58_Merry Christmas from West Africa | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

「わたまわ」エピソードは基本的にすべて「沖縄糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン 第3弾」参加作品です。

沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています。このエピソードは12月25日、クリスマス。サーコのモノローグです。英文/韓国語とも翻訳会社チェック済みです。

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成しました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1.グループトーク
2.蚊帳の外
3.荒野の川

 

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1.グループトーク

 

夕刻。あたしは年末の買い物に出た。
高校時代にバイトしてた大型スーパーはクリスマス商戦をやってて色々安くなっていた。沖縄で着る服が少なめだったので、ひたすら買い揃えた。
1階でサンタクロースが子供達にクリスマスプレゼントを配っている。しばらく見とれていたら、2歳くらいの男の子があたしの側へやって来て、突然泣き出した。
「ママ、ママ!」
どうやら、迷子になってしまったようだ。母親はあたしに似た服装なのだろうか。サービスセンターへ男の子を連れて行き、迷子の放送をお願いする。

子供かあ。あたしにも子供が授かる日が来るのかしら。うーん、今のままではちょっと、ね。

1階のイベント広場でインターナショナルスクールの生徒たちが合唱を始めた。チャリティーコンサートらしく、舞台の両端に献金箱がある。

あたしは財布を出した。牧志の事務所のベランダにカラスが落としていったニッケルがキラリと光る。

 

 

神様、あなたがくださった恵みをみ元へお返しします。
あたしはそう祈り、献金箱に5セント銀貨を入れた。

 

奥武山のアパートに帰って考えた。そういえば、ジングは、トモは、クリスマス前にはアフリカに着いている、はず。無事だろうか?
時計を見る。ちょうど午後九時。西アフリカは日本標準時から九時間遅れる。だからアフリカは今、午後零時。失礼には当たらない。
あたしはラインを起動した。リストの中にジングを発見する。あら、アイコンが変わってる。これは、バオバブ?

少々考える。うむ。一応韓国語で書いてみよう。ジングのトークルームを出す。

“메리 크리스마스! 오랜만이에요. 아프리카는 잘 도착했어요?”
“メリ クリスマス! オレンマンイエヨ. アプリカヌン ジャル ドチャクヘッオヨ?”
(メリークリスマス! お久しぶりです。アフリカに無事ご到着になりましたか?)

すぐ既読になりました。直後にメッセージ。

“Wait a moment. ”
(しばらくお待ちください)

数秒後、なんと案内が来た。
――Kim Jin Gooさんが比嘉麻子さんとLiao Ming Shengさんを招待しました――

なるほど。ジングは、トモは、グループを作成した模様です。そういえば、どうしてあたし達、今までグループトークしなかったんだろうね?
お誘いのままトークルームへ移動する。ポン、と効果音が鳴った。

“Hello everyone. I'm in the Ivory Coast. It’s hot and humid”
(みなさんこんにちは。私はコートジボワールにいます。こちらは蒸し暑いです)

無事、コートジボワールへ到着した模様です。あちらは熱帯性気候でしたね。再びポンと効果音が鳴る。

“Hi. I'm glad to know you're doing well.”
(やあ、君がうまくやっているようでうれしいよ)

お、リャオが反応した。

“Sorry, but I have to work overtime today. I'll check what you two have written later.”
(済まない、だが私は残業があるんだ。後で君たち2人の書き込みをチェックするから)

“O.K. Take care.”
(わかった。気をつけて)

“Bye. See you!”
(じゃ、またね!)

あの、なんで英語なの? ひょっとして今までずっと2人は英語でトークしてたの? うっそー!

 

2.蚊帳の外

 

冷や汗が流れる。あたし、こんなに英語使えないよ、どうしよう? とりあえず、ぎこちなく打ってみる。

“Can I write in Japanese?”
(日本語で書いていい?)

ああ、なんか恥ずかしい。せめてCouldかWouldで書くべきでした。あんなにジングに英語教えて貰ってたのに。ポンと効果音が鳴る。
――そちらは元気ですか?」
おお、珍しい。ジングが日本語を使っている! ホッとした。日本語で打ち込む。
――はい、元気です」
続けて書いてみる。
――アフリカは暑そうですね」
――そうですね、梅雨明けの沖縄より、いいです」
あらま、そうですか。あたしは少しためらったあと、やはり書くことにした。
――リャオと話をして気がついたことがあります。あたしは自分が傷ついたことだけにとらわれていました。ジングも随分傷ついたのですよね。本当に申し訳ありませんでした。無事帰国できることをお祈りします」
送信したあと、正直に書きすぎたかなと反省した。3分ほど経って、返事が来た。
――あなたは悪くないと私は思います」

