
あるバラエティ番組を観ていたら、中村里砂という少女が出演していた。話を聞くと中村雅俊の3女だという。ということは、五十嵐淳子の娘でもあるということだ。中学時代のほんの少し、私は五十嵐淳子に心を奪われた。いやまだ、五十嵐じゅんだった頃。写真のレコジャケは、そんな1972年の貴重な楽曲「愛のシーズン」なのである。歌がうまいか、と聞かれれば即答で否と答えよう。曲がいいのかと聞かれても、首をかしげるに違いない。では何がそこまで・・と問われると「魔性」と言うよりほかはない。天地真理や麻丘めぐみ、浅田美代子など当時のアイドルにはなかった色気のようなほのかな香りを、あの頃の五十嵐じゅんは持っていたのだ。「ベスト30歌謡曲」という人気番組をキンキンこと、愛川欽也が司会を務めていたけれど、そのアシスタント的な役割で五十嵐じゅんは側にいた。その存在感は、中学生だった私に、なぜか禁断の恋を連想させた。中年のオヤジに寄り添うその女性に、行儀悪く言えば不倫の匂いがしたのだろう。実に勝手な思い込みである。いつしか、五十嵐淳子と改名し、私のそんな思い込みは消えていった。けれど、75年の映画「阿寒に果つ」で魅せた妖艶さを私は忘れない。中村里砂を見た一瞬、あの時の香りが、ふと私の横を通り抜けた。
