せんくら3日目。最終日です。
公演番号47
10月2日(日)14時15分~15時15分
オール・グリーグ・プログラム
牛田智大×仙台フィル
~北欧への誘い~
日立システムズホール仙台(コンサートホール)
プログラム
仙台フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:牛田智大
指揮:太田弦
グリーグ
♪ 組曲「ホルベアの時代より」前奏曲
♪ 「ペール・ギュント」第1組曲
朝、オーゼの死、アニトラの踊り、山野魔王の宮殿にて
♪ ピアノ協奏曲 イ短調
指揮者の太田弦さんとは、今年の2月、群馬でショパンの2番を共演しています。
そして、グリーグのピアノ協奏曲。
2018年にミハイル・プレトニョフ氏と共演しています。
最終日のこの日は、仙台に住む友人と一緒に聴いたのですが
彼女によると、まだ28歳の若きマエストロの太田弦さん
来年4月から仙台フィルの指揮者に就任されるそう。
会場に足を踏み入れると、舞台の上にはぎっしりとオケ用の椅子と譜面台が並んでいました。
拍手の中、次々と登場し、舞台を埋めていく仙台フィルの方達。
男性はスーツではなく、ジャケット無しの黒いシャツです。
コンマスがなかなか登場しないなあ…と思いながら拍手を続けていたら
少しして、とても美しい女性が登場しました。
ロング丈のマーメイドスカートの黒いドレスで登場したその方は
スタイル抜群で大人の色気。
ディズニー映画『アナと雪の女王』のエルサにそっくりです。
素敵!こんなに美しいうえにコンミスだなんて!
続いて登場したマエストロ。
歯を見せて微笑みながら歩いてくると
コンミスに向かってガッツポーズ。
美しきエルサもガッツポーズで応えます。
小柄で、年齢よりずっと若く見える太田さん。
親しみやすく、明るいオーラを放っています。
弦楽器だけの前奏曲。
目の前に、朝靄に包まれた北欧の大地が広がりました。
タクトを持たない太田さんの指揮は
両足がピッタリ揃ってとても姿勢がいい。
そして私の目は、ヴァイオリンを弾くエルサコンミスに釘付けです。
前奏曲が終わり、再登場した太田マエストロ、
両手の人差し指を立ててニコニコ笑いながら何やらジェスチャーしています。
「愛くるしい」と言ったら失礼になるのでしょうが
この方のキャラクター、場が和みますね
「アニトラの踊り」の始まりでは
まるでご自身がアニトラのように腰をくねらせていたりして
ユーモアと愛嬌たっぷりです。
「山の魔王の宮殿にて」は、洞窟の天井から、ポタリポタリと落ちるしずくのように始まりました。
よく耳にするこのメロディ。
恥ずかしながら、ワタクシ
数年前、娘がピアノの発表会でこの曲を連弾することになり家で練習してるのを聴いた時
「え?これってクラシックだったの!?」
と、衝撃を受けた記憶があります。
てっきり現代のロックか何かと思ってました(///∇//)
実際、阪神タイガースの応援ソングやコンピューターゲームの音楽、
現代ミュージシャンの楽曲などでもよく使われているようです。
耳に残るし、悪魔的な感じがかっこいいですよね。
不気味に静かに始まって、同じメロディを繰り返し
徐々に盛り上がってテンポとボリュームを上げ
最後は地底を揺るがすマグマのように爆発して終わりました。
この展開と終わり方、なぜかお決まりの水戸黄門を見た時のようにスッキリするのはなぜでしょう (笑)。
終わった後も歯を見せて笑う太田さんの笑顔が可愛かったです。
舞台左奥からスタンウェイが運ばれてきました。
奥行きがそんなに広くない舞台に置かれたピアノは、かなり前寄りです。
どうしよう…。
急に心拍数上がってきちゃった…。
プレトニョフさんとの共演から4年半。
尊敬するマエストロから「この曲が絶対似合う!」と強く勧められたという牛田くん。
あの時の演奏も本当に素晴らしかったけど、4年半の歳月を経て
彼のグリーグはどんな世界を魅せてくれるのでしょう。
オケの間を縫うようにして登場した牛田くん。
手には紺色っぽいタオルを持ってます。
「さあ、やるぞ!」
と言うように、若きマエストロとソリストは軽く肘と肘をぶつけます。
小柄で童顔の太田さんよりも、落ち着いた物腰でグレーの髪の牛田くんの方が年上に見えました。
出番まで少し時間のかかるショパンとは違い
グリーグの協奏曲はすぐにピアノのパートが始まります。
ドラマチックな冒頭はあまりにも有名。
唸るようなティンパニーのトレモロに導かれ
稲妻のように始まりました。
黒々と切り立つ崖。
しぶきをあげて、ほとばしる滝。
手を伸ばして触れたら
指を切ってしまいそうなほど澄み切った音色です。
毅然として、雄大で
目をつぶって息を吸ったら
透明な冷たい空気が体の中に入り込んでくるみたい。
