『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評― -37ページ目

【映画】『ラバー』(※2012年暫定ワースト映画!)

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★☆☆☆☆
※2012年暫定ワースト1

あらすじ



砂漠に捨てられた1本のタイヤ、ロバートに命が宿ったことから、ロバートは自分に物を破壊するテレパシー能力が備わっていることを知る。
ゴミや小動物を標的にテレパシーを送り、目にするものを次々と破壊していくロバート。
次第にターゲットは人間へと移り、そんなロバートの目の前を謎の美女が通りかかって……。

感想

本作は、大雑把にカテゴライズすると“アニマルパニック映画”っていうことになるだろうか。
“アニマルパニック映画”っていうと、ド定番の『ジョーズ』や『鳥』にはじまり、実在・空想問わず、ありとあらゆる生物のパニック映画ってもんが存在している。
さらには、『キラー・コンドーム』みたいなおバカ方向に振れたり、“天災”や“無機物”を暴れさせたりと、そのバリエーションはかなり多種多様で豊富だ。

そんな、ネタは全部出尽くした感すらあるアニマルパニック映画において、本作は極めて斬新で独創的。
というのも、本作の主役は“タイヤ”なのだ。
タイヤが人を殺しまくる。
このシュール過ぎる設定だけで、もう、ちょっとだけ満足してしまう。
そんな映画が、本作『RUBBER(ラバー)』なのだ。

ただ、その独創的で奇抜なアイデアに、さらに製作者の映画に対する想いやら何やらを載せまくったせいで、まったくわけがわからなくて、どう贔屓目に見ても「つまらない」作品になってしまったのが非常に残念。
(これってもしかして、「tire」と「tired」をかけてんの?と思わざるをえないほどに退屈です!)
まあ、“独創的”の一点だけをもって「見て損した!」とは思わせないだけの存在価値はあるものの、「もう少しどうにかなっただろ!」ともったいない気持ちでいっぱいになる映画だった。

というのも、本作は決して“設定だけの映画”ではなく、要所要所で笑えるシーンやひねりの効いたシーンは、ちゃんとあるのだ。
タイヤがシャワーを浴びてるシーンやプールで泳ぐシーン。(沈むだけですが。)
モーテルの部屋で始めての殺人を行った後、死体が横たわる部屋のベッドでくつろいでテレビを見ているという“ハードボイルド演出”なんかには、かなり笑わせてもらった。
こういうバカっぽいディテールをもう少し上手く活かせば、“上質おバカパニック映画”になり得ただろう。

また、タイヤが転がり始めてすぐ、“ついに自由を手に入れた男(タイヤだけど)の希望に満ちたロードムービー”の感じは、名作絵本『ぼくを探しに』『ビッグ・オーとの出会い』みたいで、すごく気持ち良さを感じる画になっている。

さらに、“殺人タイヤが主役のパニック映画”と“それを見ている観客”を映画内で描いた「メタ映画」としての構造を持たせているのもおもしろい。
まあ、映画と観客のメタ構造自体はさほど斬新なものではないんだけど、「目の前で実際に起こっている“タイヤによる殺人”を、【映画】と言い切る観客たち」の不条理さ(シュールさ)は特異で斬新だ。

そんなわけで、部分部分を見ると、おもしろくなりうるポテンシャルを感じさせる映画ではあるのだ。

$『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評―-RUBBER(ラバー)


ただ、そういう“良い所”をぶち壊しにしてしまうような雑な表現。もっとハッキリと言うと「適当に作ったとしか思えないシーン」のせいで、映画全体にしまりがなくなってしまっているのだ。

例えば、映画の冒頭。
自力で走り出すことを覚えた“タイヤ”は、ペットボトルを踏み潰すことで、内なる破壊衝動を自覚する。
その後、サソリを踏み潰し、意気揚々と転がり続けるも、踏み潰すことの出来ない“空き瓶”と出会ったことでイライラをつのらせ、ついには“念じた対象を破裂させる”という能力に目覚める。
ただ、ここで何故か、肝心の“瓶を踏みつけても潰すことができない”シーンをカットしてしまっているのだ。
(ビンを乗り越えようとしているシーンを長々と描いといて、急に乗り越えた後のシーンに飛んでしまう。そのため、「乗り越えたけど踏み潰せなかった」ってことが非常にわかりにくい!)
タイヤの破壊衝動の芽生えという、作品内でかなり重要なシーンなんだから、もう少し丁寧に描きましょうよ!

