煙管
芥川龍之介
煙管というアイテムを使って、人の虚栄心や欲心を見事に描ききっていました。
やっぱ芥川作品って面白いなあ。
加賀百万石の前田の殿様は、金無垢の煙管がお気に入り。
いや、煙管そのものというよりは、金無垢の煙管が「加賀百万石の象徴である」ということがお気に入りなのです。
だからタバコが特に好きというわけでもなく、煙管そのものに執着があるわけでもない。
いつも登城する際にはその煙管を持参し、なにかにつけ煙管を得意に話題にしていました。
それを、欲心から忌々しく見ていたのがお城坊主たち。
彼らは大胆にも、この殿様に煙管の拝領を願い出ます。
すると、立場もある加賀の殿様。ケチくさいことはできません。
気前よくその金無垢の煙管を坊主の一人にくれてやったのでした。
さて、殿様はそもそも煙管に執着があったわけではないので、下賜したことを権威の顕れと、むしろ誇らしくさえ思っていたのでした。
ところが殿様の忠臣たちは、そこに危惧します。
味を占めたお城坊主たちが、また高価な煙管をねだってこないとも限らないと心配したのです。
そこで、地金の質を落とした煙管を作って殿様に持たせてみた。
すると、忠臣たちの心配とは斜め上の事が起こりました。
煙管の質が落ちたことで、坊主たちが拝領を願い出やすくなったのです。
殿様が登城するたびに、誰彼と坊主たちが煙管をねだってくる。
気前の良い殿様はそのたびにぽいぽいとあげてしまう。
これには忠臣たちも困りました。
で、忠臣たちは金製だと殿様に嘘をついて、真鍮の煙管をもたせた。
案の定、登城すると坊主がねだる。
この段階では坊主も殿様も、金だと思い込んでいます。
坊主が真鍮だと気づいたのは、下賜された後でした。
坊主はアテが外れて超不機嫌。
同じく狙っていた仲間の同僚坊主に「こんなものくれてやる!」と投げつける始末。
しかし殿様だけは気づいていません。そもそも執着が無いですしね。
これをきっかけに、加賀の殿様の煙管は真鍮製だと噂が広まり、二度とねだられることはありませんでした。
一度は殿様の方から
「煙管をとらそうか」などど坊主に声をかけますが、坊主は遠慮します。
ここで面白いのが殿様の心境。
誰ももう煙管を欲しがらなくなったことから不快そうに顔をくもらせて、加賀の百万石の勢力が消えてしまうような気になってしまったのでした。
人に持ち物を求められることで、己の権威を実感してたっていう……
愚かだけれど、人ってそういうものかもしれないですね。