沙希は毎日、小田急の相模大野から乗って、新宿経由で
大学に通っていた。
ある朝、雨が降り、駅に着いたところで、傘をたたみ、
水気を取る為に、傘を振るわせて水を飛ばしていた所、
後ろにいるサラリーマン風の男性には気付かず、
謝って傘を後ろに引いた所、バッと当たってしまった。
直ぐ沙希は
「あぁあぁ~すいません。大丈夫ですか?」
「えぇ~何とか大丈夫です、弁慶に当たってしまいましたが。」
その男性は、顔を顰めながらはにかみながら沙希を見た。
「ほんとに大丈夫ですか?自分ドジで…。」
「もぉ本当に大丈夫なんで、気にしないで下さい。」
沙希に言った後、すっとかがめていた体をおこして、
手を差し伸べて、
「じゃあ行きましょうかっ。遅れますもんねっ。」
男性は手を促して、改札の方向にやった。
「はい。」
沙希は言われるがまま、先を行き、後ろから男性が
ついて歩いた。
沙希は後ろから付いてくる男性を少し気にしてはいたものの
やがて、人ごみが増えて、知らぬ間に視界から消えた。
沙希は電車に乗り込む時まで、男性を一生懸命探したが、
見つからず、そのまま学校に向った。
翌日、沙希は同じ時間に家を出た。
昨日の事も少し、気にはなっていたが、
追われる課題と朝と言う事で、そこまでの様子だ。
駅に着いて改札に定期を通そうとした時に
隣に昨日の男性が今にも通る姿を目にした。
男性も沙希に気付き、同時くらいに目が合った。
「昨日はどうもスイマセンでした。」
後ろから来る人の波をよけながら、改札を抜けた先で
正面向って、腰を折って再びお詫びをした。
「あっ、昨日は。災難だったねぇ。でも全然気にしてないし、
痛みも全然ないから安心して。」
優しく接する男性は手を振りながら、申し訳なさそうに
している沙希をなだめた。
「大丈夫だから、行きましょうかっ。」
男性はエスコートして、ホームまでの階段に向った。
身長は高く、ガッチリとしてスーツが少し似合わない
感じもしたが、髪を立てて、いかにもスポーツマンタイプの
彼だった。
ホームに付くと男性から声をかけた。
「俺玉田敏男って言います。君は学生さん?」
「はい、私は大学で、理工専攻で、名前は白石沙希って
言います。玉田さんは、会社にお勤めですか?」
「会社勤めではないんだけどねぇ~。フリーでデザインして
いるんだけどねっ。」
「へぇ~凄いですねぇ~。デザイナーさんで。
どんなデザインされているんですか?」
「椅子とか家具とかかなぁ~。インテリア関連なんだけど。
俺は大学でも、デザイン関係だったんだけどねぇ。
理工って、かなり今必要人材だもんねぇ~。
得意な事は何?」
「得意と言えるほどでもないんですけど、原子融合の特徴とかは
今でも得意かもしれないです。」
会話を続けながら、その時駅には電車が入って来た。
揉まれながら電車に乗ると、少し遠いいちになった二人は
目を合わせて、又今度と言う感じで、挨拶をした。
体を返れないでいたので、玉田が何処で降りたのかは
分からず、沙希はそのまま新宿で降り立った。
翌日は沙希は朝は意識して朝を出た。
今まで雑だった、化粧も念入りにし、お洒落も
毎日違うようにと、昨日はゼミが早く終わったので、
新宿で服を揃えた。
駅につくと、早速周りを見渡した。
今日はなかなか見つけられない。
しばらくして、改札を通し、ホームに出ても姿がなく、
電車を1本を遅らせても、現れず次の電車に乗った。
『折角張り切ったのに、なんでだろう。なんか、
意識しすぎだよなぁ~。周りにああいう大人の感じが
する人がいないからだろうなぁ~。』
3日連続での出会いを果たせず、少し寂しい想いにも
なった沙希だが、自分の勝手な思い込みでその場を
やり過ごした。
合間合間で電車の中や、講義中、バイト中でも
玉田の事は頭から離れず、気付けば最後に会った
2日間から1ヶ月を過ごしていた。
いつもの様な朝を向かえ、駅へと向かった。
その日の朝は、昨日から続いた雨が上がり、
晴れ上がり、落ちこぼれる雨雫がキラキラ
輝いている。
いつもの様に改札を通して、ホームの上に上がる
階段の下で、見つけてしまった。
玉田だ。
誰かを待っている感じだったが、見かけたのが
1ヶ月ぶりだ。沙希は思い切った。
「玉田さん。お久しぶりです。」
「あぁ~白石さん、やっと見つけたよぉ~。」
「えっ、何のことですか。」
恥じらいながら、首の下から熱いものが
上昇してきたのを感じた沙希は、顔を上げられない。
「君をまっていたんだよぉ~。なんせなんか中途半端な
ままで、お別れしたからねぇ。ずっと気になっていて…。
もぉ会えないと思ってたし。」
「えぇ~それ言うなら、自分もですよぉ~。毎日同じ時間で
駅に居て、探してたんですからぁ~。」
赤らぐ顔をそのままにして、沙希は自分の思いを
玉田に伝えた。
「えっ、そうなの?この時間じゃないでしょ?
前は、今より1時間早かったんじゃあ…。」
「それは違いますよ。この時間ですよ。毎日私
同じ時間なんですからぁ~。」
困ったように、顔を膨らます沙希は訴えを強くした。
「そうだったのかぁ~、ごめんよぉ~自分の思い込み
だったんだねぇ~。いやぁ~まいったぁ。」
玉田は観念して、手に頭をおいて、舌をだした。
「もぉ~。」
沙希もようやく笑顔になり、一緒に笑い出した。
「じゃあ、この間の続きの話でもしながら行こうかっ。」
「はい、続きの話はすっかり忘れましたけどねぇ~。」
二人とも、前より少し距離を縮めながら階段を昇り始めた。
「で、玉田さんは彼女さんいないんですかぁ~。」
沙希の声は弾んで玉田の耳に入ってくる。
階段の上から、振り落ちてくる光を
快く浴びる二人であった。
少し不思議な出会いの仕方と、玉田の勘違い。
会えない、会えなかった時間を少しだけ二人の
距離を変えたのかもしれない。
お互いがそう思えば、恋へと発展するが、玉田も
まんざらではなさそうだ。
今後の事は二人にしか分からない。
二人で決めていくしかない。
出会いの可能性はすぐそこにあるかもしれない。
見逃しているのか、誰かの悪戯なのか、
夢なのか、勇気なのかはわからないので、
いつなんときも、想いを続ける事が
本当は素敵な事かもしれない。
~FIN~