『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評― -36ページ目

【映画】『ブラックスワン』

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★★★★★

あらすじ



ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナは、元ダンサーの母親の寵愛のもと、人生のすべてをバレエに捧げていた。
そんな彼女に新作「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。
しかし純真な白鳥の女王だけでなく、邪悪で官能的な黒鳥も演じねばならないこの難役は、優等生タイプのニナにとってハードルの高すぎる挑戦だった。
さらに黒鳥役が似合う奔放な新人ダンサー、リリーの出現も、ニナを精神的に追いつめていく。
やがて役作りに没頭するあまり極度の混乱に陥ったニナは、現実と悪夢の狭間をさまよい、自らの心の闇に囚われていくのだった……。

感想

死ぬまでに観たい映画1001本』掲載の映画より、『ブラックスワン』。
(関連記事:『死ぬまでに観たい映画1001本』を、死ぬまでに観てみるという軌跡のもくじ。

一言で言うと、「思ってたのと全然違う映画」だった。

過保護で過干渉の母親からの抑圧、プリマを演じる重圧、自分と対局のライバルの出現により、「現実」と「妄想」の境を失っていくバレリーナ・ニナ“精神状態”を、そっくりそのまま映像化している本作。
もちろん、真に迫るような精神的エグさを持った映画なんだけど、「今までの自分の『殻』を破るために自慰行為をしていたら目の前に母親が!」というシーンの無駄にエロくて、無駄にホラーっぽい描写を目の当たりにしたあたりから「おや?」という思いが。
そこから、徐々に妄想に取り込まれていく主人公だが、その描写は「すれ違った人が『自分』だった!」というソフトなものに始まり、「鏡の中の自分が、本当の自分と違う動きをする」とか「部屋に飾ってある絵画が動く」なんていう『ほんとにあった!呪いのビデオ』的なもの。
さらに、鳥肌が全身を覆い、肩甲骨が変形したりと、物理的に“鳥化”していくニナ。
僕の心によぎる感情は、もちろん「・・・何だ、これ?」だ。

要するにこの映画、“アカデミックなお固い映画”と思いきや(それこそ、『オペラ座の怪人』的な“芸術のために悪魔に魂を売る・売らない”の話だと思ってました!)、実は結構な“おバカ系スリラー”だったというわけだ。

全編を通して、いや~な痛みを感じさせる映像で緊張感を高めておいて、後半には“背中の傷口から羽が飛び出てくる”という痛々しいシーンがあって。
そこから突然、足がゴキッっと『逆関節』化!(鳥化の末期症状として“鳥足”になったってこと!?)
ニナの顔はものすごく緊迫しているんだけど、映像的なインパクトでは『ファイナル・デスティネーション』シリーズ級のトンデモ描写。
こうなってくると、もはや楽しくてしょうがない。

さらに、首を締められて殺されそうになると、鳥化→首を伸ばして脱出!
完全に“黒鳥”と化したニナは、舞台の上で両腕を羽に変形させてバッサバサ!
「わ~い!なんだこれ~!!」

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そんな本作の評価したいポイントが、予告編だけでは「おバカ映画」に見えないというところ。
だからこそ、ある種の緊張感をもって、身構えて見ることが出来たわけで。
だからこそ、ぶっ飛んだ方向に振れるシーンで、心底驚くことができるのだ。

昨今の映画の予告編は“ネタバレ”しまくっているものも多いが、“おバカ映画”という面を完全に隠した本作の予告編は非常に親切だ。
(そういう意味では、僕が今書いているこの感想は、非上位不親切ってことですよ。ゴメンナサイ。)

まあ、実は本作の予告編でも、テンションが最大にアガる“鳥化”のシーンを見せてしまっていたりもする。
その点では“ネタバレ”甚だしいんだけれど、本作に関しては、映画の根底に流れる“テイスト”を隠し切っている点を高く評価したい。
そこを隠し切っているからこそ、劇場公開から時間が経って、Blu-rayも新作ではなくなっているこのタイミングでも、「お固い映画と思ったら、実はこんなに楽しい映画だったのか!ヒャッホーイ!」と思えるわけなのだ。
素晴らしいじゃないですか!


