勇次は講義の課題でもある、DNAについてのレポートを

まとめる為、大学の図書館に来ていた。


いつもはこんな不似合いな場所には来た事がないので、

図書館に入ると、少し戸惑いながら入っていった。


とりあえず、真ん中にある大きな机の2つの手前側に

座った。


バックを置くと、本選びに立った。


細胞類本が並んだの棚に来た所で、最初に見ていた

人が居たので、通りすぎようとした所で声をかけられた。


「あっ、勇次君。珍しいじゃないの、こんな所に。」


「おぉ~美知子かぁ~、お前方こそ。」


同じサークルの美知子がそこにはいた。

同じ学年なのだが、いつも勇次を上から目線で見る

姉さん的存在で、面倒身がいい奴だった。


「明日レポートの課題があってなぁ~ちょっと本でも

見ようと思ってなっ。」


「へぇ~明日雪ふっちゃうかもねっ。」


美知子は屈託のない笑顔を出して、笑っていた。


「お前はなにしてんだ。」


「私は来週の研究の資料集めよ。色々大変なんだからぁ~。」


美知子は手に取った、遺伝子分裂に関する参考書を見せ付けた。


「遺伝子かぁ~。俺も遺伝子勉強しようかなっ。」


「あんた何言ってんのよぉ~自分の単位の心配でもしなさいよ。」


意図も簡単に交わす美知子はいつも心配ばかりしている。


「全く口だけは、相変わらずだなぁ~お前は。さっ勉強勉強。」


勇次は逃げるようにしてその場を離れた。

必要な本だけ取り、席に戻った。


席に付くと目の前のカップルがいちゃつき始め、

勉強どころではない状態だったので、大学近くのカフェで

やろうと、その本は借りて、図書室を出た。


「おーい、なんだもうお帰りなのかぁ~。」


後ろから美知子が追いかけるようにして、声をかけてきた。


「なんだよぉ~そうじゃねぇよ、居づらいから、あそこのカフェで

続きしようかなと思ってさ。」


「そうなんだ、それは失礼、失礼。じゃあ私も一緒しようかな。」


といって、さっさと荷物をまとめて、付いてきた。


そのカフェにはいつも、サークル仲間とは行かず、一人で行く事が多く、

誰かと一緒に行くのは誰と言うわけでもなく、緊張した。


誰にも教えたくない、居場所というものか。


カフェに入り、置くのソファー席に座った。


「へぇ~大学の近くにこんな所があったなんて、知らなかった。

 何で知ってたのよ。」


「それはまぁ~、紹介してくれたからだよ。」


勇次は少し言葉を濁らしながら言った。


それは、よく元彼女と来ていたからだ。

別れて以来、勇次は通い続けているが、カノジョを見た事がない。


「誰に紹介してくれたのよぉ~、あっ、そうか女だなぁ~。」


何で女ってこんなにも感がいいものだろうか。

少し呆れ顔で、勇次は目を落とした。


「違うけど。」


苛立ちながら言った言葉が、美知子に伝わり、


「そんな風に言わなくてもいいでしょ。ということは…。

 まぁいいわ、じゃあ勉強の続きをしましょうか。」


と自分のペースで、ノートを広げ始めた。

まだメニューも決めてないくせに。


「おい、お前メニュー決めたのかよ。」


「あっまだだ、ごめんごめん、オススメはあるの?」


「そうだなぁ~人気なのはカフェモカかなぁ~。」


美知子は下から、友人の顔をのぞいていた。

これは好きな子がよく飲んでいたやつだなぁ~と察したように。


「じゃあ私、それねっ。勇次は何するの?」


「俺は、甘いのが苦手だから、アメリカン。一杯飲めるしな。」


メニューが決まり、店員さんい告げると、お互い無言になり

集中した。


オーダーした飲み物が届くと、それが解放された。


「あっ、なかなか美味しいねっ、ここのカフェモカ。なんか他のとちょっと違うかも。」


美知子は少し、聞き出そうとわざと大げさに言った。


「そう、誰かもそんな事言ってたなぁ~。」


その誰かとは、元カノジョでしょと言いたいのを我慢して美知子の追及は続く。


「やっぱり、その人よく分かる人だなぁ~。でどんな人なのその人。」


「そうだなぁ~、まぁカワイイ感じで、少し気が強い感じの子かな…。」


知らず内にのせられた勇次は、それに気付かず静かに話し始めて。