ジング、そんなこと言わないでよ。涙出てきちゃうじゃない。メッセージは続く。

“The Lord bless you and keep you;
(「願わくは主があなたを祝福し、あなたを守られるように。)
the Lord make his face shine on you
and be gracious to you;
(願わくは主がみ顔をもってあなたを照し、あなたを恵まれるように。)
the Lord turn his face toward you
and give you peace.”
(願わくは主がみ顔をあなたに向け、あなたに平安を賜わるように」』)

ああ、これは聖書の民数記、祝福の祈りだ。やはり、ジングは宣教師なのですね。ポンと再び効果音が鳴る。

“I pray that the two of you will be blessed with children.”
(お二人が子宝に恵まれますように)

い? ジング、それは、ちょっと、早くないですか? あたしたちまだ入籍してないよ? やだ、顔が赤くなっちゃう。さらに効果音。
――できるだけ早く、お子様に恵まれますように。これは、私からの強い要望です」

うーむ。リャオが間違いなく読む環境で、英語だけでなく日本語でも書いて、しかも「強い要望」ときましたか。なんと返事をしたものか。
少々考えて、こう書きました。
――お言葉通り、この身になりますように」

ルカの福音書だ。乙女マリアが天使ガブリエルに妊娠を告げられる、あの有名な処女降誕シーンで、マリアがガブリエルに答えた言葉。
それをあたしがここで書くのは、恐れ多く、場違いかもしれない。いや、かなりの確率で場違いどころか罰当たりだろう。だってあたし処女じゃないもん。ジング、それはあなた自身が一番よく知ってるよね。つい半月前まで、あたしたちは同棲していた。結婚するはずだった。それが、いろいろな出来事の末に離ればなれになった。まさか1ヶ月も経たないうちに別の男性と一緒になるなどとは考えもしなかった。
端から見たら、あたしは怖ろしいくらいのあばずれ女の筈だ。それが必死に悩み抜いて得た結論だったとしても。
それなのに、あなたはあたしに、リャオの子供が授かるようにと言うの? 別れを恨んでいる訳ではない、今はむしろ感謝しています。でも、どうして「できるだけ早く」「強い要望」で、子供が授かることを望むの?
それに、だ。リャオのこと、ジングは、トモは、どれだけ知っているんだろう。あたしは先週の金曜日、彼が性欲を感じないという話を聞いて非常にショックを受けた。そのことを、ここに書いてもいいんだろうか? もし書いたら、アウティングになるのだろうか?

言葉を濁して様子をうかがうことにする。
――ただ、彼は子供の件については問題を抱えているようです」
すぐ既読になる。メッセージがきた。

“I already know the problem. Liao told me that he is an asexual person 2 years ago.”
(その事なら知ってる。2年前、リャオが自分のことアセクシュアルだって言ってた)

2年前から知ってるんだ。ちょっとホッとする。と同時に、あたし一人が蚊帳の外だった事実を知る。落ち込む。

 

3.荒野の川

 

ジングからのメッセージは続く。

“Read the Bible, Isaiah 43:19 in Japanese. I quote from KJV.
(日本語聖書のイザヤ書第43章19節を読んでください。KJVから引用しておきます)
   Behold, I will do a new thing; now it shall spring forth; shall ye not know it?
   I will even make a way in the wilderness, and rivers in the desert.”

イザヤ書ってたしか、聖書の真ん中らへんのだよね。やたら長い預言書。KJVってのは欽定訳聖書っていう、確か一番古い英文の聖書だ。奥武山の本棚に旧約聖書あるね。あとで読んでみます。

“The Lord will make a way for two of you. I pray every day from West Africa. Bye”
(神様はリャオとサーコの味方です。西アフリカから毎日祈っています。じゃ)

ジングは“See Ya!”のスタンプを送ってきた。とりあえずあたしも猫の手スタンプを返しておいた。

アパートに戻り早速、本棚から聖書を取り出す。『口語訳聖書』イザヤ書第43章19節:
「あなたがたは、さきの事を思い出してはならない、また、いにしえのことを考えてはならない。見よ、わたしは新しい事をなす。やがてそれは起る、あなたがたはそれを知らないのか。わたしは荒野に道を設け、さばくに川を流れさせる。
つまり、ジングは、トモは、こう言いたいのだ。神様に不可能なんてない、と。

リャオから直ラインが来たのは1時間くらい後だ。グループトーク画面をチェックし終えたであろう彼は、
――大事な話をしたいのでこの週末は泊まりに来てください」
と書いてきた。あたしはきちんと返事した。
――はい、伺います」

「あけみさんのおうちに行くのね?」
ママが気にしている。前から数回外泊した時はこんなに気に掛けていなかったはずだ。やはり指輪の件が効いているのか。
「あけみさんから話があったら、ちゃんと私に伝えて頂戴」
うん、わかった。あたしは軽く頷いた。
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小説「わたまわ」を書いています。

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「わたまわ」あらすじなどはこちらのリンクから:exblogへ飛びます。もうしばらくしたら非表示かなー?
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