休暇中鑑賞日記

休暇中鑑賞日記

8年ほど主に舞台のプロデューサーをやっていました。新卒以来はじめての長期ゆったり期間突入。しばらく何でも鑑賞しまくります。

田中征爾長編映画監督デビュー作。主演俳優自身がプロデューサーをつとめている。クラウドファンディングでお金を集めてるのかな?とにかく手作り感が強い快作。

 

東大を卒業後、就職せずにアルバイトをしながら実家に暮らす和彦は、近所の銭湯で学生時代の同級生の百合と再会する。百合に勧められたのがきっかけで、その銭湯でバイトをすることにした和彦だったが、銭湯には裏の仕事があった。ヤクザ田中の指示で、ターゲットを誘拐してきて殺害し、遺体の処理を行っていたのだ。秘密を知った和彦も遺体処理を手伝うようになり……。

 

とてもヘンテコで、面白い作品だった。私は『カメラを止めるな!』よりも好き。ストーリーはグロ系なのに、全体としてはとぼけた雰囲気のコメディに仕上がっている。とはいえ、ふざけているわけでもなく……なんだろう。ズレ方が絶妙なんだよな。

 

主演の皆川暢二は矢野聖人みたいな顔したイケメンなのだが、なぜあんなにリアルに東大卒のオタクっぽい青年(でも、ガチオタって雰囲気でもない)を表現できるのか謎。私も一応東大卒なので敢えて言わせてもらうが、「マジでこういうやついる!」と驚いてしまったほど完璧。どういう観察眼持ってるの。

 

ぶっちゃけ、ストーリーにリアリティはない。百合が最初から主人公に好意的なのも、あの銭湯にただの素人の主人公が雇われるのも、色々とバレないのも、家族の対応も、ほとんど全ての要素が非現実的だ。

 

でも、先輩殺し屋の小寺の人物造形や身のこなしが異様にリアルだったり、百合の言動が恐ろしく可愛かったり、銭湯のオーナーである東の淡々とした口調が妙に説得量があったりするので、醒めることなく引き込まれて行ってしまう。「実際はこんな感じなのかも」と思わせるリアリティが僅かに残されているのだ。

 

そして、もう一人の主役である同僚の松本のキャラが効いている。プロの殺し屋として生きてきたが、まっとうな人間でいたいという気持ちを手放せないという玉虫色のキャラクターがとっても魅力的。常に敬語だったり、人好きのする笑顔を見せたり、とにかく好感度が高い。後半は松本の魅力で引っ張っている部分が大きく、特に車の中の会話シーンは秀逸だった。

 

また、血の量を極端に少なくするなど、グロの迫力を敢えて抑えているのは結構な勇気だったと思う。こういったストーリーの場合、ブシャー!とかギャー!とかやりなくなっちゃうだろうに、あくまでも日常から逸脱しないレベルで、クスっと笑えて応援したくなる寓話に仕上げている。派手な要素(殺人とか)よりも、各人間像の豊かさの方が印象に強く残るのが◎

 

ラストも良い。物語の性質上、どう考えてもハッピーエンドになるわけがないのだが、そのことを強調した上で持ってきたあのラスト。刹那的で儚くも、キラキラした若さがあって私は好きだった。

 

手作り感やリアリティのなさが気になる人もいるかもしれないが、プロットや技巧にこだわりまくるというよりは、細かい部分にポイントを分散させて独特の世界をつくり出したという点で、個人的には『カメラを止めるな!』よりも好みだった。なんかクセになるんだよな。もう1回観たい。

 

1990年代に実在した韓国側のスパイのお話。スパイものであり、歴史ものであり、友情ものであり、一種のラブストーリーでもあるゴージャスな傑作。

 