美知子も出来る限り、自然に聞いた。


「よく来たの、その子とは。」


「そうだなぁ~、週に2回は来てたかな。」


美知子は書きながら、聞いていたが、勇次は思い出しながらコーヒーを飲みながら

語っていた。


「じゃあ、かなり常連さんじゃない。それドレくらい前なの。」


「そうだなぁ~大体1年くらい前かな、丁度入学して、夏前にはよく

 来ていたし。」


「じゃあ、かなり前だねっ、それからは一人でも来ているの?」


「雰囲気もいいし、まぁ~一人でも来てもいいかなという感じだしなぁ。

 ほら周り見ても、あんまし同じ学校のやつらいないだろ?」


「そうだねっ、なんでだろう、こんな良い所なのに…。超穴場じゃん。」


ということは、同じ学校の人が来てなくて、人目に触れる事はないから、

同じ学校で付き合っていても、それほど騒がれる事はないだろうと

言う事か。そう思った美知子は続けた。


「ねぇ~、勇次君って、どれくらいカノジョいないの?」


「俺は、今半年位いないかなぁ~、ってなんでいないのって決め付けるんだよ。」


「だって、いなさそうだもん。前に比べてサークルの参加率高まっているし。」


ばれたという顔の勇次は、顔を真っ赤にした。


「いいじゃん、まぁそんな事…。それ以来出来てないんだし。という美知子は

 どうなの?」


「そうだねっ、でもこうやって聞くのは初めてだし新鮮だからさ。


 私?!私いるよ。」


嘘を付いた、これで勇次の本性が分かると思ったからだ。


「いるのぉ~へぇ~知らなかった、でどんなカレシなの?」


興味出てきたら、NGだ。自分には興味がなく、こんな女には

どういう人が好きになるんだろうという、動物的興味がでてきたらNG。


「あぁ~聞くんじゃなかって…。」


元は一緒にいても、何故かドキドキ感が無く、安心感の方が強く、

居心地いい相手だったから、まぁいいかという感じで諦めかけた。


「えっ、今なんていった?」


「ううん、なんでもないよ。彼氏は普通の彼氏よ。勇次君みたいに

 格好よくないし。」


少し、止めを刺した。


「そうかぁ~、そんな俺かっこよくないし。」


照れだした勇次を見た、美知子は更に落胆して、下を向いてしまった。


「そんな事ないよ。」


一応フォローをした美知子だったが、心の中にぽっかり穴があいた。


元々気にかけていた相手に、まだ本心は聞いていないとはいえ、

辛い瞬間だった。


自然に二人はそのまま、黙り込み、勉強に集中するようになり、

静止したかのように、時間は過ぎた。


「じゃあ私、そろそろ、帰るねっ。今日はありがと。

 又明日。」


美知子は、突然言い出したかと思えば、急いで店を出た。


外はすでに暗らくなっていたが美知子には丁度良かったのかもしれない。





男女の関係は、一人が想い、想われる関係だけではない。


好きになり、その相手を振り向かせる事も必要だ。


好かれて、その人がどんな人なのか知る事も必要だ。


そんなに、好きになってくれる人なんて、早々いないのだから…



 


~FIN~




僕は職員室に向っている。


今日の朝、遅刻して、放課後に呼び出されているためだ。


どうして遅れたかというと、母親と喧嘩した。何気ない事だ。


猫のえさあげ忘れ、あなたはどうしてこうしてといつもの調子で


どやされて、その間玄関を防いでいた為だ。


勿論母親にも責任があるが、今日の遅刻をまた言うと


とやかく言われそうなので、黙っておく事に決めた。


職員室を入ろうとした時に、いつもは気付かない


ポスターの一杯張られている所に、小さいそれこそ


手紙の様な手書きの、”告知”と書かれた紙を見つけた。


大きなポスターに囲まれてはいたが、それが逆になり、


余計に目立っていた。


「なんだろう、長々と。」


職員室前に入る前にふと足を止めて、見入った。


その内容はこんな事だった。


「犬が一杯生まれましたので、誰か引き取ってくれる人は

 いませんか?種類はシェパードでオスとメスが居ます。

 1匹だけでも構いませんので、興味ある方はご連絡ください。

 

