ホテルに帰るまでリリィは押し黙り、そっぽを向いてオレに無言の抗議を続けた。何が気に入らなかったのか考えてみた。あるとすれば仮想オーディションで卵達に抱きつかれたりキスされた事位だ。
リリィは部屋のカードキーを挿し込み、ヒステリックにドアノブを押し下げた。
ベッドに身体を投げ出すとオレを睨み付けた。何か言いたげだが何も言わずに目に涙を浮かべている。
段々とこちらも不機嫌になってきたのを悟ったのかリリィは堰を切った様に捲し立てた。
何でナンバー1があのババエで恋人の私をナンバー3にすら選ばなかった。あのババエがタイプか?それならチェンジすればいい。
オレは暫し絶句した。何てくだらない理由だ。怒る気にもならない。こんな時は放置が一番とばかりに携帯電話と煙草を掴んで部屋を出た。
ホテルの前にあるセブンイレブンが避難場所だ。満腹なのに何故かサンドイッチとコーラを身振り手振りで買い、セブンイレブンの前に腰を下ろし煙草に火を点けた。道行く人間がオレを見ている。
汚いシャツを着た子供がオレを凝視していた。手には大きめの麻袋を持っていた。ストーリートチルドレンだろうか顔が薄汚れていた。オレは手招きした。子供は恐る恐る近付いてオレの前に立った。オレはサンドイッチとコーラを差し出す。汚れていて判らなかったが近くで見ると女の子の様だ。子供はオレからサンドイッチとコーラを受け取るとニコッと何とも言えない良い顔で笑った。それから子供はオレの隣に腰を下ろしサンドイッチを食べ始めた。食べながらオレに話しかけてくるが何を言っているか判らない。返事は笑うだけの会話が続いた。オレは手振りで待ってろと子供に伝えて再度セブンイレブンに入りお菓子を適当に掴んでレジに持って行った。レジを済ませドアを開けると子供は少し離れた場所にいた。オレはお菓子の入った袋を子供に渡した。子供はまた良い顔で笑ってみせた。何か一言二言喋り、手を振り去って行った。
あまりの暑さにホテルに戻る事にした。
部屋に戻るとリリィはブランケットを頭から被り寝ていた。先程のセブンイレブンでの出逢いは秘密にしておこうと思った。
オレだけのフィリピンでの秘密だ。
大量の料理はオレを苦しめたばかりかリリィの機嫌も損ねてくれた。女マネージャーはさっき食べたばかりだからと手をつけない。
リリィは不機嫌ながらルンピアを口に運んでいる。オレはチャプスイとレチョンとティナパイと格闘していた。
この調子だと明日は食事無しで過ごせそうだ。そんな事を考えていたら目の前にリリィ達のボスがいた。ボスは清潔感が漂う服装で如何にも金持ちそうだ。オレの隣の椅子に腰をおろすとオレに握手を求めてきた。
手を伸ばし握手をすると女マネージャーよりも流暢だが癖のある日本語で
挨拶をした。
ボスは日本に出稼ぎに来ていたらしい。三十年以上も前の話だ。その頃はフィリピーナはジャパユキと呼ばれていた頃で日本人はフィリピン人を蔑みの目で見ていたらしい。ボス自身も相当辛い目にあったと笑いながら言った。それでもボスは我慢してフィリピンに稼ぎの大半を送って金を貯めたそうだ。ビサが切れてオーバーステイを7年して建築現場や工場で働き、フィリピンに帰って来たのが三十二歳の時。それからフィリピンで食べ物屋を手始めに商売を始め、知り合いの薦めでタレントのプロモーションを始めたそうだ。
日本人は戦争でフィリピン人を苦しめたが日本があったから自分は金儲けが出来ているんだと笑いながら言った。
ボスはオレに日本人の好みそうなタレントの卵は誰かとプールで遊ぶフィリピーナ達を指差した。
思い立った様にタレントの卵に声をかけて、プールサイドに整列させた。
総勢43人のフィリピーナ。
ビキニ姿も、Tシャツにショートパンツ姿もいる。
仮想オーディションが始まった。
軽快なダンスナンバーが流れ始め、左端から一人づつウォーキングでボスとオレの前まで来てアピールする。ボスはオレに誰が一番良かったかを決めろと耳打ちした。
卵達はオレを日本のプロモーターと勘違いしているらしく真剣にアピールしてくる。
半数程のフィリピーナのアピールが済んだあたりから人数が増えている気がした。よく見るとやはり人数が増えている。
その中にリリィも混じっていた。現役タレントのプライドなのだろうか。