さらにもう一例。
予告編でも使われているシーンで、警察に追いかけられたタイヤが、警察のほうを“振り返る”シーンがある。
タイヤなんだから“前後”なんて気にせず、転がりたい方向に転がることができるのに、あえて“振り返る”
だからこそ、なんでもないこのシーンが面白くて印象的なわけですよ。
なのに、タイヤがモーテルに侵入するシーンでは、平然と後進で部屋に入っていってしまう。
いやいや、そこにこだわらなきゃ、面白さが半減しちゃうでしょ!

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ただ、そういう細かい“雑さ”はまだ許せるとして、本作が本当にダメなのは「適当につくったところ」すら正当化してしまうような“言い訳”を堂々と提示してしまっているところにある。
その“言い訳”は、冒頭で“劇中の観客たちへの解説”という体で語られるんだけど、これが本当にヒドい。
ちょっと長いが全文を引用してみよう。

『E.T』の宇宙人はなぜ茶色なのか 理由などない
『ある愛の詩』でなぜ2人が恋に落ちるのか 理由などない
『JFK』で大統領がなぜ突然 見知らぬ人に暗殺されるのか 理由などない
『悪魔のいけにえ』ではなぜ人を殺した後洗面所で手を洗うシーンがないのか 理由などない
さらには『戦場のピアニスト』で主人公はピアノの名手なのになぜ虐げられていたのか やっぱり理由はない
こういった例ならいくらでもある
新しい視点だろう?
つまり偉大な映画には必ず理由なき重要な要素が入っている
なぜなら、人生それ自体が理由のない事の連続だからだ
なぜ空気は見えないのか 理由はない
なぜ人間は考えるのか 理由はない
ソーセージ好き派と嫌い派がいるのも理由などないのだ

みなさん
この映画は"理由がない"ことへのオマージュである
"理由なし"こそ表現の最強要素だ


もうね。この言葉が万能すぎて、先述した批判点もすべて、この「理由なし」で片付いてしまうわけですよ。
批判するのもバカバカしくなる、スゲー適当な映画ですよ、コレは!
さらに最悪なことに、プロローグで語られたこの言葉を、エンドロールでもう一度言うという暴挙。
何じゃそりゃ。もう、わかったっちゅうねん!!!


確かに「理由などない」ことがエンターテイメントになることはあって、いわゆる“シュール系の笑い”はそういうことだし、日本アニメの歴史的名作『新世紀エヴァンゲリオン』なんかは、まさに「理由などない」からこそ、あそこまでの社会現象に鳴ったんだと思う。

ただ、エヴァンゲリオンが面白かったのは、異常なまでに“ディテールがぎっしりと描かれている”という前提があって、それでいて「そもそも、こいつらの目的って何なの?」っていう、ど真ん中がスッポリと抜け落ちているっていうのが面白かったわけでしょ。

例えば、本作であれば、「タイヤの活動にはちゃんと意味があって、物語として成り立っているんだけど、それを観ている観客って結局何者だったの?」とか「観客と映画の関係性はしっかりと筋が通っているんだけど、そもそも【映画】って何だったの?」みたいな“「理由なし」演出”にしておかないと、あまりにとらえどころがなさすぎる。

結局、映画内のありとあらゆる要素全てが「理由がない」だと、それは全然面白くないんですよ!

でもね。こうやって批判的文章を書きなぐっているものの、この映画はそういう意見に対して半笑いで言い返しているわけですよ。
「いや、だから、理由などないんだって言ってるでしょwww」と。

ケッ!バカバカしいわい!


というわけで、本作「ラバー」は、非常に独創的で斬新な画を見せてくれるスゴイ映画なのは間違いないんだけど、製作者の意図がとてつもなく気に食わない作品だった。
こうやって、この映画に対する批評めいたことを書いていること自体、我ながらバカバカしく思えてくる。
そんな、観客を無力化させる映画だ。

はっきり言って、本作の「面白いところ」「良いところ」は、全て予告編に凝縮されている。
「無力化して不毛な気持ちでいっぱいになりたい!」と言う人以外は、予告編だけを見て本編を観ないことをオススメしたい一作なのでした。

今日の余談

僕は“おバカパニック映画”が大好きで、そういう映画で楽しい時間を過ごしてきたんだけど、『ピラニア3D』とか『ファイナル・デスティネーション』シリーズとか、『タッカーとデイル』などが、すげーバカらしいけどすげー楽しい映画なのは、「がっかりさせないようにちゃんと作られている」からなんだということを再確認した。

いやー、“上質なおバカパニック映画”。ありがとう!
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ホントに、こっち方向に振り切った映画で会って欲しかったよ。。。
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