
梅雨空はうっとおしいばかり。ただ、こんなグレイの空を見ていると、かつて観たひとつの映画を思い出す。1975年、萩原健一主演の「雨のアムステルダム」だ。アムステルダムに単身駐在している弱小商社マンの恋とミステリー、カンタンに言うとそんな内容だった。それよりも釘付けになったのは、そのグレイの街並に、風景に映える、ショーケンのファッション。ベージュと黒を着分けるバーバリーのトレンチコート、BIGIのスーツに、ザックリしたマフラー。この映画は、ただただショーケンを観るためのプロモーションフイルムと言ってもいい程、はっきり言って内容は無かった。映画として秀逸だった72年の「約束」や、驚くほど小説とは違っていた74年の「青春の蹉跌」の様に、脚本や演出の冴えは無く、だけど私はスクリーンに映し出されるショーケンの一挙手一投足を観て、学び、興奮していた。この年、75年は伝説のバンドキャロルが解散し、平和の象徴だった佐藤栄作元首相が死去した年。なんとなくしらけた時代に、ショーケンだけが眩しかった。どんよりした雨の街を歩くと、この映画を思い出す。だけど、アムステルダムという都市がオランダだったと知ったのは、この映画を観た後だった。