増えた人数は現役タレントだと感じた。卵達は自分のアピール以外は音楽に合わせて軽く身体を揺らす程度だが、リリィを含めた右側に並んだフィリピーナは踊りが出来上がっている様に見えた。
パーティー会場は既にバースデーパーティーではなくなっていた。
フィリピーナ全員がアピールを終わらせた後、ボスが卵達に何かを告げると卵達は歓喜の声をあげた。
女マネージャーが訳してくれたのは
今からナンバー1からナンバー3を日本人プロモーターのオレが選ぶ。選ばれた者にはボーナスとして1000ペソを進呈する。
ボスは日本語でお祭りお祭りとオレに言った。
金が絡むと判った途端に卵達はプロの顔になった。オレには誰が一番なのかを選ぶ選定基準が判らなかった。ここはオレの好みで選ぶしかないと思い、顔・身体・雰囲気が良い卵を選定する事にした。
ナンバー3は雰囲気だ。
オレはピンクのTシャツの卵を指差した。フィリピーナにしては背が高く、大きな瞳が印象的だ。唇が薄く鼻筋が通っている。
選ばれた卵はボスに手招きされ、テーブルまで来るとボスから1000ペソを受け取りオレの頬っぺたにキスをしてくれた。
ナンバー2は顔で選んだ。
ずばり安室にそっくりなビキニ姿のフィリピーナ。日焼けし過ぎた安室みたいな卵は金を受け取るとオレに抱きついた。
ナンバー1はプロポーション。
黒いビキニのフィリピーナ。胸の形と小さめのヒップが決め手だった。顔も整っていて文句なしにナンバー1だと思った。
この卵がオレの住む街に来たら間違いなく通ってしまうだろう。拍手されて恥ずかしそうだがまんざらでもない顔をしている。
会場が和やかな雰囲気で充たされていた。
唯一、一人を除いて。
リリィがすごい形相でオレを睨んでいた。
リリィは不機嫌ながらルンピアを口に運んでいる。オレはチャプスイとレチョンとティナパイと格闘していた。
この調子だと明日は食事無しで過ごせそうだ。そんな事を考えていたら目の前にリリィ達のボスがいた。ボスは清潔感が漂う服装で如何にも金持ちそうだ。オレの隣の椅子に腰をおろすとオレに握手を求めてきた。
手を伸ばし握手をすると女マネージャーよりも流暢だが癖のある日本語で
挨拶をした。
ボスは日本に出稼ぎに来ていたらしい。三十年以上も前の話だ。その頃はフィリピーナはジャパユキと呼ばれていた頃で日本人はフィリピン人を蔑みの目で見ていたらしい。ボス自身も相当辛い目にあったと笑いながら言った。それでもボスは我慢してフィリピンに稼ぎの大半を送って金を貯めたそうだ。ビサが切れてオーバーステイを7年して建築現場や工場で働き、フィリピンに帰って来たのが三十二歳の時。それからフィリピンで食べ物屋を手始めに商売を始め、知り合いの薦めでタレントのプロモーションを始めたそうだ。
日本人は戦争でフィリピン人を苦しめたが日本があったから自分は金儲けが出来ているんだと笑いながら言った。
ボスはオレに日本人の好みそうなタレントの卵は誰かとプールで遊ぶフィリピーナ達を指差した。
思い立った様にタレントの卵に声をかけて、プールサイドに整列させた。
総勢43人のフィリピーナ。
ビキニ姿も、Tシャツにショートパンツ姿もいる。
仮想オーディションが始まった。
軽快なダンスナンバーが流れ始め、左端から一人づつウォーキングでボスとオレの前まで来てアピールする。ボスはオレに誰が一番良かったかを決めろと耳打ちした。
卵達はオレを日本のプロモーターと勘違いしているらしく真剣にアピールしてくる。
半数程のフィリピーナのアピールが済んだあたりから人数が増えている気がした。よく見るとやはり人数が増えている。
その中にリリィも混じっていた。現役タレントのプライドなのだろうか。
増えた人数は現役タレントだと感じた。卵達は自分のアピール以外は音楽に合わせて軽く身体を揺らす程度だが、リリィを含めた右側に並んだフィリピーナは踊りが出来上がっている様に見えた。
パーティー会場は既にバースデーパーティーではなくなっていた。
フィリピーナ全員がアピールを終わらせた後、ボスが卵達に何かを告げると卵達は歓喜の声をあげた。
女マネージャーが訳してくれたのは
今からナンバー1からナンバー3を日本人プロモーターのオレが選ぶ。選ばれた者にはボーナスとして1000ペソを進呈する。
