
1977年5月、伝説のあの番組は始まった。「うさぎ屋」という下町の足袋屋を舞台にしたホームドラマ「ムー」である。ここまで豪華で鮮烈な作風のドラマを私は知らない。まず店主が伊東四朗、職人に伴淳三郎と左とん平がいて、樹木希林までいた。ほぼ主役の次男が郷ひろみで、お手伝いさんが岸本加世子。そして、写真のレコジャケ「帰らない」が大ヒット中の清水健太郎が長男だった。構成や演出が久世光彦氏ということも凄いけれど、当時いちばん驚いたのは、横尾忠則氏のオープニングイラストだった。それまで、少年マガジンの表紙や健さんの任侠映画のポスターではお馴染みだったけれど、TVの、しかもホームドラマのオープニングに、ピラミッドやUFOや桜吹雪が登場することに震撼したのだ。そのセンスの良さに驚き、ドラマにしびれた。その中、トレンチコート姿で雨に濡れ、ただ立っているだけのシーンに登場する家出した長男が、清水健太郎だった。「失恋レストラン」後、超人気だった頃に、セリフのない立っているだけの役を与える久世光彦も素晴らしいが、それを渋い表情で演じきっていた健太郎もカッコ良かった。私の記憶では、そのシーンはだいたい9時45分頃だった。77年の伝説。あの頃も、清水健太郎も、もう「帰らない」けれど。
