオルで身体を拭き終えた時には夜遊びモードになっていて、フィリピンの夜遊びに何かしらの期待をしているオレがいた。


バスルームを出るとリリィが服を着替えていた。どうやら一緒に行く気のようだ。


オレはキャリーバッグを開け、黒に縦じまの半袖のシャツを取り出した。袖を通して胸ポケットに煙草とライターを入れる。

準備を済ませて窓辺に立つ。窓の下には車の渋滞が見える。クラクションがあちこちから聞こえてくる。


旅の目的と理由・・・・



何かどうでも良くなっていた。

フィリピンの空気がそうさせているんだとオレは思った。