佐賀県内の筑後川水系のクリークで暫定初コイ野生型を釣って以来、常々気になっていたことがあった。

 

コイの野生型は飼育型に比べて体高が低く、背びれの分岐軟条数が多いことが特徴だが、ニシキゴイも一般的に体高は低くて背びれから吻にかけてのラインがなだらかであり、また、背びれの軟条も多めだ。

 

ニシキゴイとコイの関係はどうなっているのだろうと思って調べたところ、以下である可能性が高いことがわかった:

昔、現在の中国・浙江省にあたる地域で食用に飼われていた田魚(水田で養殖されていた食用のコイ属の一種で、赤、白、黄、黒の体色のバリエーションがあった)が、約200年前より以前に日本に持ち込まれ、そのうちの普通のコイの色に近い系統が食用として広まり、その中から約200年前に新潟の棚田で様々な色が再び現れたのを選抜・育種したのがニシキゴイとのこと

 

したがって、日本在来のコイ野生型との交雑が少しはあったかもしれないものの、ニシキゴイは田魚、すなわち甌江彩魚(Oujiang color carp)と同種と考えられている。

 

そしてこの甌江彩魚とその野生型は、2019年以降Amur carp (Cyprinus rubrofuscus)という新種に分類されいる。標準和名はまだないようだが、ここではアムールゴイとしておく。

 

そこで、未釣魚種アムールゴイだとわかったニシキゴイを釣るべく、今回の秋の本州遠征では各地のニシキゴイの放流実績のある川を回ってみた。

 

ところが、環境への悪影響が周知されるに従ってニシキゴイの放流もされなくなっており、10年以上前の古い情報はもとより、2017年などの比較的最近の放流や釣獲実績に基づいて訪ねてみても、いわゆる真鯉はいてもニシキゴイは全く見つからないことが何度もあった。

 

ほぼ諦めて地元で探そうと思っていた矢先、西日本某所の小さな水路で別の魚種を探していた際に、足元のアナカリスの下流端から何やら白いものが出ていることに気付いた。

 

最初はレジ袋かゴム手袋かと思ったが、ゆらゆら揺れているのを見てようやくニシキゴイだと気づき、やった!と思った。

 

ちょっと複雑な地形だったので、どうやって釣るかをデザインした後で、車まで戻り、鯉タックルとランディングネットのついたベストを携えて戻った。2時間弱経っていたが、幸い魚はまだそこにいた。

 

タックルはミディアムヘビーの1.98メートルのシマノベイトロッド、シマノシティカ、40ポンドP Eライン、22ポンドショックリーダー22センチ、がまかつの鯉鉤12号ハリス3号16.5センチで、リーダーとハリスはループノットで結び、リーダー末端に2グラムのガン玉を噛ませた。エサは熊太郎ミミズ太虫を一匹縫い刺しにした。

 

岸から生えている灌木の枝の向こうからリグを垂直に落とし、魚が隠れているアナカリスの束の斜め沖側・上流にある藻穴の下流端付近にガン玉が留まってエサが下流の藻の下に来るようにした。

 

魚からは右斜め前にミミズが見えるはずなので、そのまま少し待っていると、ガン玉がツッ、ツッっと2回下流側に引っ張られた。

 

一か八か、糸ふけを巻き取ってからアワセたところ、魚の感触と同時にアナカリスから沖に飛び出るニシキゴイの姿が目に映った!

 

沖側に出てくれたことでラインが灌木に絡まる心配がなくなったので、描いた通りに枝から離れ、背中のランディングネットで無事に取り込むことができた。

 

 

初めて釣ったアムールゴイ

 

初アムールゴイ別影。白、黒、赤の三色のニシキゴイでメス、全長38.5センチ、背びれ分岐軟条数18、体高体長比33.2%

 

初アムールゴイの1番目の側線鱗。確かに孔が開いているので第一側線有孔鱗とした。

 

初アムールゴイの側線有孔鱗数は32だった。この数は尾びれ基部(下尾骨の後端)までの有孔の側線鱗をカウントして得られるので、尾柄部を折ってできる皺までをカウントした。2007年版ヨーロッパ淡水魚ハンドブックによると、アムールゴイの側線有孔鱗数は通常は29-33で個体によっては34-36、一方いわゆるヨーロッパゴイ(Cyprinus carpio)のそれは通常33-37で個体によっては38-40なので、32以下のニシキゴイの方が説得力があり望ましいと考えていたが、幸運にも一尾目から32以下だった。

 

初アムールゴイの俯瞰

 

初アムールゴイの腹側

 

初アムールゴイの正面

 

初アムールゴイの頭部

 

食道と鰾をつなぐ気道とその鰾側と食道側の末端 (矢印)。鰾側の末端は、コイ飼育型と同様にコイル状ではないためループが全く形成されていなかった。一方、食道側の末端 (pneumatic bulb)も飼育型と同様にあまり発達していなかった。

 

初アムールゴイの腸管。腸管の長さの体長に対する比率は1.84で、コイ野生型と飼育型の中間的な長さだった。

 

初アムールゴイの鰾。前室の長さ:後室の長さは1:0.87で、コイ野生型のように後室が長かった。

 

初アムールゴイの左第一鰓弓とその鰓把。鰓把数は外側27、内側30で、外側鰓把数は理論的純系のコイ飼育型のそれである24.04よりも多かった。フィッシュベースには中央アジア原産のコイ属よりも少ないと書いてあるが、それには当てはまらなかった。

 

こういうわけで、鰓把数は多いものの、ニシキゴイであることと、側線有孔鱗数が32以下であることから、本個体をアムールゴイと同定した。

 

アムールゴイはかつてはCyprinus carpio haematopterusという学名で、コイの一亜種という位置付けだったが、2019年にカリフォルニア科学アカデミーのエシュマイヤー魚類目録(Eschmeyer's Catalog of Fishes)ならびに米連邦政府による統合分類学情報システム(Integrated Taxonomy Information System, ITIS)が学名をCyprinus rubrofuscusとする別種であると認めた。

 

アメリカ地質調査所 (USGS)、国際自然保護連合 (IUCN)レッドリスト、ならびにフィッシュベース (FishBase)もC. rubrofuscusを使用している。

 

日本でも、日本産魚類全種目録(2020年5月、鹿児島大学総合研究博物館)のコイの欄には、東アジア大陸在来種はCyprinus rubrofuscusとして扱うとある。ちなみに種小名のルブロフスクスとはラテン語で赤褐色のという意味で、1803年にフランスの博物学者であるラセペードが付けている。

 

さて、無事にニシキゴイが釣れたので、今度は側線有孔鱗数が32か、できれば31以下の野生型のアムールゴイを釣ってみたいものだ。 

 

博多湾流入河川支流を泳ぐアムールゴイ。初物と同じ白、黒、赤の三色のニシキゴイだった。2024年3月、福岡県内某所にて。

 

筑後川支流を泳ぐアムールゴイ(紅白ニシキゴイ)。2024年4月、福岡県内某所にて。