元興寺が疲労困憊している。
清姫の追い込みがキビシイらしい。
坂東三十三か所めぐりをしていると、
後ろをついてきて気が散るという。
今日は町会の一室を借りて、保護犬と触れ合ってもらう
月に1回開催している「アニマルサロン」の日だが、
一人目のお客の後に、元興寺がやってきて自分の相談話を始めた。
迷惑である。
清姫は安珍を探しているらしいのだが、
途中で飽きたらしく、元興寺のストーカーになった。
どうせ優しい言葉でもかけてしまったのだろう。
保護犬こころんと遊びながら、
なんとはなしに元興寺の話を聞いていると、
次のお客が来てしまった。
「ごめんよ」と入ってきたのは、
玉藻の前だった。
眼光鋭い玉藻の前だが、結構、情に厚い妖怪だ。
さっそく私を押しのけて、元興寺の悩み相談にのっている。
あれ?
でも玉藻の前さんて、………狐、じゃなかったっけ?
こころん、犬ですが、だいじょぶすか?
まあ、こんなちっこいの、意にも介さないか。
でもなんで来たんだ?
元興寺の困ったバカでかい顔が、
外からたまたま目についたのかな?
元興寺が涙目になりながら玉藻の前に訴えている。
「尼さんに道を訊いたら、鐘抱えて走ってくるえ~、よ?」
「ちょっと待て、あれ抱えて走ってくんのか!?すげーな」
私は思わず口を挟んだ。
「重いから、あの鐘はプラスチックらしいのよ。
組立式ですって」
「え」
玉藻の前が答える。
そうなのか。
いや、よく知ってんな。
そういえば玉藻の前って、ここらへんの妖怪の相談役だって、
妖怪の誰かが言ってたな。
ということは、清姫からも相談受けてんなコイツ。
私は彼女が今日ここに来た理由が分かった気がした。
不意に、玉藻の前がお見合いおばさんのように見えてきた。