行く足が動かない。


 全校集会後、生徒代表で私が送辞をする事になった。

 部代表なので、真由美と一緒だ。


 昨日の出来事が信じられない様子で2人共会話をすることなく、

 あの子の家に向かう、電車に乗った。


 
 「あの、今でも信じられないんだけど、本当なの?」
 かなり、困惑した表情で言って来た。
 


 信じられないのは、私も同様で、どんなに考えてもこういう結果になる
 事を予想だにできない。


 「私もよ…あの子前向きにちゃんといってたじゃない…。」

 そういうしかない。それしか言葉が出せれない。


 「でも、解剖とかするとあの子の体の事とかわかるんじゃぁ…。」

 「うん、そうかもね。それを狙ってたのかもしれないし、何もかも話した方が
  ご両親にとっていいのかもね…。」



 話す事をそのときに決めた。


 電車は横浜沿線鴨居駅から少し離れた、公団の団地の集会所で
 お通夜は営まれた。


 献花はそうそうたる面々が連ねていて、少々びっくりしたが、
 それは、やはりご両親の人脈の賜物と思われた。


 集会所の受付をすませて、私たちは奥にいらっしゃる、ご両親に
 挨拶をした。


 「はじめまして、私たち本日鈴木さんの送辞を読ませた頂きます。
  バレー部主将、海野亜紀子と申します。こちらが、副将の兼平真由美と言います。」


 「どぉも、父の雄三と、妻の佐智子です。このたびはわざわざ、清海の為ありがとう。
  いつもお世話になっていたと、生前清海から聞かせたもらっていました。」


 「えぇ~本当に、特にキャプテンの海野さんには、尊敬の念を抱いていたみたいで…。」

 「いえいえ、そう言って頂いて恐縮です。清海さんは私以上のがんばりやさんでしたから。」

 


 なんと言って声をっけたらいいものか、少々迷いながら話す言葉がよく分かる。
 これからの事を考えると、一人娘だし、居た堪れない。


 ただし、真実を伝えなければならない。そろそろ、こっちに遺体解剖して戻ってくる頃だ。
 そうなってからでは遅いと思った。


 「実は、ご両親に話しをしておかなければならない事があります。これは決して
  喜ばしい事ではないんですが、それでも清美さんの真実を知ってもらいたい現実が
  ありますので。」


 「えっ!それは何でしょうか。何か私たちに隠し事でもあったのでしょうか。」
  お母さんがかなりの動揺を示した。


 「隠し事ではないんです。隠さなければならなかったといった方が正しいと思います。
  今から、私が責任を持って話しをさせていただきます。」


 頂いたお茶に一口をつけて、一気にあの子から聞いた事、昨日の事、どうするかの経緯
 を話した。時折、見えるお母さんの悲痛な泣き声。お父さんの、凛々として私の話に
 耳を傾けていらっしゃる目。とても印象的だった。


 「これで、全部です。遺体解剖して全て分かる話ですが、それからでは、あまりにも
  酷すぎる話と思いましたので、私の方から話をさせていただきました。」


 「うん、君の勇気ある行動に感謝します。そうなってからでは、私どもも今の心境から
  考えると、切り口に荒塩を塗られるものだ。ありがとう。」


 「いいえ、私たちは一緒に居ただけで、なんも役には立てませんでした。
  結果、こういう結果になりましたので…。」


 「いや、そんな事はないよ。それだけかもしれんが、それが何より清海には
  励みになってくれたろう。」


  横目で、泣きじゃくる、奥様の事を気遣いながら、話しをしてくれた。


 とても、悲しい出来事で、愛されて育てられたんだなぁ~と感じた。


 「私どもは、全て仕事のせいにし、あの子を一人にする事が多かった事は事実。


  ただし、あの子への愛情を失った事は1回もないと言い切れる。それだけ、私ども
  にとっては、大事な存在だった。」


 言葉ともに、見える愛情、感動もしたけれど、このご両親の元に育って、何より
 幸せだったろう、あの子を少しうらやましく思えた。



 この先はどうするかは、もうさじを投げてしまったので、ご両親にお願いを
 することにした。



 もうすぐ、あの事会えるとなると、少しなぜだか嬉しくなった。

 
 

 