結局、この映画って「映画はエンターテイメントなんだから肩肘張って見るな!楽しめ!」ってことを言っているんだと思うわけですよ。
しかも、その主張をするために、“おバカ演出”を、全力真剣丁寧にやってるんですよ。
そういう点で、昨日のブログでボロクソ書いた『ラバー』なんていう作品とは決定的に違うんですよ。

映画における「監督の主張」が重要なのはもちろんなんだけど、「観客へのサービス精神」をきちんと持っている映画が、やっぱり見やすくて楽しいわけですよ。
それって本当に当たり前の話なんだけど、『ラバー』とうヒドい作品を見た直後だったせいか、本作『ブラック・スワン』のサービス精神の素晴らしさに、すごくハッとさせられてしまった。

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さらに本作が素晴らしいのが、役者陣の存在感。

本作の監督ダーレン・アロノフスキーは、『レスラー』の監督でもあるけれど、2つの作品の共通点として、今、この役者だからこそのキャスティングがあると思う。
一番わかりやすい例は、『レスラー』のミッキー・ローク。
あの映画は、あのタイミングでミッキー・ロークが演じることによって、言いようのない説得力が生じたのだ。

本作で言うと、まずは主役のナタリー・ポートマンがそれに当たる。
彼女はまさに「白鳥」のイメージで、“悪女”とか“エロ”のイメージは持っていない。
追いつめられていく繊細で壊れやすそうな美しさの感じまで内面から表現されているように感じるのは、“今”のナタリー・ポートマンが演じたからこそなんだろう。

さらにスゴイのが、ウィノナ・ライダー
超可愛くて、超人気者だったのに“万引き”なんかで逮捕されているというウィノナ・ライダーの経歴が、落ちぶれたクイーンであるベスという役にハマりまくっている。
妄想の中とはいえ自分の顔面を爪ヤスリで突きまくるシーンの狂気っぷりや、惨めな状況に追い込まれてもプライドを捨てない感じなど、これまた“今”のウィノナ・ライダーが演じるからこその絶品の演技だった。

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そして、全編を通してどこからどこまでが現実で、どこからどこまでが妄想だったのかがわからないという点が、これまた本作の独特な味わいを生んでいる。

本作は、最終的に“壊れてしまった”ニナの完全な“主観”を映像化しているわけだけど、まさに“人”っていうのは主観でしか物事を見れないわけで。
今の自分が本当に狂っていないかどうかなんて、自分ではわかりようが無いんだよなー、ということを改めて突きつけられてしまった気分。

ニナは“死”をもって“完璧”な演技を見出したわけで、それは客観的にみると全くまともじゃないんだけど、今の自分のあらゆる行動や思想は客観的に見るとどうなんだろうか。。。

冒頭で「お固いアカデミック映画と思ったら、“おバカ”映画だった」みたいなことを書いたものの、客観的に“おバカ”に見えるニナは、真剣に狂っているわけで。
一歩間違えば自分も転がり落ちるかも知れない“ダークサイド”の滑稽さに恐怖。
そして、人は絶対的に“主観”のフィルター越しにしか世界と関われない(そのフィルターがどんなに狂っていても。。。)という事実に、圧倒的な孤独感すら覚えてしまう映画でもあるのだ。


というわけで、本作『ブラック・スワン』。
ニナの鳥化に笑って驚き、繰り返す狂気に恐怖も覚える。エンターテイメント映画として非常に上質で、映画としてこの上なく“楽しい”作品だった。
想像していた映画とは全然違ったけど、心底“いい意味”で予想を裏切り続ける映画
いやー、映画って本当に楽しいもんだなー!という本質に立ち返らせてくれる素敵な映画なのでした。
うーん、「映画」って、これでいい
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