 2年3組 坂田香織」


「1年後輩かぁ~。でも犬はなぁ~、うち猫だし。」


犬と猫なら、難しいだろうなぁ~と思っていたので、

読み終えると、直ぐに職員室に入ってしまった。


「先生、すいませんした。今日は。」


入ったとたんに、大きな声を出し、先生たちがいる中で

お詫びをした。


びっくりした様子で、ほとんどの先生がこっちを向いた。


僕もそれは気付いたので、なかなか顔をあげられなかった。


「おぉ、こっちだ。」


担任の深沢は、入り口正面奥の、応接セットに座って、

こっちにこいと手招いた。


「お前なぁ~、推薦とりたいんだろう?こんなんで足すくわれるなよ。」


その一言で、終わった。


いつもは出来のいい方だったのと、部活をしていたバスケで何とか

推薦が取れそうだったので、先生も多めに見てくれたのだろう。


「はい、ありがとうございます。これから気をつけます。」


一応、スポーツ選手らしい態度で職員室を後にした。


出た後、気になったので、もう一度、さっきの掲示板を見直した。


「坂田香織かぁ~。どんな子だろう。」


そんな事を思いながら、昇降口に向った。




今日は1学期のテスト前で、部活はなかったので、

待たせておいた、友達と一緒に帰る約束をしていた。


昇降口出た所で、友達の橋口が待っていてくれた。


「おぉ~お前しごかれたのかぁ~。」


なんかにやにやしながら聞いてきた。


「いやぁ~さほどでもなかった。もぉこりごりだな。」


「いいよなぁ~お前は…なんせ優等生で通っているし。」


「そんなことねぇよ。残りの生活でどうなるかわからねぇし。」


橋口もバスケ部で、ガードというポジションだったが、

なかなか活躍できずにいて、いつもベンチだったので、

少し僻みぎみにいってきたが、憎めない奴だ。


思い出したかのように、僕は橋口に聞いてみた。


「なぁ~、そういえば2年の坂田っていう女子知っているか?」


「橋口ぃ~。お前知らないの。」


「えっ、何がそんな有名なの?」


「有名も有名で、今じゃこの星光のアイドルじゃねぇからよぉ。

ホントお前って、前から疎いねぇ~。」


橋口は大げさに両手を上にあげて、お手上げのポーズをしたが、

僕は全然、思い当たらなかった。


「へぇ~そんなかわいいのかぁ~、じゃあもしかしたら

見た事あるかもしれないなぁ~。」


「絶対あるってぇ~。お前だったらお似合いかもなぁ~。」


「なんでだよぉ~、わからねぇだろ。」


橋口は、下からのぞきながらいってきたが、僕はそこまで

ミーハーでもなかったので、そこまで興味は沸かなかった。


昇降口を出て、学校へのバス停はすぐ近くだった。


「ほら、なんとまぁ~偶然。あそこにいるのが坂田だよ。」


「えっ、どれだよ、どれ。」


「どれとは何だよぉ~。誰だろ?」


橋口は怪訝そうに言ったが、僕は5,6人いるバス停に並んでいる

女子に目がいっていた。


「いいから早く教えてくれ。」


「ほら、バス亭の先頭から3番目の子だ。」



そこには、確かにカワイイといわれるのが分かる女子がいた。

でも、僕のタイプではない。


「あの子か?あの子が内の学校ナンバー1なのか?」


「あぁ~ご不満か?なぁ~なんで、顔もしらないのに

 坂田の名前を知っているんだ?」


「まぁ~ちょっとな。。」


あえて、深い所まで言わずに、そこで黙った。


確かに、坂田は髪が長く、今風ではなく黒くして、ストレートで、

顔立こそ、少し日本人離れをしていて、北欧風だ。


「橋口、俺ちょっとあの子に聞きたいことがあるんだ。

 ここでちょっと待っていてくれるか?」


僕は橋口を、列の一番後ろに並ばせて、一人で坂田の所に行った。



「どうも、初めまして、君が坂田さん?」


「キャァ~バスケ部の結城さんよ。なに、香織知り合いなの?」


何処ともなく、うるさい声が聞こえたが、そんな僕は有名だったのか、