ボスは日本語でお祭りお祭りとオレに言った。
金が絡むと判った途端に卵達はプロの顔になった。オレには誰が一番なのかを選ぶ選定基準が判らなかった。ここはオレの好みで選ぶしかないと思い、顔・身体・雰囲気が良い卵を選定する事にした。
ナンバー3は雰囲気だ。
オレはピンクのTシャツの卵を指差した。フィリピーナにしては背が高く、大きな瞳が印象的だ。唇が薄く鼻筋が通っている。
選ばれた卵はボスに手招きされ、テーブルまで来るとボスから1000ペソを受け取りオレの頬っぺたにキスをしてくれた。
ナンバー2は顔で選んだ。
ずばり安室にそっくりなビキニ姿のフィリピーナ。日焼けし過ぎた安室みたいな卵は金を受け取るとオレに抱きついた。
ナンバー1はプロポーション。
黒いビキニのフィリピーナ。胸の形と小さめのヒップが決め手だった。顔も整っていて文句なしにナンバー1だと思った。
この卵がオレの住む街に来たら間違いなく通ってしまうだろう。拍手されて恥ずかしそうだがまんざらでもない顔をしている。
会場が和やかな雰囲気で充たされていた。
唯一、一人を除いて。
リリィがすごい形相でオレを睨んでいた。
1時を過ぎた辺りにリリィの携帯が鳴った。お迎えが来たらしい。
アサワコ行きましょ
オレはアサワコと呼ばれるのが嫌いだ。ベテランの人が言っていた。
アサワコやマハルコは仕事上、誰もが言うサービスだ。本当の恋人なら名前で呼ばれる。
それを聞いてからリリィの仕草もパブの仕事の延長に感じてしょうがない。
ホテルのロビーには三十歳を過ぎた位の女が一人来ていた。リリィは近寄りハグをした。
リリィがその女をオレに紹介した。その女は結構流暢な日本語で、リリィのマネージャーだと言った。
女マネージャーの運転する車に乗り込み、マカティの大きな通りを過ぎロハス・ブルバードに入った。ヴィサヤ出身のリリィが唯一知っていたストリートの名前がここだった。
渋滞の中、一時間位走っただろうか大きな赤いゲートがある家の前に着いた。どうやらここが目的地のようだ。ゲートの前にショットガンを持った警備員が一人いた。女マネージャーが何かを告げると警備員はゲートを面倒そうに押し開けた。
ゲートの中には高級車が並び、沢山の人がいた。
それにしても大きな家だ
女マネージャーがオレとリリィをエスコートして家の中に入る。家の中は派手に飾り付けられていて何かのパーティーだろうと予想は出来た。
あちらこちらでビールを片手に賑やかな音楽に合わせて踊っている。
にわかダンサーの間を抜けて中庭に出ると目の前にはプールが二つ見えた。まるでリゾートホテルのプールの様で、きっちり手入れされて刈り込まれた芝生と聖母マリアの像があった。
プールの周囲には沢山のテーブルがあり、女マネージャーは空いているテーブルにオレを招き座らせた。
全く事態が見えていないオレにここで待っている様に告げるとリリィを連れて席を立った。
幾らか落ち着きを取り戻し周りを観察すると若いフィリピーナが大半を占めていた。一段高くなった所にあるテーブル席に女マネージャーとリリィが見えた。
その席には六十歳位の男とドレスを着た七歳位の女の子がいた。
それを傍観しているとボーイの様な格好をした男が来て、オレに何か話しかけた。早口で喋った男の言う事が理解出来ずにオレは顔だけ笑っていた。もっとも、この男がゆっくり喋ったとしてもオレに理解出来る筈がない。
再度、男が早口で話しかけてきた。
分からないと言うフィリピンの言葉が分からないので万事休すだ。
何かをオレに聞いているのだとは感覚で判った。
早く消えて貰いたくて男の問いかけに笑いながら頷いてみた。
再度男から問いかけ。
又々、頷いてみる。
納得したのか男が何処かに消えた。
暫くすると女マネージャーとリリィが戻ってきた。
事の顛末を聞くと女マネージャーが説明しだした。
今日はドレスを着た女の子の誕生日で一緒にいた六十歳位の男は女の子の父親でプロモーションのボスである事。パーティーに来ているのはプロモーションの関係者ばかりで、若いフィリピーナはタレントかタレントの卵ばかりである事。オレは単なるゲストで、女マネージャーが初めてフィリピンに来た日本人に気を使ってくれただけと言う事。
