54_再び、満月(1) | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

「わたまわ」エピソードは基本的にすべて「沖縄糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン 第3弾」参加作品です。

2022.07.03 英文修正しUPしなおしました。翻訳会社チェック済みです。

「わたまわ」エピソード、設定は11月の満月の金曜日。

大阪で暮らす韓国人宣教師トモ(本名 キム・ジング)は沖縄人女性サーコ(本名 比嘉麻子)と別れることを決意し、それをリャオ(クロスドレッサーな帰化中国人。本名 金城明生 きんじょう・あきお 普段は読みを変えて“あけみ”と名乗っている)へ伝えようとメールを出しました。そのメールを受け取るシーンから開始です。リャオのモノローグです。

小説ながら目次を作成しました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1-1.神戸のラブホテル
1-2.寝耳に水
1-3.万事の益

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1-1.神戸のラブホテル

 

11月の金曜日
急にトモから神戸へ呼び出された。
連絡があったのは前々日のこと。ラインが入っていた。

 

"Liao, Sorry, I know this is sudden. Could you come and see me this weekend? We need to talk. It's important. "
(リャオ、突然で申し訳ない。この週末、私と会ってくれませんか。君と話し合う必要がある。とても重要なことです)

関西への航空便を探すのにまず手間取った。年末を控え案件が重なり、こちらが那覇空港へ向かうのが日没ごろになってしまう。となると、20時発の神戸行きソラシドエアしか取れそうも無い。到着予定時刻はほぼ22時。しかも、こんなときに限って翌日は土曜日なのに午後臨時会合が入ってしまい、午前中には那覇へ戻らなくてはならない。日曜に予定されている母の年忌法要の準備もあった。

 

“Tomo, I booked my flight. On Saturday, I have to go back to Naha by noon for a meeting.”
(トモ、航空チケットを予約しました。私は会合があるので土曜日正午には那覇へ戻らなければならない)

“Departing Okinawa/Naha at 20:10 on Nov. 15 and arriving in Kobe at 22:00.
 Departing Kobe at 7:30 on Nov 16 and arriving in Okinawa/Naha at 9:45.
 I guess we have to find a place to stay so we can talk. Do you have any ideas?”
(往路:11月15日20時10分沖縄那覇発、22時ちょうど神戸着。復路:11月16日7時30分神戸発、9時45分沖縄那覇着。2人でどこかに泊まり込んで話し合うのがいいと思う。なにかいいアイデアある?)

するとトモからこんな返事が来た。

"OK Leave it to me. By the way, will you come Kobe as Akemi?"
(いいよ、任せといて。ところで、君は神戸に“あけみ“で来るの?)

あけみで来るのかって? なんでこんなこと訊くんだ? 変な奴。

"Probably, yes."
(そうね、多分)

"That's good. Have a safe trip."
(そいつはいいや。気をつけてこちらへ来て下さい)

会話の意味が分かったのは神戸に来てから。

(image: Photo by Takashi Miyazaki on Unsplash)

私は頭を抱えた。だいたい何故私が、トモと、ラブホにいるのか?
「あけみさん、ここが一番手頃ですよ」
トモ、君を信じた私が馬鹿だった。たしかにモノレールさえ使えば空港からかなり近いし、値段が手頃なのは当たっているだろう。しかし、男2名の宿泊先にラブホはなかろうが!
「仕方ないでしょう、私が大阪へ戻るとなると話し合いの時間は取れない。そしたら、一緒に泊まるしかないでしょう。神戸はホテルがどこも高いんです。駅近のツインルームなんてなかなか無いですよ」
トモ、よくそんなセリフがシラッと言えるな。だいたい、正式ではないにしろ君は宣教師だろ? 男同士ラブホに泊まるなんて、どうかしていると思わないのか?
「だって寝る前にシャワーを浴びない、なんてリャオには考えられないでしょ? 顔洗わないで一晩過ごせる?」
ああ、嫌だやめてそんな話。考えただけで吹き出物出ちゃう!

 

1-2.寝耳に水

 

「早く先にシャワー浴びてください」
うむ、表向きは女性として生きている以上、トモの提案に乗ることにしよう。ちょっと、服脱ぐからこっち見ないでよ。
「はいはい、できるだけ手早くお願いします」
トモはくすくす笑っている。畜生、しゃくにさわるったらありゃしない。

リクエスト通りクレンジングを顔に塗りつけ手早くシャワーを終え、自前のバスローブを着て鏡の前に座る。たしかに、普通のビジネスホテルじゃこんな大きめの鏡は置いてないから助かる。私が肌を保湿している間にトモがバスルームへ消えた。シャワーの音が響くすぐ側で両目の際に美容液を塗る。
……ちょっと、これって、すっごい違和感ありありな展開だわ。肌の調子がいまいちなのは気のせいかしら。
シャワールームからトモが出てきた。もう浴びたの? ほとんどカラスの行水じゃない。
「軍隊ではもっと早いですよ」
「答えはいいからさっさと何か着てくれ、男の裸に興味は無い」
トモは素早くシャツとズボンを身につけた。
「おつまみの缶詰なら持ってきました、適当に開けてください。何か飲みますか? ビール? マッコリ?」
段取りの良さは相変わらずね。缶ビール頂戴。トモはワンカップのマッコリを開けた。
「じゃあ、取りあえず乾杯」
サイドテーブル越しに向き合う。カチンと音をさせて、私はビールを口に含む。トモがニッコリして言った。
「来月、西アフリカへ行きます。もう決めました」
「え?」
寝耳に水とは正にこのこと。
目をしばたたかせながらビールを飲み下す。こちらの戸惑いはそのままに、トモはマッコリをくっと傾けて飲み込み、テーブルにカップを置いた。
「サーコ、沖縄へ帰します」

トモは西アフリカへ行って、サーコは沖縄へ帰す? どういう意味?