自分でも驚いた。


「知らないわよ。あっどうも初めまして、私が坂田ですが、何か?」


「あぁ~急にごめんなぁ~、職員室の掲示板を見たから。」


「あっそうなんですかぁ~、ありがとうございます。

 で、貰ってくれるんですか?」


「いやぁ~親と相談しないといけないんだけど、実際見たいなと

思って。出来れば、近々行っていいかな?」


「はい、是非。じゃあ、明日とかどうですか?」


「いいよ、試験前だから、長居はしないから。」


僕は、なんでいきなり声をかけたのかは分からなかった。


そういう衝動だったとしか言いようがない。


トントンと話しが進んだ事にも驚いた。


「じゃあ又明日。」


そこで、離れたが、坂田の友達はずっと、キャキャ言っていた。

そんなんでもないんだけど、あの坂田さんも俺は知らなかったしなぁ~

と思っていた。


橋口の所にもどった。早速、


「で、どうだった?」


「あぁ~まぁ~普通の子だなっ。」


素っ気無い態度で、僕は返した。









翌日は彼女の家の最寄の駅で待ち合わせた。

わざわざ彼女から朝、教室に来てくれてメモを持ってきてくれた。


そん時は教室は騒然とした。


「あぁ~やっぱり相当な人気なんだなぁ~。」


その時やっと確信した。


「じゃあ、放課後に。」


内容はちゃんと、最寄の駅で、時間が記入していて、

親切に乗り換え順も書いてあった。


「子供じゃねぇし。」


そこは大人になりきれなかった。




放課後真っ先に、最寄の駅まで向った。


既に坂田は待っていてくれた。


「おぉ~悪いなぁ~。じゃあ案内よろしく。」


「はいっ。」


駅からはそう遠くもないということで、徒歩で坂田の家に向った。


途中途中で坂田は話しかけてきた。


「先輩は犬好きなんですよねっ?何か飼われているんですか?」


「いやぁ~犬は好きなんだけど、今猫飼っていて、犬に興味を持った

というか、見てみたいなと思ってさ。」


「そうなんですか、犬と猫だと相性とかどうなんですかねぇ。」


「ん~どうでしょう?」


僕にも分からなかった。

というか、ここにいる本当の意味さえも分からなくなってきていた。



家は一軒家で、いかにもお嬢様という感じの家だった。


「内とは大違いだなぁ~。」


「そうですかぁ~案外中は小さいんですよぉ~。」


謙遜ギミに坂田は言ったが、僕には届かなかった。


モンに入ると右手に、大きな庭があり、仮の犬小屋らしき

ものがあった。


「あれ、犬は?」


「犬は家の中で飼っているんですよぉ~さぁ上がってください。」


言われるがまま、門から玄関、強いては靴まで脱いで家の中に入り、

急展開すぎて、自然の流れに身を任せた。


入ると大きなドアが目の前にあり、リビングだと案内されて、

中に入った。


「わぁ~やっぱり大きいなぁ~しかも綺麗だし。」


大きなソファーは6人くらい座れそうなL字で、その真ん中には

畳2条分のガラスのテーブルが置かれていた。


更に左手奥にはダイニングがあり、少しのリゾート風だ。


「全部母の趣味なんです。」


「母??おかんとか、おっかぁ~とか言った事ないでしょ?」


「えぇ~まぁ~…。」


言葉を詰まらせてた坂田には悪い事をした。


「で、犬はどこにいるの?」


「あっ、こっちです、悪戯好きなので、別室で飼ってますよ。」


とリビングを抜けた、奥のもう一つのドアを開けた。


底には大きい犬が1匹と、生まれたての子犬が8匹も居た。


「こんなにいるの?」


僕は驚いて声を上げたが、ドアを開けた瞬間母犬は

警戒するように、立ち上がり、こっちを向いて、吼えてきた。


「こらっ、サレンダー、お客様よ。シッダウン。」


手馴れた様子で、坂田は犬に近寄り頭を触り落ち着かせてくれた。


「さすがぁ~。」


照れた様子で、こっちを見たが、直ぐに子犬の1匹を抱きかかえて

僕に渡してくれた。


