人類初の月面着陸に関する都市伝説をコメディ作品に昇華させた作品。

 

1969年。アポロ計画が失敗続きで国民の関心が失われている中、ニクソン大統領の側近モーはPRマーケターのプロであるケリーをNASAに送り込む。真面目な発射責任者コールは、大胆不敵で平気で盛りまくるケリーに反発するが、ケリーの働きのおかげでアポロ計画は再び大注目を集めることに。そんな中、モーはある指令をケリーに伝えるのだが……。

 

久々にハリウッド映画らしい作品を観た!という満足感がある良作。

 

キュートでゴージャスで、でもどこかミステリアスなケリーと、生真面目で良い人オーラが全開のコールというコンビネーションが最高に良い。健康的なセクシーさを持ち、陽のオーラを放っているふたり(スカーレット・ヨハンソンとチャニング・テイタム)だからこそ生み出せるポジティブパワーが作品全体をガンガンに明るくしているのがまず◎。

 

そして、異様にテンポが良い。最初から最後まで一度も失速しないテンポの速さで、本当にあっという間に映画が終わった。起承転結はしっかりとあるし、けっこう複雑な状況になっていたりもするのだが、サクサク進んですっきりとまとまっている。職人技ともいえる脚本の巧さ。素晴らしい。

 

美術も良くて、カラフルで素敵なケリーの衣裳、同じ服を繰り返し着ているコールの独特のセンス、NASA施設の映し方などなど、目にも楽しい。脇役たちもキャラが立っていて誰も埋もれていないし、猫をキーキャラクターとして肝心の場面で効かせているのも上手い。とにかく、なにからなにまで小粋で巧いのだ。

 

ソ連とのパワーバランス、NASAの経済事情や過去の失敗による心の傷、ザ・アメリカ!といった資本主義社会万歳なケリーの戦略など、時代をしっかりと反映したコンテキストの作り込みも上質。NASAが脚本を気に入って協力したというだけあり、打ち上げにまつわるあれこれも迫力がある。

 

おそらく、子どもから大人まで誰が観ても面白いと思うタイプの作品。文句なしに笑えるしね。夏休みにピッタリ!!

 

 

 

トッド・ヘインズ監督最新作。

 

36歳の既婚女性が13歳の少年と関係を持ったというスキャンダルから20年。その出来事の映画化企画で主演を務めるエリザベスは、役作りのための取材で当事者夫婦(グレイシーとジョー)の町にしばらく滞在することにする。本人たちにも周囲の人々にもガンガン質問をぶつけていくエリザベス。果たして20年前の真実に近づくことはできるのか……?

 

うーん。どうなの?これ。

 

映画製作者たちへの自己批判に満ちた作品なのは間違いなく、エリザベスが倫理的にけっこう危うい人物に描かれている。図々しく無遠慮な部分はもちろんだが、自分の思い通りに仕事を進めるためには枕営業も厭わないという思考回路の持ち主だというのも示される。ジョーとの顛末にしても、最終的に実行に移された撮影シーンの陳腐すぎる描き方にしても、映画人たちの傲慢さというか思い上がりに光を当てたいとう意志は感じる。

 

ただ、その割に全体として無神経というか。「結局真実はわからない」という構成にしていて、ジョーを性的虐待の被害者という方向に持っていってはいるのだが(ジョーを演じたチャールズ・メルトンの「中身は子どものままの大人」な演技が凄かった)、実際に会った事件を下敷きにしていることを考えると(しかも女性の方はすでに亡くなっている)、悪趣味だよなーという印象が拭えない。

 

グレイシーを自己愛が強く視野が狭い人間、エリザベスを自己中心的で野心が強すぎる人間として描きつつ、ふたりが重なっていくという演出も、結局のところ私の嫌いな「女ってこわーい」に帰結させているだけじゃない?という気がして不快だった。長男は複雑な心境を抱えているけれど娘たちはそれなりに順応してしまっているというのもステレオタイプに見えてしまって、なんだかなあ。

 

グレイシーたちが裕福に暮らしているのは、自分たちのスキャンダルを金に換えてきたからなのだろう。だからエリザベスにイラつきながらも拒絶することはできないわけで。結局は『トゥルーマン・ショー』のような生き方をしてきた家族なんだよね。そういうことは元弁護士とのケーキにまつわる会話などで示されてはいるけれど、ややわかりにくいかった気がする。そういう部分をもっと前に押し出して、グレイシーが本心と建前を使い分けるしかなかった(それによって本人にもわけがわからなくなってしまっている)という要素をより明確に描いてくれた方が、映画として面白かったのではないだろうか。そういうことを描きたかったんだろうけれど、エリザベスが想像以上のヤバ女でグレイシーと同化していったりジョーを誘惑したりするせいで、どこにフォーカスしているのかがよくわからなくなってしまっていたと思う。

 

あと、わざとなのか?っていうくらい劇伴がベタでダサい。笑わせようとしているのか、メロドラマっぽさを強調したいのか知らないけれど、いちいち気になっちゃった。

 

 

 

キングダムシリーズ第4弾。

 

春秋戦国時代の中国。馬陽の戦いで、隣国・趙の敵将を討った秦国の飛信隊の信(しん)たちの前に趙軍の真の総大将・ほう煖(ほうけん)が突如現れた。自らを「武神」と名乗るほう煖の急襲により部隊は壊滅的な痛手を追い、飛信隊の仲間たちは致命傷を負った信を背負って決死の脱出劇を試みる。一方、その戦局を見守っていた総大将・王騎は、ほう煖の背後に趙のもう一人の化け物、天才軍師・李牧(りぼく)の存在を感じ取っていた。(映画.comより引用)

 

ロケーションを生かした迫力ある映像に、原作が持つドラマチックな要素をさらに強化したようなストーリーテリングは見ごたえがあるし、なんといっても王騎役の大沢たかおが抜群に良いので引き付けられる。ついでにいうと王騎の二の腕である謄役の要潤も最高に良い。原作でも特に印象的なパートだけあり、これまでで一番ストーリーとしてはわかりやすくドラマチックかもしれない。

 

信が仲間を失うという要素についても丁寧に描かれているし、全体としてはほぼ話が前に進んでいないにも関わらず満足感がある仕上がりになっている。ただ、ちょっと長いかなー。少し飽きてしまった。

 

あと、王騎の回想シーンがちょっと……新木優子がどう見ても強そうじゃなくてなあ。もう一人、李牧役の小栗旬の異質感。一人だけコスプレでしかないし、イメージが違うんだよねえー。そういう部分でいちいち集中力が切れてしまったのも「長いな」と感じた要因かも。