飛鳥山
藤沢周平
(文春文庫『日暮れ竹河岸』収録)
江戸は外れの飛鳥山での花見。
34歳の独身女が実家からの帰りにふらりと足を伸ばしてみると、そこで運命の出会いがありました。
それは2つか3つの可愛らしい女の子。
花見客の連れのようで、女の子の後ろの方には宴会している一団がありました。
主人公はその子に目が釘付け。
あまりのかわいらしさに、一言二言話しかけます。
年齢はわからない。名前はおゆきちゃん。
可愛らしさに破顔していると、花見客から下女らしい若い女がやってきて、子供を連れていきました。
ただし「ひとりで離れると人さらいにあうからね」と、聞こえるように主人公に嫌味を残して。
主人公は少し気落ちしながらそこを離れ、家路を行こうとしましたが。
これまでの人生を、
子ができないために離縁されてしまった結婚生活のことを思い出しながら歩いているうちに、孤独感に襲われてきたのでした。
そして、やっぱりもうひと目あの子に会ってから帰ることにしよう、と引き返します。
彼女が引き返すと、そこにまた集団から離れてひとりぼっちのおゆきちゃん。
彼らの間で何やらもめごとがあったのか、主人が怒鳴っています。
(※女の子は主人の姪であることがここでわかります。実母は病死)
主人公はなにかに取り憑かれたように、女の子を抱えて走り出しました。
女の子は主人公にすっかりなついて、
「おかあちゃん」と呼びます。
この子は生まれなかった自分の子供だ……女の目に涙があふれました。
一言で言ってしまえば、子を持てなかった女の誘拐事件なんですが。
なんだろうなあ、この切なさ。
角田光代の「八日目の蝉」も同じようなテーマだったけど、ただ単に犯罪として糾弾しちゃいけない気になってしまいます。すごく悲しい犯罪。
さらわれた側の身内からしたら冗談じゃないんですけどね。
とにかく、子を持てなかった女の心情に、胸が痛くなりました。
連れ去る瞬間の切迫感はぞわっとした。
作者男性よね。うーん。