解散の「かの字」も出ていない時から指摘をしていた長谷川幸洋氏の正論です。
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なぜ記者はこうも間違うのか!?
消費増税見送り解散&総選挙には大義がある
~長谷川幸洋「ニュースの深層」~
(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41078)
■「ポチ取材」ばかりしているから間違える
消費増税先送りで解散総選挙への流れが確定的になった。
私は10月22日午後のニッポン放送『ザ・ボイス~そこまで言うか』で初めて解散総選挙の可能性を指摘して以来、このコラムや『週刊ポスト』の「長谷川幸洋の反主流派宣言」、あるいは『たかじんのそこまで言って委員会』など、いくつかのテレビ番組でも一貫して「増税先送りから解散総選挙へ」というシナリオを強調してきた。
ついでに言えば『ザ・ボイス』や「反主流派宣言」では、景気の見方について日銀最高幹部の間で意見が割れている内幕についても指摘している。それからまもなく10月31日に日銀が追加緩和に踏み切ったのはご承知のとおりだ。強気派の黒田東彦総裁が敗北したのである。
マスコミには「追加緩和は消費増税の環境づくり」といった報道が相次いだが、それがまったくトンチンカンだったのは、増税先送りが確実になったいまとなってはあきらかである。11月21日号の「反主流派宣言」はその点も書いた。
解散総選挙のシナリオについては、最初にラジオで喋ってから新聞やテレビが報じ始めるまで数日の間があった。正直言って、私は今回ほど政治記者や経済記者の鈍さ、理解の浅さについて唖然とした思いにかられたことはない。彼らはどうして、こうも見事に間違えるのか、あるいは政局の流れを読めないのか。
その理由を突き詰めて考えると結局、政治記者も経済記者も同じ「ポチ取材」ばかりしているからだ、と思うようになった。取材相手に取り入ることばかりに熱心で、自分の頭で経済の実態やあるべき政策の姿、あるいは政治の正統性といった問題について考えていない。だから間違えるし、政局の本質が読めないのである。
それは、解散総選挙が決定的になったいまも続いている。この調子だと、これからもずっと間違い続けるだろう。その結果、読者や視聴者はいつまで経っても政策の意味や政治の流れを理解できない。これは日本のジャーナリズムが抱えた奥深い病である。今回はそこを書く。
■「大義なき解散」報道は上っ面の議論
まず、なぜいま解散総選挙なのか。
それは増税を先送りするからだ。この順番が重要である。解散が先にあって、その次に増税先送りがあるのではない。ところが、あたかも解散が先にあって、ついでに先送りがあるかのように報じるマスコミもある。そうすると、いったいなぜ解散総選挙なのか、さっぱり分からなくなる。
それはそうだろう。突然、さあ解散総選挙だ、なんて報じられたら、だれだってびっくりする。だから、マスコミがそのロジックと流れを解き明かさなければならない。だが、肝心の安倍晋三首相はまだ増税先送りも解散の方針も、正式には何も語っていない。政権が語らない話を書くことこそ、マスコミの重要な役割であるはずだ。
ところが「どうやら解散は本当らしい」「首相が与党幹部にそう喋っているらしい」「解散風はもう止まらない」という理由で解散話が先にきた。一方、増税のほうはとなると「実は増税判断自体を先送りする案もあるようだ」という話が出て、いまひとつ確信がもてない。それで「大義なき解散ではないか」というような報道にもなる。
あるいは「増税法には景気が悪ければ、増税を先送りできる景気条項があるじゃないか。なんで解散なんだ」という批判もある。11月13日付の東京新聞社説や朝日新聞朝刊はそう書いている。私に言わせれば、こういう批判は日本政治の深層構造を理解していない、まったく上っ面の議論だ。
増税はすでに法律で決まっている。その法律は野田佳彦政権で与党だった民主党と野党の自民党、公明党の3党合意で成立した。だから、安倍首相がいくら「再増税はしません」と言ってみたところで、実はそれだけで増税は止まらない。増税を本当に止めようと思ったら、もう一度、増税凍結延期法案を可決成立させなければならないのだ。
では、なぜ安倍政権は増税を止めようとしているのか。これが政局の出発点である。それは景気が悪いからだ。景気が悪いのに増税すれば、景気は一層、悪くなる。それで法人税をはじめ税収が減る。すると、せっかく増税しても肝心の税収が増えず、財政再建という本来の目標は達成できない。
それどころか、政権の大目標であるデフレ脱却も遠のいてしまう。だから増税先送りなのである。そこをしっかり理解するには、記者自身が景気の実態について見極めなければならない。たとえばマクロ経済の数字などは、いくらでもネットで入手できる。街角の実感だって記者がタクシー運転手に聞いてみればわかるだろう。
■「増税判断の先送り」という財務省が売り込んでいる話
ところが、たいていの記者は自分の景気判断を避けて、まずとにかく官僚や日銀の話を聞く。すると、財務省はもちろん増税したいから、本当に悪い話は言わない。日銀だって黒田総裁は増税派なので同じだ。
日銀が追加緩和に踏み切った時点で「そうか、それほど景気は悪いのか」と気づかねばならないのに、増税派から「これは増税への環境整備です」というような説明を吹き込まれると、そのまま鵜呑みにしてしまう。つまりポチ取材の結果、政局の出発点である景気判断を誤ってしまうのである。
経済記者がそうであるくらいだから、政治記者となるとなおさらだ。彼らは永田町のうわさ話に興味はあっても、景気の実態などハナから関心はない。新聞の経済面がいいといえば「そうか」と思うし、たまたま財務官僚にでも出会って話を聞けば「そんなに悪くないのかも」と思ってしまう。ずばり言えば、素人同然である。
財務官僚は「政治記者はその程度」と思ってバカにしている。政治記者は、ちょっとした永田町情報と一緒に自分たちに都合のいい話を売り込めば、そのまま書いてくれる都合のいい存在と思っているのだ。財務省の意を汲んだ政治家を取材しても結果は同じだ。やはりポチ記者の取材である。
今回の例で言えば「増税判断自体を先送りにする」というのは、まさに財務省がいま必死になって売り込んでいる話である。彼らだって「もう解散は避けられない」と観念している。だが、増税先送りだけは絶対に阻止したい。そこで編み出した抵抗ラインが「増税判断の先送り」なのだ。
そういう話をそのまま垂れ流しているのが、増税賛成派のマスコミである。ちょっと前には「解散は増税反対派へのブラフだ。いつまでも反対していると解散するぞ、と総理が脅している」などというトンデモ記事もあった。ここまで来ると、もうお笑いの世界である。
もしも増税判断自体を先送りするとなると、それこそなんで解散するのか、さっぱり分からなくなる。そういう記事を書いている記者自身が分からないだろうから、読者の頭がクエスチョンマークだらけになるのは当然である。
こういう話をだらだら書き連ねていても読者の頭が混乱するだけなので、いい加減にして情勢を整理しよう。
繰り返す。まず出発点は景気が悪い。だからこそ日銀が追加の金融緩和に踏み切った。そうであれば、ますます増税はできない。景気が悪ければ、金融は緩和し財政は減税または歳出増で景気刺激という政策は、大学1年生が習う「経済政策のポリシーミックス」である。
このイロハのイが分かっていれば、今回は経済政策として増税先送り以外にありえない、というのは自動的に分かる。
つづく