「最初だから、多分メスの方がいいと思うので、この子とかどうですか?」


「へぇ~なんでメスの方がいいの?」


「えぇ~それはまぁ~なんというか。」


言葉に詰まったので、いいにくそうだったので、


「あっ、別にいいから。どの犬も可愛いけど、なんか坂田に似ているから

これにしようかな。」


「えっ、本当ですか?先輩。」


恥ずかしそうに下を向いた坂田だったが、僕はそんな恥ずかしがる様な

事を言っているのかも気付かなかった。


「あっ、でも一応予約でいい、なんとか母親を説得させるし、

大丈夫だと思うからさっ。」


「はい、いつでもどうぞ。」


その日はそれだけで、坂田の家を出た。


帰りには色々考えた。家柄もいいとやっぱり、こういういい子が

育つものかと、感心もした。家が違いすぎるし、なんか後輩というのが

高校生にしたら、少し抵抗があるなぁ~とも思った。


決して悪い子ではない。


人気があるのは自覚しているだろうけど、それをひけらかす事もしてない。


自分も鈍感な類なのかもしれないが。


自分が踏み出した1歩が少し大きな1歩になるのだろうかと

少しの期待もしたが、これからはまだ分からないので、

好きなのかどうかもしっかりと自分で確かめながら

これから接して行きたいと。。



~FIN~








沙希は毎日、小田急の相模大野から乗って、新宿経由で

大学に通っていた。


ある朝、雨が降り、駅に着いたところで、傘をたたみ、

水気を取る為に、傘を振るわせて水を飛ばしていた所、


後ろにいるサラリーマン風の男性には気付かず、

謝って傘を後ろに引いた所、バッと当たってしまった。


直ぐ沙希は


「あぁあぁ~すいません。大丈夫ですか?」


「えぇ~何とか大丈夫です、弁慶に当たってしまいましたが。」


その男性は、顔を顰めながらはにかみながら沙希を見た。


「ほんとに大丈夫ですか?自分ドジで…。」


「もぉ本当に大丈夫なんで、気にしないで下さい。」


沙希に言った後、すっとかがめていた体をおこして、

手を差し伸べて、


「じゃあ行きましょうかっ。遅れますもんねっ。」


男性は手を促して、改札の方向にやった。


「はい。」


沙希は言われるがまま、先を行き、後ろから男性が

ついて歩いた。


沙希は後ろから付いてくる男性を少し気にしてはいたものの

やがて、人ごみが増えて、知らぬ間に視界から消えた。


沙希は電車に乗り込む時まで、男性を一生懸命探したが、

見つからず、そのまま学校に向った。







翌日、沙希は同じ時間に家を出た。

昨日の事も少し、気にはなっていたが、

追われる課題と朝と言う事で、そこまでの様子だ。


駅に着いて改札に定期を通そうとした時に

隣に昨日の男性が今にも通る姿を目にした。


男性も沙希に気付き、同時くらいに目が合った。


「昨日はどうもスイマセンでした。」


後ろから来る人の波をよけながら、改札を抜けた先で

正面向って、腰を折って再びお詫びをした。


「あっ、昨日は。災難だったねぇ。でも全然気にしてないし、

痛みも全然ないから安心して。」


優しく接する男性は手を振りながら、申し訳なさそうに

している沙希をなだめた。


「大丈夫だから、行きましょうかっ。」


男性はエスコートして、ホームまでの階段に向った。

身長は高く、ガッチリとしてスーツが少し似合わない

感じもしたが、髪を立てて、いかにもスポーツマンタイプの

彼だった。


ホームに付くと男性から声をかけた。


「俺玉田敏男って言います。君は学生さん?」


「はい、私は大学で、理工専攻で、名前は白石沙希って

 言います。玉田さんは、会社にお勤めですか?」


「会社勤めではないんだけどねぇ~。フリーでデザインして

 いるんだけどねっ。」


「へぇ~凄いですねぇ~。デザイナーさんで。

 どんなデザインされているんですか?」


「椅子とか家具とかかなぁ~。インテリア関連なんだけど。

