難民としてイギリスに渡った、生まれつき耳が聞こえないクルド人の少年を追ったドキュメンタリー作品。

 

イラク領クルディスタンで暮らす少年ラワンは、生まれつき耳が聞こえないため周囲の子どもたちからいじめられ、孤独な日々を送っていた。ラワンの両親は彼の将来を案じ、家族で国外への移住を決断する。危険な旅と難民キャンプでの過酷な日々を経て、ついにイギリスの都市ダービーへたどり着くことができた。そこでラワンは王立ダービーろう学校へ入学し、初めてイギリス手話や口話を学び始める。最初は戸惑いながらも教師や友人たちとのコミュニケーションを重ねるなかで、ラワンの世界は広がっていった。手話を自らの言葉として獲得した彼は、自己表現の力を深め、静かに成長していく。しかし家族には文化的な価値観の違いや難民認定審査といった現実の壁が立ちはだかり……。

 

故郷では他者とうまく意思疎通を図ることができず、周囲の無理解に苦しんでいたラワン。ラワンのためにと国外脱出を決めた家族は過酷な難民生活を送ることになるが、その途中でラワンは「手話」という存在を知り、最終的にイギリスに辿り着く。

 

王立ろう学校で優しく温かく見守られながら、ラワンは徐々に手話を取得していく。同時に、自己主張することも友達と楽しく過ごすことも覚えていく。この過程がとても生き生きとしていてダイナミック。言葉を取得することによっていかに世界が大きく広がっていくのかということをまざまざと見せつけられ、まるで光を放っているかのようにすら感じられた。

 

一方で、難民として無条件に家族が受け入れられるというわけではないため、常に国外退去のリスクがつきまとっているという事実も描かれていく。ラワンの主語習熟度も難民申請受け入れの条件のひとつ。ラワンがとても聡明で外向的なタイプだから良かったものの、もしそうでなかったら……と考えると複雑な気持ちにもなる。もちろん、ラワンの成長以外にも難民申請受け入れの判断材料は複数あるのだろうけれど。

 

本当にドキュメンタリー?と疑いたくなるほど抒情的なカットや決まりすぎたアングルでの人物ショットなどに溢れている作品で、音を消して見たら劇映画だとしか思えないんじゃないかというクオリティ。美しく希望に溢れた良作だった。

 

 

 

オーストラリア出身のマイケル・シャンクス監督による長編映画デビュー作。

 

できずにいるティムと、安定した職に就くミリーとの間には、言葉にされない溝が生まれつつあった。二人はこの閉塞感から逃れるため、都会を離れ、森に囲まれた田舎の一軒家で新しい生活を始める決断をする。引っ越し直後、二人は周囲を探索する中で道に迷い、森の奥深くに口を開ける不気味な洞窟へと足を踏み入れることになる。そこで一夜を過ごしたことを境に、日常はゆっくりと、しかし確実に歪み始める。ティムは自分の身体が自分の意志に反して動く感覚に襲われ、理由のわからない衝動や混乱に苦しめられるようになり……。

 

なぜか身体がくっついてしまう怪奇現象に倦怠期カップルが苦しむボディホラー。身体がくっついてしまうという現象を京依存のメタファーにしていてとてもわかりやすく、グロだけではなく思わず笑ってしまうようなテイストも混ぜ込んだ上質なミニマルホラーに仕上がっている。

 

出だしの送別パーティの時点で不穏でしかない。友人たちもティムもイマイチ賛成できないでいる田舎への引っ越しを、これまた「これでいいんだろうか……」と思いながら実行するミリー。でも、教師なので職場への手続きが進んじゃってたら引き返せないもんねえ。ティムとミリーの間にはかなり微妙な空気が流れているものの、引っ越しを強行。これ、万が一破局してティムが去ったりしたら地獄だよな。あんなところに1人で暮らすとか怖すぎる。

 

ミリーは、ティムが安定した職についてくれるといいなあと思いつつ、それが無理だとしても結婚して落ち着いた環境で子育てができたりしたらハッピー♪みたいな未来像を描いていたのだろう。倦怠期まっただ中のふたりの間に新しい風を吹かせることもできるし、都会で成功者たちを見ることでティムが焦ったり落ち込んだりする機会も減って、精神的にも安定するのでは?といったところか。もちろん当然のことながら、そんなにうまく物事は進行しない。画面はずっとジメジメとしていてなんだか暗いままだ。

 

そしてふたりがハイキングに出かけて、洞窟に落ちてしまってから物語は歪な方向にカーブを切り始める。

 

何が起きているのか?なぜこんなことが起きているのか?という謎が深まっていき、最終的には正解を提示するという構成になっているのだが、新居をセットアップしているときにティムが気づく異臭とその顛末&ティムのトラウマ、ミリーの同僚や失踪したカップルやギリシャ神話といったモチーフなど、周到に配置された伏線やメタファーが気持ちよくハマっていくので程よく知的好奇心が満たされて満足度が高い。

 

また、加速していく「身体がくっつく」という描写もバラエティに富んでいて、ものによってはかなり間抜けで笑える。実際に夫婦だというデイヴ・フランコとリソン・ブリーの息もピッタリで、さぞかし撮影は楽しかったことでしょうという感じだ。まあそうなるよねというブラックなラストも含めて、しっかり考察系ホラーを観たなという充足感が得られる佳作。

 

サム・ライミ監督作品。

 

会社員のリンダは数字に強く有能であったが、日々理不尽なパワハラを繰り返す上司ブラッドリーのもとで息の詰まるような日々を過ごしていた。ある日、リンダとブラッドリーは出張のために飛行機に乗り込むが、その機体は嵐のなかで制御を失い、海に不時着する。目を覚ますとそこは見渡す限りの孤島で、生き残っていたのはリンダと怪我を負い身動きの取れないブラッドリーだけであった。助けもなく逃げ道もない環境で、リンダは持ち前のサバイバルの知識と技術を活かし、まずは水と食料を確保しシェルターを作るなど状況の立て直しを図る。ブラッドリーは負傷のため何もできず、次第に力関係は逆転していき……。

 

あはははははは。しょーもな!!!

 

飛行機事故によって無人島に不時着した上司と部下。オフィスでは徹底的に下に扱われていた部下だったが、『サバイバー』の大ファンだったことからサバイバル能力に長けていて活躍しまくり、上司に対して優位に立つにいたる。

 

最初から復讐心全開でいくのかと思ったらそうでもなく、心理状態も立場も頻繁に揺れ動くのが面白かった。あんなに上手いことサバイブできるのか?とか、オフィスにいるときより綺麗になってるじゃんとか、ひと昔前のMVかよ!というノリの滝シーンとか、とにかくツッコミどころしかない要素で埋め尽くされている。そして、極めつけが途中途中に挟まれるしつこすぎるグロシーン。失笑が徐々に大きくなり、最終的に爆笑を引き起こすという力技でもう……レイチェル・マクアダムスになにやらせてるんだよ!笑っちゃうけどズルい。

 

パワハラ&セクハラ被害者によるリベンジものと見せかけて、昔ながらのジェンダー観バリバリの展開も多く(わざとなんだと思うが)、表現面でもテーマ的にもなんともいえないごった煮具合。どっちが悪役なのかもわかんなくなるしね。パワーバランスというものがいかにコンテクストに依存しているか、不安定で脆いものであるかというのをめまぐるしく見せてくれる作品ではあった。結果的には生きる力が強いやつが強い!というシンプルな話でもある。

 

気軽に笑い飛ばせる刺激が強めの映画が観たい方にはおすすめ。