
映画館を出た時、ほとんどの男性が肩を揺すりながら、ゆっくりと煙草をくゆらしていた。眉間にしわを寄せ、広島なまりで叫ばんばかりに・・・。その映画こそ、1973年に東映系で上映された「仁義なき戦い」なのだ。かつて観た、「お控えなすって・・」の任侠映画ではなく、それはまさに仁義なき抗争を繰り広げる実録物のやくざ映画だった。主役の名は広能昌三。菅原文太が演じたのか、広能昌三が降臨したのか、それさえわからなくなるほどのはまり役だっただろう。私なんて、当時は本物の人かと思っていたほどに。写真のレコジャケは、「仁義なき戦い」完結編の挿入歌「吹き溜りの詩」なのである。♪風がからだを吹き抜けて、後は渇いた夜ばかり。骨の髄までやせこけた、影を引きずる吹き溜り♪というシビレタ歌詞が、切ない横顔にぴったりマッチしていた。縦縞のスーツが日本一似合うと思っていたら、しかしその2年後にはすっかり「トラック野郎」になっていた。75年から始まった映画ではあるけれど、今度はトラック野郎一番星の星桃次郎役。ドキュメントかと思うほどのシリアスな演技からコメディまで、菅原文太は徹底的に演じきる。役者って、ホントに凄いと感じた数少ない人だった。私の青春時代を輝かせた菅原文太兄い、お疲れさま。そして有り難う。