疑問が解けて安心したら喉が乾いた。
リリィがビールを持って来ると同時に先程のボーイ男が山盛りの料理を持って来た。
リリィと女マネージャーがボーイ男に何か言うとボーイ男は心外だと言う態度でオレに視線を向けて言葉を返した。ボーイ男が消えてリリィが笑いながらオレに言った。
先程、ボーイ男は料理の量を聞いていたらしい。三人分でいいかと聞いた時、笑っていただけだった。もっと持ってきた方がいいかと聞いた時は首を縦に振り、レチョンは好きかと聞かれても首を振っていた。
大量の料理の前でオレは言葉の重要性を噛み締めていた。
アサワコ行きましょ
オレはアサワコと呼ばれるのが嫌いだ。ベテランの人が言っていた。
アサワコやマハルコは仕事上、誰もが言うサービスだ。本当の恋人なら名前で呼ばれる。
それを聞いてからリリィの仕草もパブの仕事の延長に感じてしょうがない。
ホテルのロビーには三十歳を過ぎた位の女が一人来ていた。リリィは近寄りハグをした。
リリィがその女をオレに紹介した。その女は結構流暢な日本語で、リリィのマネージャーだと言った。
女マネージャーの運転する車に乗り込み、マカティの大きな通りを過ぎロハス・ブルバードに入った。ヴィサヤ出身のリリィが唯一知っていたストリートの名前がここだった。
渋滞の中、一時間位走っただろうか大きな赤いゲートがある家の前に着いた。どうやらここが目的地のようだ。ゲートの前にショットガンを持った警備員が一人いた。女マネージャーが何かを告げると警備員はゲートを面倒そうに押し開けた。
ゲートの中には高級車が並び、沢山の人がいた。
それにしても大きな家だ
女マネージャーがオレとリリィをエスコートして家の中に入る。家の中は派手に飾り付けられていて何かのパーティーだろうと予想は出来た。
あちらこちらでビールを片手に賑やかな音楽に合わせて踊っている。
にわかダンサーの間を抜けて中庭に出ると目の前にはプールが二つ見えた。まるでリゾートホテルのプールの様で、きっちり手入れされて刈り込まれた芝生と聖母マリアの像があった。
プールの周囲には沢山のテーブルがあり、女マネージャーは空いているテーブルにオレを招き座らせた。
全く事態が見えていないオレにここで待っている様に告げるとリリィを連れて席を立った。
幾らか落ち着きを取り戻し周りを観察すると若いフィリピーナが大半を占めていた。一段高くなった所にあるテーブル席に女マネージャーとリリィが見えた。
その席には六十歳位の男とドレスを着た七歳位の女の子がいた。
それを傍観しているとボーイの様な格好をした男が来て、オレに何か話しかけた。早口で喋った男の言う事が理解出来ずにオレは顔だけ笑っていた。もっとも、この男がゆっくり喋ったとしてもオレに理解出来る筈がない。
再度、男が早口で話しかけてきた。
分からないと言うフィリピンの言葉が分からないので万事休すだ。
何かをオレに聞いているのだとは感覚で判った。
早く消えて貰いたくて男の問いかけに笑いながら頷いてみた。
再度男から問いかけ。
又々、頷いてみる。
納得したのか男が何処かに消えた。
暫くすると女マネージャーとリリィが戻ってきた。
事の顛末を聞くと女マネージャーが説明しだした。
今日はドレスを着た女の子の誕生日で一緒にいた六十歳位の男は女の子の父親でプロモーションのボスである事。パーティーに来ているのはプロモーションの関係者ばかりで、若いフィリピーナはタレントかタレントの卵ばかりである事。オレは単なるゲストで、女マネージャーが初めてフィリピンに来た日本人に気を使ってくれただけと言う事。
疑問が解けて安心したら喉が乾いた。
リリィがビールを持って来ると同時に先程のボーイ男が山盛りの料理を持って来た。
リリィと女マネージャーがボーイ男に何か言うとボーイ男は心外だと言う態度でオレに視線を向けて言葉を返した。ボーイ男が消えてリリィが笑いながらオレに言った。
先程、ボーイ男は料理の量を聞いていたらしい。三人分でいいかと聞いた時、笑っていただけだった。もっと持ってきた方がいいかと聞いた時は首を縦に振り、レチョンは好きかと聞かれても首を振っていた。
大量の料理の前でオレは言葉の重要性を噛み締めていた。