元軍人のパクは、工作員として北朝鮮の核開発の実態を掴むように指示される。実業家に扮したパクは、北朝鮮の外交を一手に握るリに接近。警戒されながらも距離を知事めていく。北朝鮮で韓国企業のCMを撮影するという事業をプレゼンし、金正日との面会にも成功したパク。いよいよこれからというとき、大統領選をめぐる裏取引のせいでパクの計画が頓挫しそうになり……。

 

もうね、強烈に面白いわけです。緊張と弛緩のバランスとか、眼球の光だけで物語ってしまう演技力とか、適度に散りばめられたエンタメ性とか、着目すべき点は色々あるんだけど、なによりもまず滅茶苦茶に面白いわけです。

 

とにかくテンポよくスタートする《起》、スピード感は保ったまま、丁寧な説明を交えつつ作戦が進行する《承》、サスペンスフルに展開する、《転》となる重要な対話シーン、そしてじっくりと魅せるエモーショナルな《結》。完璧。

 

このタイプの韓国映画を観ていつもすごいと思うのは、自国を断罪することに一片の躊躇もないこと。その批判精神は崇高ですらある。少なくとも、本作の中で最も醜悪に描かれているのは北朝鮮ではない。もちろん、北朝鮮を持ち上げているわけでもないが。

 

『哭声』のインパクトが強すぎたせいで、パクを演じるファン・ジョンミンを見ると「ゲロの人」と思うようになってしまったのだが、抑揚のきいた演技が素晴らしかった。工作員として実業家に扮しているときは、声色まで一変する。天然なのか抜け目ないのか判然としない胡散臭さを全身から放つ。


そして終盤に進むにつれ、工作員としてのキャラが普段の物静かな素の要素と融合していくのだが、その過程もきっちり表現している。他のキャストもオーバーギリギリのドラマチックな芝居で見ごたえたっぷり。金正日役のキ・ジュボンなんて、あまりに似すぎていてCGなのかと思った。

 

そして、エモすぎるラストに興奮。感情がほとばしりすぎていて、あんなの大恋愛を描いたラブストーリーでもお目にかかれないよ!

 

 

1984年夏。アメリカの郊外に住む少年デイビーは、仲良しの男子3人とトランシーバーで連絡を取り合い、秘密基地に集ったりして思春期らしい日々を過ごしていた。その頃、町の界隈では少年が攫われ殺される事件が連発していた。デイビーは、向かいの家に住む一人暮らしの警官が犯人なのではないかと疑い始め、仲間たちと調査を開始するのだが……。

 

ひ弱なミステリーオタク、不仲な両親と粗野な兄を持つ不良っぽい子、ぽっちゃり、変わり者のめがねという『スタンド・バイ・ミー』そのまんまの4人組が、80年代テイストバリバリのBGMに合わせて青春するジュブナイル系作品。でもって、ホラー。

 

80年代テイストにはとことんこだわっていて、音楽もファッションもノリも楽しい。特に音楽は絶妙なセンスで、冒頭から気分が上がる。ポップで可愛くて懐かしくて◎。

 

ただ、ストーリーがなあ。デイビーが疑う警官がクロなのかシロなのかという描写自体はなかなかバランスが取れていて、観ているこちらも「もしかしてクロ?いや、シロか?」と転がされる。そこまではいいのだが……いざ物語が急展開してからは粗が目立つ。

 

まず、4人の少年たちをしっかり描けていない。少なくとも、途中から放り出すのはなしだと思うのですが。『スタンド・バイ・ミー』オマージュで始まったのならば、ちゃんと4人の物語として完結させようよ。

 

また、ホラーとしても微妙で、怖さよりも後味の悪さが勝っている。ああいう展開自体は嫌いではないのだが、果たしてこの映画でこの気持ち悪い感じ、必要だった?素でイヤな気分になっちゃった。作品のテイストと、ラストの方の仕掛けがアンバランスかなあ。続編作る気満々なのかな?とも思える乱暴な幕切れにも疑問が残った。続編があったら観たいと思うほど、キャラが魅力的じゃなかったのも残念。