…すみません。
私、ただ、もう圧倒されて
「記憶に留めよう」と思いながら聴くのを放棄したために
どこがどうだったとか、よく覚えてません。
覚えているのは、カデンツァの終わりだったのか
第一楽章の終わりだったのか
鍵盤から指を離す瞬間の牛田くんが
途方もなくかっこよかったこと。
水面を撫でるように
左手、右手、左手…と
なめらかに鍵盤の上をリレーして繋ぐ指の動きのソフトなタッチ。
そこから生み出される音楽がさざ波のように広がって
ホール全体が、遙か北欧の地に誘(いざな)われます。
何度か牛田くんの演奏でこの曲を聴いたことはあるけれど
こんなに深く、美しく、心を打つ曲だったなんて。
私が未熟だったからなのか
牛田くんの演奏が進化したからなのか。
仙台の街を歩いて感じたのは
空気の透明感。
伸び伸びと枝葉を広げた木々。
清潔で、広々と整った道路。
そして、どこか都会的なセンスを感じる「品の良さ」のようなもの。
この、初秋の仙台に
牛田くんの白い指が紡ぎ出す北欧の音楽は
なんて、なんてマッチしているんでしょう。
ダイナミックで 繊細で
凜として 冷たく
北欧の大地の
男性的な岩肌と 女性的な海。
うまく言えませんが
そこには、「気持ち」とか「意図」とかの次元をはるかに超えて
人間の力など足元にも及ばない
神にしか創造し得ない大自然の景色がありました。
演奏する側には、もちろん意図や、こう伝えたい、表現したいという思いがあるはずですが
受け取る側の私には、人間が創っているとは思えない
奇跡のような音楽に、ただ圧倒されました。
穏やかで柔らかな第2楽章。
オーロラを音楽にしたら、こんな感じではないでしょうか。
研ぎ澄まされた静寂の中に
しん、と心地よい孤独を感じます。
ppのピアノは、尾を引いて流れる星の残像のよう。
静謐で 透明で なんて尊いんだろう…。
日の出と共に消えていくようなラストは
まだ見たことのない白夜の夜明けを連想しました。
グリーグのピアノ協奏曲って、こんなに美しかったっけ…?
(T T)
再び男性的な躍動感を見せる第3楽章。
オケとピアノが絡み合い
自然の持つ様々な表情を映し出します。
厳しさ、優しさ、儚さ、美しさ…。
なんだろう。もう、言葉が追いつきません。
おそらく、気が遠くなるほどの練習をしてきたであろう牛田くんの演奏は
あまりにも自然で 呼吸をするように伸びやかで 生き生きしてて
この曲が彼に似合うと言ったプレトニョフさんの先見の明に、あらためて感動しました。
オケとピアノが絡み合い 刺激し合ってスケールを増していく。
時々大きく、スッ!と息を吸い込む牛田くんの息遣いが聞こえます。
この呼吸も、もう音楽の一部なのですね。
歓喜を爆発させるように
何度も下から駆け上がってくる左手。
中指と親指の2本を使って打鍵をしたり
押下した指をそのまま左右に揺らしたり
白い指は、魔法のように繊細でダイナミックな音楽を繰り出します。
2018年に聴いたあの時から
牛田くんが過ごしてきた時間。
経験してきたもの。
浜松国際ピアノコンクール
パンデミック
ショパンコンクール
猫ちゃん達との時間
想像もつかないほどの練習や研究
プレッシャーや痛み
ああ、そんなすべてが
今、この圧倒的な音楽を創っているんだ…。
そう思ったら胸がいっぱいで
目の前で繰り広げられる光景と音楽の
一瞬たりとも 一音たりとも 取りこぼしたくなくて
息をするのも 瞬きをするのも忘れそうでした。
何万年もの歳月をかけて出来た氷河によって形成されたフィヨルド。
気が遠くなるような歴史と共にたどり着いた場所。
氷山がぶつかり合う音が聞こえてくるようで
今、ここに生きる喜びを噛みしめているようで
ああ、胸が熱い…。
息が苦しい…。
胸が痛い…。
すべてを抱き込むような大自然を感じるフィニッシュ!
立ち上がりたい衝動を、必至で我慢してました。
おめでとう、牛田くん!
おめでとう!
おめでとう!
おめでとう!
あ、書いてたら泣けてきた…。
(T^T)゚。
立ち上がって、マエストロと肘タッチ。
コンミスとも肘タッチ。
ああ、この瞬間、どれだけの音のない「ブラボー!」が会場に溢れていたか…。
私も渾身の拍手を贈りました。
五十肩なのか(泣)、最近腕を上げて拍手を続けてると腕が痛くなるんだけど
今の私に出来ることがこれしかないならば
もう、腕がもげてもいい。
手のひらの皮が破れてもいい。
(暑苦しくてすみません…)
アンコールは、ショパンのプレリュード4番。
静かで悲しげなこの曲ですが
まだ、さっきの興奮の残り火の
赤い炎がチラチラと燃えているようでした。
ありがとう、牛田くん。
ありがとう、せんくら。
ありがとう、神様。
本当に幸せな、忘れられない3日間でした。
仙台フィルTwitterより
番外編へ続く…