昔書いた物語に一人の少女がいました

 少女は人々を滅ぼすために産まれて

 人々に意味嫌われていました

 差し伸べた手は振り払われ

 投げかけた言葉には耳をふさがれ

 愛の意味もわからず

 魔王となっていく一人の少女の話でした

 

 それはある意味で僕の心を救うための物語だったのかもしれません

 

 近づくほどに人に嫌な思いをさせてしまう

 何もかもが捻じれて思い通りにいかず、不安になって、不満になって、苛立たせてしまう

 少し前にそれを否定してくれた人がいた

 誰もそんなことは思っていないから、もっと近づいたらいいんだよ

 気にせずに仲良くするといいよと

 だけどその人も同じように苛立ち遠ざかっていきました

 

 何故かはわかっています

 

 僕はもう終わっているのです

 物語として終わっているので

 これ以上、何も望んでいないのです

 

 例えばドラマでいえばクライマックス

 ゲームでいえばクリアした後

 そのあとちょっとだけある後日譚

 それが長々と続けば

 誰だって退屈する

 

 鬼退治した後の桃太郎の日常が長々と続いても退屈だし

 シンデレラが結婚した後の王女としての生活をだらだらと続けられても鬱陶しいだけ

 

 僕自身変わろうといろいろな事をしてきたけれど

 やはり一度終わってしまったあとというのは如何ともしがたいものです

 

 なので一度全てを消去してしまおうと考えました

 自分の物語をすべて消去して

 記憶を無くして

 ゼロからスタートして

 新しい物語を始めるのです

 

 幸いにも環境が変わったばかりで

 「ボク」というものを知っている人はまわりにほとんどいません

 

 他人の物語にもいろいろと参加していましたが

 頃愛よくサブキャストとしての出番は終わり

 今は誰の物語からも消えても問題はなさそうです

 一カ月もすれば出てた事さえ忘れてしまうでしょう

 

 皆から忘れてもらえるというのは

 なんだか淋しいことのようですが

 嫌われていた「ボク」の記憶なんて残っているより

 忘れられた方が良いのでしょう

 

 まあ記憶をなくして

 新しい物語を始めるといっても

 ゲームを新しく始めるのとは違うのですが

 

 やはり誰も知る人がいない世界で

 僕が全ての過去を否定して始めれば

 うまいことやれるかもしれないと思うのです

 演じるのではなくて

 フォーマットして新しく構築していくのです

 一度自分の価値観や考え方を全てゼロにして

 本当の「ボク」を知る人とのかかわりを断ち

 新しい物語を始めるのです

 

 そしてまた同じ結果になるのか

 違う人生を歩むのかはわかりませんが

  

 ただまあ

 今までの物語も決して悪いものじゃなかったと思います

 素敵な人たちに囲まれて

 素敵な物語を過ごせました

 ちょっと長すぎた後日譚もありましたが

 人生の答えのようなものにたどり着き

 物語りとしては綺麗に完結しました

 

 伏線は全て回収したし

 全ての約束も果たした

 登場した全ての人が幸せを迎え

 ハッピーエンドとなっているコンプリート状態

 あと五日ほど残しているけれど

 もうほとんどクレジットロールみたいなもんだ

 

 このまま何事もなく

 なんの問題も起きず

 静かにエンディングの曲が流れてくれればいい

 あのクレジットのあとに流れる思わせぶりなワンシーンの2に続くみたいなのはいらないから

 あとたったの五日だ

 静かに終われ

 

 楽しく

 優しく

 穏やかに

 五日間が流れていけばいい




 どうやら僕は対人的な潔癖症らしい

 自分がひどく汚れているように感じていて

 その汚れた手(ココロ)で他人に触れるのを怖れている

 だから手袋をするように

 綺麗なもので自分を覆って他人と接しようとする

 良い人を演じている

 

 千鶴さんの分析は確かに間違いないと思った

 

 まあそこで出してくる案が千鶴さんらしいといえば千鶴さんらしい

 

 いっそのこと自分を消去しちゃえばいいじゃない

 

 

 本当に簡単に言ってくれる

 まるで汚れた物を捨てて新しく買い替えるように

 軽々しく

 

 まあでもそれもありかもしれないと思った

 ずっとずっとこの汚れがコンプレックスになって

 気にし続けるのなら

 

 それでも三十年間ほどのメモリーを消去するのは

 やはりためらいもある

 

 でも今は確かにチャンスだ

 

 自分に関わる全てのストーリーが終了している

 

 ナグミお姉さまは新しい恋に夢中で邪魔をするのは野暮ってものだし

 先生も無事に立ち直って新しい道を歩き出したし

 関わってきたストーリーが全てエンディングを迎えた状態である

 

 フォーマットするにはベストな状態なのだろう

 きっと誰も気づかないまま

 僕は消えられると思う

 

 大体のメインキャストと思われる人にはお別れの挨拶は済ませた

 

 最終日も仕事のようなので今から少しずつケータイを処理したりパソコンを処理したりしていかなくては

 

 少し早いセカンドライフか 笑

 

 こうやって本当に全ての関係を断ち切って

 連絡する手段を失い

 記憶を無くして

 次の人生がスタートして

 

 それでもまた出会える人がいたら

 奇跡というか悪運というか

 

 あと一週間をどう過ごそうか

 何かを残すかと思ったりしたけれど

 何もないなぁ

 最後に誰かに会いたい気もするけれど

 そんな決意が鈍る様な事をする気にもなれないし

 

 やっぱりあそこへ行こうか

 あの京橋の

 あの橋の上で

 

 まるであの日をやり直すように

 

 今度は僕が向こう側に立って

 手を振るのだ

 

 

 

 とりあえず最後の一週間ぐらい

 好き勝手やって

 華々しく

 はじけるように過ごしてみようか

 

 

 ほのぼのとした夢をみました

 サーモマグにロイヤルミルクティーを入れて

 栄光の入江公園に出向いて

 三匹のウサギと丘の上に登って

 望遠鏡で青い星をみると

 

 僕の大好きなナグミお姉さまが

 赤ちゃんをだっこして

 やさしそうな旦那さんと春の桜舞う道を散歩していて

 幸せな家庭を築いているのです

 

 先生は無事に試験に受かり

 キャンパスで難しそうな本を片手に

 エスプレッソを口にしています

 

 そんな光景を眺めていると

 ウサギたちがお腹が空いたというので

 サンドイッチとミルクティーで

 アフタヌーンティーを楽しんでいると

 まるでシガロスのPVのように灰が降ってきて

 ウサギたちがはしゃぎだし

 まるでダンスを踊っているかのようでした

 

 ゆっくりと時間が流れていき

 世界が優しさに満ち満ちているようで

 少しの切なさが

 心地よく

 とても綺麗です

 

 そんな中で目を覚ましました

 布団を出るとやけに寒いです

 外は曇り空です

 

 春はもうすぐそこまできているのでしょうか

 幸せが皆の元に訪れたら

 夢が正夢になったら

 どんなに素晴らしいのでしょう

 

 ポットにお湯をわかして

 ロイヤルミルクティーを入れて

 昨日買ってきたサンドイッチを頬張るのです

 

 よし行こう

 今日一日が

 誰にとっても

 素晴らしいものでありますように