イスラエルの首相ベンヤミン・ネタニヤフの汚職疑惑とその影響を描いたドキュメンタリー。

 

2017年。イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは、財界やメディアとの癒着、贈収賄、利益供与などの汚職疑惑で刑事訴追される。この捜査の過程で、警察が行ったネタニヤフ本人やその側近への尋問映像が極秘にリークされる。制作チームはこれらの映像を入手し、政権の裏側と疑惑の実態を映像で追うことを決断する。 元首相エフード・オルメルトや情報機関シンベトの元長官、ネタニヤフの元広報担当者、調査報道ジャーナリストらが登場し、公的な立場では見られない首相の素顔や側近の動きを赤裸々に映し出す……。

 

贅沢な贈答品を巡る疑惑、メディアを操作した疑惑、特定企業を優遇した疑惑という3つの柱を順に追いつつ、これらの疑惑から逃れるために戦争をしかけたのでは?と「推測」できるように構成したドキュメンタリー。

 

なにがすごいって、流出した捜査映像に加えてインタビューに答えているのがガチで中枢にいた人ばかりという点だろう。それっぽい専門家が推測で語っているのではなく、本当に疑惑の周辺にいた人たちが喋っているのがすごい。その上で、「ネタニヤフまじでヤバいじゃん……」とドン引きするような話や映像ばかりがガンガン出てくるので、そんじょそこらのフィクションなんかよりずっと怖かった。

 

疑惑と戦争を結びつけている部分については、(その見方はある程度真実なんだろうとはいえ)中立とはいえないわけだが、それでもそこまでやらないと意味がないと考えた上での構成なのだろう。明確に「この人は悪い人です!」という主張をしている作品なのでね。正義感に貫かれた制作姿勢が非常にハッキリとしている。ちなみに、特に驚いたのはネタニヤフの息子のインタビュー。完全なるネトウヨと化していてビックリした。

 

 

『ズートピア』の続編。1作目の感想はこちら↓シドニーで観たらしい。

 

 

ズートピア警察で正式なパートナーとなったウサギのジュディ・ホップスとキツネのニック・ワイルドは、ある日、市内で突如目撃されたヘビの手がかりを追うことになる。ズートピアでは長らくヘビは存在しないものとされていた。ニブルズという陰謀論ポッドキャストの配信者に協力を要請したり、ズートピア創設者一族の巨大プロジェクトとの関わりが明らかになる連れ、ジュディたちはズートピアに隠された秘密に迫ることになり……。

 

よくできてたー!!かなり展開が速く割と細かいネタが多いので、ストーリーについていくのがやっとという人はいるかもしれないが(小さい子も)、総じて非常に特典が高いな!という作品だった。

 

ただ、未自覚の差別意識を扱っていた1作目よりも描かれている差別構造自体はわかりやすいので、解釈という意味では易しめになっていると感じた。

 

【以下ネタバレあり】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘビ(爬虫類)が権利を奪われ、住む場所を奪われ、被差別者として徹底的に無視されているという設定は、ネイティブアメリカンや植民地支配、さらにはパレスチナ問題までをも包括するわかりやすいメタファー。最初にズートピアを発案したのはヘビというポイントは「本来の権利」を強調しているので、けっこうハッキリとパレスチナ問題を視野に知れているのだと思う。ネイティブアメリカン居留地や、パレスチナ自治区を彷彿とさせる場所も出てくる。この辺りは日本の子どもには少し難しいかもしれないが、ネイティブアメリカンについておそらく早くから学んでいるであろうアメリカの子どもたちには理解しやすいのではないだろうか。

 

1作目では人々の内部にある差別意識をフィーチャーしていたが、2では歴史の改ざんや権利の剥奪といった、わかりやすく悪意に満ちた支配的な行為がフィーチャーされている。もちろん、そこから長い時間をかけてズートピアの住人たちの中に育っていった差別意識も描かれているわけだが、もはや「ヘビは存在しない」という段階にまで達しかけているのが恐ろしい。古今東西に伝わるモンスターや妖怪の伝説もこうやって醸造されていったんだろうなというリアリティがある。

 

ジュディとニックのバディ感もレベルアップしていて、ほとんど恋愛関係すれすれまで行くわけだが、基本的にずっと煙に巻くような台詞でイライラさせたニックが、クライマックスの対話では気恥ずかしくなるほどに真っ直ぐな言葉を発したのが上手い。前作よりも冷笑系代表みたいな性格が強まっている気がしたニックに正直ちょっとイライラしていたのだが(本作では冷笑系へのカウンターといった要素も強く押し出されていて、同時代的な作品として徹底している)、あのクライマックスの対話ではまんまとトキメキましたね。

 

陰謀論ユーチューバーをメインキャストにしたり(←頭の回転が速すぎる)、What Does the Fox Say?などのポップカルチャーネタもガンガン入れ込んでいたりする部分については好みが分かれるかもしれない。子どもよりも大人目線ではあるしね。ただ、アザラシで因幡の白うさぎみたいな感じになるシーンなど、子どもがゲラゲラ笑いそうな要素もそれなりに用意されているので、全部は理解できなかったとしても小さい子でも楽しめるとは思う。原罪を象徴するとされるヘビをあのポジションに置いたことも、オーソドックスで分かりやすいしね。面白かったです!

 

 

 

 

 

 

 

 

演劇プロジェクト EPOCH MAN 制作。2023年8月に初演された作品の再演。
 

 父を亡くした少年・星太郎 と、その父を探し続ける 母・宇佐美。母から「お父さんは星になった」と告げられた星太郎は言葉を失い、ただ空を見つめる日々を送っていたが、ある日ふと姿を消す。母は息子を探すために外へと踏み出し、道中でさまざまな人々と出会うのだが……。

 

星太郎をパペットで表現し、死から発する考察を感動的に描き出した傑作。

 

父の死をいう喪失をどう受け入れるのかという大きなテーマを主軸に、偶然出会う人々それぞれも喪失と向き合っていく。物語の眼差しは常に宇宙に向いており、星々の誕生と消滅が人間の誕生と消滅に重ねられ、美しい映像と相まって思考は果てしなく広がっていく。円環を描くようだった息子を探す母の旅は、いつしか直線を疾走する運動へと変化してスピードを増す。このクライマックスが実に感動的だった。生の舞台ならではの体感が伴っていて、久々に舞台鑑賞でしか得られない喜びを浴びた気がした。

 

「人は死んだらどこに行くのか」「大切な存在の死をどう受け入れるのか」という根源的かつ普遍的なテーマを、直球かつロマンチックに、さらにはパペットと映像という独特の演出を通じて見事に深めている手腕に素直に涙が出た。悲劇でもなければ、説教でもなく、そっと手を差し伸べて受け止めてくれるような広がりは、誰かを失ったことがある人の心を救うだろう。また上演されることがあったら息子を連れて再度鑑賞したい。