僕は職員室に向っている。
今日の朝、遅刻して、放課後に呼び出されているためだ。
どうして遅れたかというと、母親と喧嘩した。何気ない事だ。
猫のえさあげ忘れ、あなたはどうしてこうしてといつもの調子で
どやされて、その間玄関を防いでいた為だ。
勿論母親にも責任があるが、今日の遅刻をまた言うと
とやかく言われそうなので、黙っておく事に決めた。
職員室を入ろうとした時に、いつもは気付かない
ポスターの一杯張られている所に、小さいそれこそ
手紙の様な手書きの、”告知”と書かれた紙を見つけた。
大きなポスターに囲まれてはいたが、それが逆になり、
余計に目立っていた。
「なんだろう、長々と。」
職員室前に入る前にふと足を止めて、見入った。
その内容はこんな事だった。
「犬が一杯生まれましたので、誰か引き取ってくれる人は
いませんか?種類はシェパードでオスとメスが居ます。
1匹だけでも構いませんので、興味ある方はご連絡ください。
2年3組 坂田香織」
「1年後輩かぁ~。でも犬はなぁ~、うち猫だし。」
犬と猫なら、難しいだろうなぁ~と思っていたので、
読み終えると、直ぐに職員室に入ってしまった。
「先生、すいませんした。今日は。」
入ったとたんに、大きな声を出し、先生たちがいる中で
お詫びをした。
びっくりした様子で、ほとんどの先生がこっちを向いた。
僕もそれは気付いたので、なかなか顔をあげられなかった。
「おぉ、こっちだ。」
担任の深沢は、入り口正面奥の、応接セットに座って、
こっちにこいと手招いた。
「お前なぁ~、推薦とりたいんだろう?こんなんで足すくわれるなよ。」
その一言で、終わった。
いつもは出来のいい方だったのと、部活をしていたバスケで何とか
推薦が取れそうだったので、先生も多めに見てくれたのだろう。
「はい、ありがとうございます。これから気をつけます。」
一応、スポーツ選手らしい態度で職員室を後にした。
出た後、気になったので、もう一度、さっきの掲示板を見直した。
「坂田香織かぁ~。どんな子だろう。」
そんな事を思いながら、昇降口に向った。
今日は1学期のテスト前で、部活はなかったので、
待たせておいた、友達と一緒に帰る約束をしていた。
昇降口出た所で、友達の橋口が待っていてくれた。
「おぉ~お前しごかれたのかぁ~。」
なんかにやにやしながら聞いてきた。
「いやぁ~さほどでもなかった。もぉこりごりだな。」
「いいよなぁ~お前は…なんせ優等生で通っているし。」
「そんなことねぇよ。残りの生活でどうなるかわからねぇし。」
橋口もバスケ部で、ガードというポジションだったが、
なかなか活躍できずにいて、いつもベンチだったので、
少し僻みぎみにいってきたが、憎めない奴だ。
思い出したかのように、僕は橋口に聞いてみた。
「なぁ~、そういえば2年の坂田っていう女子知っているか?」
「橋口ぃ~。お前知らないの。」
「えっ、何がそんな有名なの?」
「有名も有名で、今じゃこの星光のアイドルじゃねぇからよぉ。
ホントお前って、前から疎いねぇ~。」
橋口は大げさに両手を上にあげて、お手上げのポーズをしたが、
僕は全然、思い当たらなかった。
「へぇ~そんなかわいいのかぁ~、じゃあもしかしたら
見た事あるかもしれないなぁ~。」
「絶対あるってぇ~。お前だったらお似合いかもなぁ~。」
「なんでだよぉ~、わからねぇだろ。」
橋口は、下からのぞきながらいってきたが、僕はそこまで
ミーハーでもなかったので、そこまで興味は沸かなかった。
昇降口を出て、学校へのバス停はすぐ近くだった。
「ほら、なんとまぁ~偶然。あそこにいるのが坂田だよ。」
「えっ、どれだよ、どれ。」
「どれとは何だよぉ~。誰だろ?」
橋口は怪訝そうに言ったが、僕は5,6人いるバス停に並んでいる
女子に目がいっていた。
「いいから早く教えてくれ。」
「ほら、バス亭の先頭から3番目の子だ。」
そこには、確かにカワイイといわれるのが分かる女子がいた。
でも、僕のタイプではない。
「あの子か?あの子が内の学校ナンバー1なのか?」
「あぁ~ご不満か?なぁ~なんで、顔もしらないのに
坂田の名前を知っているんだ?」
「まぁ~ちょっとな。。」
あえて、深い所まで言わずに、そこで黙った。
確かに、坂田は髪が長く、今風ではなく黒くして、ストレートで、
顔立こそ、少し日本人離れをしていて、北欧風だ。
「橋口、俺ちょっとあの子に聞きたいことがあるんだ。
ここでちょっと待っていてくれるか?」
僕は橋口を、列の一番後ろに並ばせて、一人で坂田の所に行った。
「どうも、初めまして、君が坂田さん?」
「キャァ~バスケ部の結城さんよ。なに、香織知り合いなの?」
何処ともなく、うるさい声が聞こえたが、そんな僕は有名だったのか、
自分でも驚いた。
「知らないわよ。あっどうも初めまして、私が坂田ですが、何か?」