「リャオ、質問があります」
トモはいたずらっぽい目でこちらを見て言った。
「いつから、サーコと電話してたんですか?」

 

1-3.万事の益

 

うそだろ。バレてたのか。
予想外の展開にしばらくうつむいた。ああ、きっと、ティミョパンデトルリョチャギだ。私は観念し、目をつぶった。身体が硬直する。
「いいよ、約束を破ったのはこっちだ。存分にやりなよ」
しかし、トモはこっちに声を掛けた。
「リャオ、私は怒っていませんよ」
目を開けた。トモはずっと、微笑んでいる。

私は自分のスマートフォンをロック解除し、電話の発信画面を彼に示した。
「4回、電話しました」
彼は画面をチェックしている。私は補足説明を加える。
「まず、サーコから手紙が来て、私からの連絡がないことを問いかける内容だったから、トモが禁止しているということだけを伝えようと。それで、トモが礼拝行く時間帯に、番号非通知で電話した」
「最初の時の通話時間、ほぼ1時間ありますよ」
「サーコが一人で30分以上しゃべって、話が終わらなくて。あんたの韓国のご両親にお会いした話だよ。だいぶ反対されたんだってね。とても辛そうだった。」
トモは頷きつつマッコリを飲む。
「それでも、1時間超えるし、トモとの約束もあるからって無理矢理電話を切ったさ。そしたら、翌日から毎日手紙が来た」
「毎日?」
「そう、毎日。月曜からずっと。出だしは違うけど内容ほとんど一緒。『リャオさん、お願いします。もう一度、日曜日午前に電話をください』これが毎日」
トモはケタケタ笑い出した。
「サーコらしいですね」
「いつまでも手紙来たらたまらんから、結局日曜日に2回目電話掛けて」
トモはずっと笑っている。笑い飛ばしてくれてありがとう。でも、あの状況を振り返ると冷や汗ものだ。
「電話に出たと同時に泣きじゃくるから、しばらく話にならなくて。泣きながらサーコずっと言ってるわけさ、『これ不倫だよね?』……答えようがなくて黙ってたら、また泣くし。1時間ずっとそんな調子で全然会話にならんかった」
するとトモは泣きそうな表情で頷く。私は1度ビールを飲み、サーコに送金したことは黙ったまま話を続けた。
「で、3回目の時は、サーコのお父さんの話で」
「そうそう。イラミナさん」
「トモがサーコに会わせてくれたんでしょ? どんな方だったの?」」
「今年50歳かな。サーコのお母さんと同い年って聞いてますよ。私はあちらには会ったことなくて」
そうだった。トモはさつきさんには会えてないんだった、拒否されて。
「アルコール依存症で肝硬変起こしていらっしゃいます。サーコには言ってないですが、もう長くないでしょう」
そうか。じゃ、サーコはお父さんに会えて良かったわけだ。
「ありがとう。トモのおかげでサーコは救われたね?」
私はトモをねぎらった。
「私ができることがあって、良かったです」

トモの表情が歪む。マッコリを傾け、沈黙が続く。やがて、苦しそうに口を開けた。
「何度も、何度も考えました。サーコとうまく行ってほしいと神に願いました。でも」
そしてトモはうつむいて、自分の両手の平を眺めながら言った。
「私は、もう自分は、壊れてしまっているのだと感じます」
それは、予想外の答えだった。彼は言葉を継いだ。
「この半年間サーコと一緒に暮らせて、私は本当に幸せでした。彼女はいつも私に寄り添い、私の心を明るく照らしてくれました。ですが、事態は何一つうまく運びませんでした。郷里の両親は日本人との結婚に反対で、サーコの母親は韓国人である私とは会おうともしませんでした。サーコは大阪の気候になじめず常に病気がちで、私もカウンセリングを続けながら就職しましたが、仕事の案件を片付ける時間を考えると処方された薬が飲めない、飲むと眠ってしまう。そして精神状態がアンダーになる。悪循環が続きました」
トモはマッコリを全部飲み干してしまった。右手にカラの容器を持ったまま、微笑んだ。
「そんな時に、キリスト教人民軍の募集広告を見ました。英語を話せる20代の独身男性が対象とありました。基本的に、キリスト教の開拓伝道とされる地域への宣教、ことにそれが伝道を弾圧された地域の場合、公にはされませんが宣教団が軍隊に近い性格を帯びることがあります」
そして容器を静かにテーブルへ置いて、言った。
「私は、神の戦士になるつもりです。」
「そんな……」

私は彼に詰め寄った。よくわからないことがある。
「意地悪な質問かもしれないけど。聖書にこんな文章あるよね? 『神は、神を愛する者たち、すなわち、ご計画に従って召された者たちと共に働いて、万事を益となるようにして下さることを、わたしたちは知っている。 』」
「ええ、ローマ人への手紙、第8章28節ですね。パウロが書きました」
「トモの心を壊して、サーコも傷つけて、あんたがアフリカへ行くことが、利益になるの? どうして?」
トモは目を閉じた。しばらく考えているようだったが、やがて口を開いた。
「私にもわからないです。ただ、神様は最善をなさるために、召した者たちにあえて試練の道を通らせることがあります。これが、そうなのかもしれません」
トモはうつむき、再び黙り込んだ。 ( (2)へつづく) 

 

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小説「わたまわ(わたしの周りの人々)」を書いています。

 

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