 俺は大学でも、デザイン関係だったんだけどねぇ。

 理工って、かなり今必要人材だもんねぇ~。

 得意な事は何?」


「得意と言えるほどでもないんですけど、原子融合の特徴とかは

 今でも得意かもしれないです。」


会話を続けながら、その時駅には電車が入って来た。

揉まれながら電車に乗ると、少し遠いいちになった二人は

目を合わせて、又今度と言う感じで、挨拶をした。


体を返れないでいたので、玉田が何処で降りたのかは

分からず、沙希はそのまま新宿で降り立った。





翌日は沙希は朝は意識して朝を出た。

今まで雑だった、化粧も念入りにし、お洒落も

毎日違うようにと、昨日はゼミが早く終わったので、

新宿で服を揃えた。


駅につくと、早速周りを見渡した。


今日はなかなか見つけられない。


しばらくして、改札を通し、ホームに出ても姿がなく、

電車を1本を遅らせても、現れず次の電車に乗った。


『折角張り切ったのに、なんでだろう。なんか、

 意識しすぎだよなぁ~。周りにああいう大人の感じが

 する人がいないからだろうなぁ~。』


3日連続での出会いを果たせず、少し寂しい想いにも

なった沙希だが、自分の勝手な思い込みでその場を

やり過ごした。


合間合間で電車の中や、講義中、バイト中でも

玉田の事は頭から離れず、気付けば最後に会った

2日間から1ヶ月を過ごしていた。








いつもの様な朝を向かえ、駅へと向かった。



その日の朝は、昨日から続いた雨が上がり、

晴れ上がり、落ちこぼれる雨雫がキラキラ

輝いている。


いつもの様に改札を通して、ホームの上に上がる

階段の下で、見つけてしまった。


玉田だ。


誰かを待っている感じだったが、見かけたのが

1ヶ月ぶりだ。沙希は思い切った。


「玉田さん。お久しぶりです。」


「あぁ~白石さん、やっと見つけたよぉ~。」


「えっ、何のことですか。」


恥じらいながら、首の下から熱いものが

上昇してきたのを感じた沙希は、顔を上げられない。


「君をまっていたんだよぉ~。なんせなんか中途半端な

ままで、お別れしたからねぇ。ずっと気になっていて…。

もぉ会えないと思ってたし。」


「えぇ~それ言うなら、自分もですよぉ~。毎日同じ時間で

駅に居て、探してたんですからぁ~。」


赤らぐ顔をそのままにして、沙希は自分の思いを

玉田に伝えた。


「えっ、そうなの?この時間じゃないでしょ?

前は、今より1時間早かったんじゃあ…。」


「それは違いますよ。この時間ですよ。毎日私

同じ時間なんですからぁ~。」


困ったように、顔を膨らます沙希は訴えを強くした。


「そうだったのかぁ~、ごめんよぉ~自分の思い込み

だったんだねぇ~。いやぁ~まいったぁ。」


玉田は観念して、手に頭をおいて、舌をだした。


「もぉ~。」


沙希もようやく笑顔になり、一緒に笑い出した。


「じゃあ、この間の続きの話でもしながら行こうかっ。」


「はい、続きの話はすっかり忘れましたけどねぇ~。」


二人とも、前より少し距離を縮めながら階段を昇り始めた。



「で、玉田さんは彼女さんいないんですかぁ~。」


沙希の声は弾んで玉田の耳に入ってくる。


階段の上から、振り落ちてくる光を


快く浴びる二人であった。









少し不思議な出会いの仕方と、玉田の勘違い。


会えない、会えなかった時間を少しだけ二人の

距離を変えたのかもしれない。


お互いがそう思えば、恋へと発展するが、玉田も

まんざらではなさそうだ。


今後の事は二人にしか分からない。

二人で決めていくしかない。










出会いの可能性はすぐそこにあるかもしれない。

見逃しているのか、誰かの悪戯なのか、

夢なのか、勇気なのかはわからないので、


いつなんときも、想いを続ける事が


本当は素敵な事かもしれない。




~FIN~