「あぁ~急にごめんなぁ~、職員室の掲示板を見たから。」
「あっそうなんですかぁ~、ありがとうございます。
で、貰ってくれるんですか?」
「いやぁ~親と相談しないといけないんだけど、実際見たいなと
思って。出来れば、近々行っていいかな?」
「はい、是非。じゃあ、明日とかどうですか?」
「いいよ、試験前だから、長居はしないから。」
僕は、なんでいきなり声をかけたのかは分からなかった。
そういう衝動だったとしか言いようがない。
トントンと話しが進んだ事にも驚いた。
「じゃあ又明日。」
そこで、離れたが、坂田の友達はずっと、キャキャ言っていた。
そんなんでもないんだけど、あの坂田さんも俺は知らなかったしなぁ~
と思っていた。
橋口の所にもどった。早速、
「で、どうだった?」
「あぁ~まぁ~普通の子だなっ。」
素っ気無い態度で、僕は返した。
翌日は彼女の家の最寄の駅で待ち合わせた。
わざわざ彼女から朝、教室に来てくれてメモを持ってきてくれた。
そん時は教室は騒然とした。
「あぁ~やっぱり相当な人気なんだなぁ~。」
その時やっと確信した。
「じゃあ、放課後に。」
内容はちゃんと、最寄の駅で、時間が記入していて、
親切に乗り換え順も書いてあった。
「子供じゃねぇし。」
そこは大人になりきれなかった。
放課後真っ先に、最寄の駅まで向った。
既に坂田は待っていてくれた。
「おぉ~悪いなぁ~。じゃあ案内よろしく。」
「はいっ。」
駅からはそう遠くもないということで、徒歩で坂田の家に向った。
途中途中で坂田は話しかけてきた。
「先輩は犬好きなんですよねっ?何か飼われているんですか?」
「いやぁ~犬は好きなんだけど、今猫飼っていて、犬に興味を持った
というか、見てみたいなと思ってさ。」
「そうなんですか、犬と猫だと相性とかどうなんですかねぇ。」
「ん~どうでしょう?」
僕にも分からなかった。
というか、ここにいる本当の意味さえも分からなくなってきていた。
家は一軒家で、いかにもお嬢様という感じの家だった。
「内とは大違いだなぁ~。」
「そうですかぁ~案外中は小さいんですよぉ~。」
謙遜ギミに坂田は言ったが、僕には届かなかった。
モンに入ると右手に、大きな庭があり、仮の犬小屋らしき
ものがあった。
「あれ、犬は?」
「犬は家の中で飼っているんですよぉ~さぁ上がってください。」
言われるがまま、門から玄関、強いては靴まで脱いで家の中に入り、
急展開すぎて、自然の流れに身を任せた。
入ると大きなドアが目の前にあり、リビングだと案内されて、
中に入った。
「わぁ~やっぱり大きいなぁ~しかも綺麗だし。」
大きなソファーは6人くらい座れそうなL字で、その真ん中には
畳2条分のガラスのテーブルが置かれていた。
更に左手奥にはダイニングがあり、少しのリゾート風だ。
「全部母の趣味なんです。」
「母??おかんとか、おっかぁ~とか言った事ないでしょ?」
「えぇ~まぁ~…。」
言葉を詰まらせてた坂田には悪い事をした。
「で、犬はどこにいるの?」
「あっ、こっちです、悪戯好きなので、別室で飼ってますよ。」
とリビングを抜けた、奥のもう一つのドアを開けた。
底には大きい犬が1匹と、生まれたての子犬が8匹も居た。
「こんなにいるの?」
僕は驚いて声を上げたが、ドアを開けた瞬間母犬は
警戒するように、立ち上がり、こっちを向いて、吼えてきた。
「こらっ、サレンダー、お客様よ。シッダウン。」
手馴れた様子で、坂田は犬に近寄り頭を触り落ち着かせてくれた。
「さすがぁ~。」
照れた様子で、こっちを見たが、直ぐに子犬の1匹を抱きかかえて
僕に渡してくれた。
「最初だから、多分メスの方がいいと思うので、この子とかどうですか?」
「へぇ~なんでメスの方がいいの?」
「えぇ~それはまぁ~なんというか。」
言葉に詰まったので、いいにくそうだったので、
「あっ、別にいいから。どの犬も可愛いけど、なんか坂田に似ているから
これにしようかな。」
「えっ、本当ですか?先輩。」
恥ずかしそうに下を向いた坂田だったが、僕はそんな恥ずかしがる様な
事を言っているのかも気付かなかった。
「あっ、でも一応予約でいい、なんとか母親を説得させるし、
大丈夫だと思うからさっ。」
「はい、いつでもどうぞ。」
その日はそれだけで、坂田の家を出た。
帰りには色々考えた。家柄もいいとやっぱり、こういういい子が
育つものかと、感心もした。家が違いすぎるし、なんか後輩というのが
高校生にしたら、少し抵抗があるなぁ~とも思った。
決して悪い子ではない。
人気があるのは自覚しているだろうけど、それをひけらかす事もしてない。
自分も鈍感な類なのかもしれないが。
自分が踏み出した1歩が少し大きな1歩になるのだろうかと
少しの期待もしたが、これからはまだ分からないので、
好きなのかどうかもしっかりと自分で確かめながら
これから接して行きたいと。。
~FIN~