「いつ死んでも構わない」

投げやりだった18才の夏、


死んでもいいと本当に思っているのか?

自分の本心を知ることになった。

…………………………

( シチュエーション )

真夏だと言うのに連日の雨、

北アルプスの安房峠は寒く、

峠の茶屋ではストーブを焚いていた。

ストーブの上、

お湯の中で缶コーヒーなどが温めてあった。


ずぶ濡れで凍えた身体に、

ストーブの温かさと熱々の飲み物が

ホッと安心させてくれた。


1本では温まりきらず、

2本飲み終えてからようやく、下る決意をした。


降りしきる雨の中に飛び出し、

フル装備で重い自転車に跨り、走り出す。


高山までの下り道、

寒くて身体は縮こまり

雨が顔に打ち付けるので

目を開けていられない。


ゴー、バサバサ、、、

黄色のポンチョが激しく身体を打つ。


次に目を開けた瞬間、100mほど先に急コーナーが迫るのが見えた。


ブレーキレバーを思いきり握っても減速しない

( ダメだ抜けれない!突っ込むぞ!)


ダメだと悟ったこの瞬間の恐怖は、50年以上前のことなのに今でもハッキリ覚えている。


カーブに入り、車体を倒した瞬間、スリップ!

あっという間に何も見えなくなった。


ガードレールに顔面を打ちつける音が聞こえたが、

不思議と痛みは感じなかった。


次の瞬間、身体がフワッと軽くなり、

「エッ」と思っていると

ドサっと土の上に落ちた。


「やっちまったなー」と思っていたが

身体が止まらない


滑って行く、いつまでも、、、


「ヤバいぞ!」

崖を滑り落ちていたことに気づかなかったけれど、

本能的にそう感じていた。


この時は目が見えなかったので、

視覚からの恐怖は無かった。


ただ、止まらないことにあせり、

両腕を広げ、ブレーキをかけた


なかなか止まらない!


マジかっ!!


両腕をのばし、

ありったけの力を出しても止まらない


思いっきり体重を載せ、必死で土をかいたところ、

ようやく止まった。


ホッとした気持ちと、

「やっちまったなー」と親の顔が浮かんだ。


目を開けていたけれど、焦点が合わず、

視界は灰一色だった。


顔に冷たい雨が降り続けている。


寒くて、、このままだと身体が冷えるし、

誰にも見つけてもらえるような場所じゃない


「イヤだ!死にたくない!


その一念で、四つん這いになり、

上へ上へと駆け上がって行った。


靴が脱げてなくなってることに気づいたけれど、

振り返ったけれど、

目が見えない、灰色なだけ。


ようやくガードレールが見え、

その下をくぐって国道へ戻れた。


そう、死にたくないのだと

この時はじめて、自分の本心を知った

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ガードレールに腰掛け、

手を上げて合図を送る。


観光バスが登って来たけれど、

乗客の驚いた顔が見えただけで

止まってくれなかった。


次に通りがかったトラックに

必死に手を振ったら、

少し行きすぎてから止まり、


「どうした⁉︎大丈夫か⁉︎

 山の中、どうしたらいい?」

飛び出して来てくれた運ちゃんが聞いてくれた。


峠の茶屋から救急車を呼んでくれるよう

お願いした。


茶屋のオヤジさんが車で30分かけて平湯まで下ろしてくれて、待ち合わせた救急車で神岡の鉱山病院へ運ばれた。


頭蓋骨が陥没し、歯が折れ、鼻の下が切れていたので手術してもらった。


2週間後、警察に自転車を取りに行くと、

フレームは曲がり、使い物にならなくなっていた。


警官が状況を説明してくれた。


「あそこは180mのガケで、

毎年、車やバイクが落ちて

今まで助かった人はいない。


私はちょうど

コブのようなところに引っかかって止まった」


と言うことは、

自分の力もあったけれど、

滑落コースが左右にズレていたら

そのまま死んでいたということ。


「あと3mズレていたらこの世に居なかったよ」


本当に運が強い神様にいただいた命だと思って、大切に生きてください」と言われた。

…………………………

この時の経験は、

その後の人生で何かあるたびに思い出し、

自分の支えになって来てくれました。


死にたくないと本心では思っていると分かったことは本当に大きな宝物。


この世の中で何かしなきゃいけないことがあるのでは?自分の使命みたいなものがあるのか?それって何?と考えるきっかけをいただけたことも、今となってはありがたい。


そしてもう一つ、

この事故は中央大学サイクリング同好会始まって以来の大事件であり、登校した私はがぜん注目を浴びるようになった。


そうして、

私に興味を持つ人がいること、

私の話を聞きたがる人がいることを発見し、

サークル内では

一躍ヒーローのようになった。


平凡で埋没していた高校生から、


自分をどんどん出して目立つこと、

楽しいことを遠慮なく追求する学生へと

大きく変わって行った。


これは、その後の人生に

めちゃ大きな影響になった。


そして、この2年後に、北海道であの光景を見た。