 駅に着いた瞬間、なにか身震いを感じた。


 いつも、良くない時があったときに限って起きる。


 前は、祖母がなくなったとき。朝だった。春の陽気にもかかわらず、朝からだ。

 その前日の深夜になくなっていた。


 かなり、嫌な予感をした。

 
 それを気にしつつ、ユメトの事も気になった。


 再びベルがなった。
 「ワカツタ。ジヤアオボンマデタノシミニシテル」


 向こうも楽しみにしているとなると、嬉しくなった。


 自分も勿論楽しみにしているが、それでも今の現実を全うした
 気持ちの方が、強かった。



 公衆電話を探して、自分も返した。

 「ウン、ジブンモタノシミニシテイルネ。」



 今日も熱帯夜にもかかわらず、心のなかからホンワカ暖かくなる様な気がした。


 現実に誰かに思われている。まだはっきると好きかどうか、分からないけど、
 確かな彼への「想い」はあった。


 実に清清しい。妙に恥ずかしい気持ちが入り乱れている。


 恋をしているのかもしれない。肝心な事を真由美に伝える事を忘れたのを思い出した。

 でも、今はそんなところではない。少しづつ問題をクリアーにしないとなぁ~…

 


 



 翌朝驚愕が走った。
 


 母親から朝の6時だといいのに、たたき起こされた。

 「あんた、大変よ、すぐテレビ見なさい!!」


 眠気眼で、かなりボォ~っとしていたが、一気に正気に戻った。

 その事実はテレビの赤の他人のレポーターから伝えられた。



 「昨日、夜9時ごろ、横浜線沿線の鴨居駅で、高校生が何者かに突き落とされて死亡いたしました。
  被害者は市内の高校に通う、1年生の鈴木清海さん。16歳と判明しました。
  顔がひとく損傷され、身元の確認まで時間がかかりましたが、日にちが変わりました未明に
  判明。変わり果てたわが娘を、泣きじゃくる両親の姿が、大変いたたまれない状態でした。
  何者かに突き落とされた清海さんですが、現状警察は事故・他殺・自殺の3点から調査をしており、
  目撃者か更に詳しい状況を聞きだし、手がかりに全力で捜査をするとの事です。
  以上現場からお伝え…。」


 そこでテレビを消した。



 あぁ~昨日の事といい、帰り際のあの事妙に明るい素振りをしていたこと。

 全私たちを安心させる為だったのね…あの子はもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…


 一気に力が抜けて、そこに床に伏せたままかれるまで泣きじゃくった。

 なんで、なんで、なんでと連呼して…。


 泣き果てるまで泣いた日だった。



 多分、真由美も同じ心境だろう…そんな事を思いながら、



 あの子と最後に写った、プリクラを自然と愛しげに眺めていた。


この後は、一緒に”御祝い”を兼ねて、カラオケに行ってみた。

 本当は校則ではカラオケとかゲームセンターの類はNGだったのだが、

 つい勢いで行ってしまった。

 内の学校はそこまで校則にうるさいわけではなかったので、

 先生の見回りなど一切ないと思われる学校ではあった。

 
 駅前の「メガトン」に行き、大いに盛り上がった3人だった。

 
 別れ際に3人で、撮ったプリクラが最後の3人の姿になろうとは

 私には想像できなかった。


 
 3名はそれぞれ違う、電車であったので、途中の駅で別れた。

 別れ際の言葉、

 「先輩達、今日はありがとうございました。とっても嬉しかったでぇ~~す。」

 改札を入って、人がごった返す中での大きな鈴木の声が響き渡り、今でも耳を劈く。

 私たちも色々考えさせられたっていうのに、こちらこそありがと…


 ベルが鳴った。

 「コンバンワ。コンドノヤスミハイツ?」
 ユメトからだった。何日も経っていないのに、久しぶりに関した。

 ぶっきらぼうに聞く所がまた、彼のよさのかもしれないと。

 急いで、公衆電話を探して、あわてて打った。

 何で、いつもキオスクの隣なんだろうと、不思議に思ったが。

 「オボンヤスミカナ…ソレマデレンシユウダカラ。」
 あと10日2週間弱我慢、我慢、毎日過ごしていればあっという間に終わると
 自分に言い聞かせた。

 
 帰りの電車の中では色々整理する為に、手帳を広げた。
 あぁ~この手帳も3日坊主の手帳だ…
 早くこの手帳を埋められるようになりたいなぁ~なんて…

 鈴木の事1番、ユメトの事2番、いや部活の事かなこれはでもイコールにしとこ。

 自分の癒えぬ?心3番と…

 自分が3番になった事が少し、嬉しかった。

 今まで1番で、それ以下もそれ以上も考えられなかったのに、ポイントが

 高くなった。自分の中では。

 色々考えられる事がすばらしい。自分は生きている、人間なんだと
 少し大げさ気味に思えた瞬間だった。

 確実に一歩前進、でもあの恐怖は思い出すととまらない。
 妄想の悪しき世界に入ってしまう。

 悲しいけど、これが限界なのかもしれない。

 でも、限界と思えば、それまでだから、案外自分自身の成長を
 少しの糧にしようとも思った。

 まだまだ、自分との戦い、

 ちょっとだけ、外のビルの照明が目に入ることが出来た夜だった。