26_あきお君東京へ出張する(2)(3) | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

沖縄・那覇を舞台に展開するラブコメディー「わたまわ」をこちらに転載しています(といっても今回は8月の東京での話なんですけど)。 exblog版は26。前半省略して中盤以降転載します。リャオのモノローグです。

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成しました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1.簡単なあらすじ
2.会合の顛末
3-1.あけみさん、コサカ氏を手玉に取る
3-2.あけみさん、誕生日のサービスを受ける

 

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1.簡単なあらすじ

 

リャオこと金城明生(あきお)君は東京のIT企業・ツーファーランド社から中国企業との通訳役依頼を受けます。中国企業とツーファーランド社との日程調整をはじめますが、ツーファーランド社からの連絡は滞りがち。当日になっても会合の段取りがほとんど丸投げな状況に、リャオはついにぶち切れました。

 

2.会合の顛末

 

時間押し気味なので、そのままホテルへ向かう。あちらの役員と初顔合わせだ。もうこの展開からして信じられんが、にこやかにご挨拶する。
「君が金城さん? 思っていたより若いね?」
60代の男性と50代くらいの女性か。夫婦の可能性もあるな。そして40代はじめとおぼしき男性。あれ、見覚えがある。
そうだ、私が最初に東京で就職した大手企業の主任だった男。確かコサカという苗字だ。私が中国人と嗅ぎつけて裏であることないこと言ってくれてたね。そうか、あんたが私に通訳役を仕組んだんだな。それにしても、ここまで打ち合わせゼロで外国企業まで巻き込んで稚拙な会合を目論むなんて、どうなることやら。

 

向かい合ってテーブルに座る。通訳席の指定も何もないから、私は端っこの座席を取りトイレに逃れる。もう知らん。勝手にやってちょうだい。

 

十分くらいトイレでヒマしてたら、ほら、おいでなさった。
「金城君!」
コサカの野郎、慌てふためいてるぜ。こちらは涼しい顔で対処します。
「コサカさん、お久しぶりです」
「悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう! 早く戻って司会やってくれる?」

はあ? こいつマジで頭おかしくね? 心の声を気づかれないよう、私は平然として口を開く。

「そのような話、全然伺ってませんよ。このまま帰ろうかと」
「いや、あの、困るよ。うち誰も中国語喋れないし」
「大丈夫ですよ。お客様、携帯用翻訳器お持ちですから。じゃあ私はこれで」

11年前には本気であんたをぶっ殺してやりたかったが、当時の私にはできなかったな。
私は部下という名前のあんたの犬コロだったからな。
でも今じゃ中小企業といっても副社長なんでね。あんたの言いなりにはならないよ。
ストーンズのこの曲、お前さんにピッタリだ。

 

 

みじめでさえない業務にぶち当たった、お前はそんな人間だろ。群衆のただ中で大声で喋りすぎ、階段を上ったり降りたり。
どんなにお前が隠そうとしても涙が目を縁取ってるよ。立ち止まって周りを見ろよ。
ほら、来るぞ来るぞ来るぞ、19回目の神経衰弱が。

 

あんたが神経衰弱のカードをばらまいたんだろ?
ほんじゃ、自分で答え合わせしろや。
頭冷やして接待現場へ戻りな。じゃ、あばよ。

立ち去ろうとしたら、コサカがしがみついてきた。
「金城君、頼む、頼むよ! 埋め合わせはするから!」
「埋め合わせって?」
「明後日帰るんだよね? 明日の夜はおごります!」
おお、困ったときになると珍しく低姿勢になりやがる。

うん、妙案が浮かんだ。乗ることにしよう。

 

取り急ぎ確認を入れる。
「お客様へのお土産はあるんですよね?」
「うちの新商品だが」
ダイニングの裏手にまわって見せてもらう。人数分の、マイクとスピーカーのついた高性能小型カメラ。試供品として宅配便のバイクにつけてもらうつもりだね。で、追加購入してもらうの期待してるんだろ。魂胆見え見え過ぎ。
「中国の客人相手なら、本当はもうちょっと何か用意しますよ。それが無理なら今日ここで高いボトルワインでも一本開けてください」
コサカは黙っている。ほら、事前打ち合わせしないから。

テーブル席へ戻る。オードブルが到着してます。コサカにワインをセレクトしてもらう。一本4万ね。いいんじゃない?
ツー・ファー・ランドさんの取締役に挨拶してもらう。

 

“今天为了欢迎代表团的光临,我们在这儿设便宴,为各位接风洗尘”
ジン ティエン ウエイ リヤオ ホワン イーン ダイ ビヤオ トワン ディー グワーン リン , ウォ メン ザイ ジョーァ アル ショーァ ビエン イエン , ウエイ ゴーァ ウエイ ジエ フオン シイ チェン .
(今日は代表団がお越しくださったことを歓迎し、ここに簡単な宴席を設けて長旅の疲れを取っていただこうと思っております)

 

簡単に通訳して伝える。文句言うなよ、事前原稿用意しないあんたらが悪い。
「乾杯」
はい、中国人相手に乾杯ってことはボトルワイン一本で済むわけないね。既に2本空いた。私の金じゃないからどうでもいいけど。
サラダ、スープときてメインの子羊の骨付きステーキが運ばれる頃合いを見計らい、客人にはそれとなくワインのお値段は伝えました。感激なさってる。そして、お代わりだと。コサカの野郎、真っ青だ。知ーらない。

 

お土産もお渡しして無事にお開きです。タクシー手配しまして客人の宿泊先まで私がお届けします。かなりご満悦だ。

 

“今天真是非常感谢。 多亏金城先生”
ジン ティエン ジェン シー フェイ チャーン ガン シエ 。 ドゥオ クイ ジン チュヨン シエン シュヨン.
(本日は本当にお世話になりました。金城さんのおかげです)

 

お褒めにあずかりました。では明朝、お迎えに参ります。

 

8月18日
翌日。起きて再び“あきお君”になる。携帯電話充電、軽く朝食を済ませてメールチェック。客人のホテルへ到着。皆さん、ご機嫌だ。良かった。タクシー手配して東京駅へ。新幹線ホームまでお見送り。京都の担当者に電話連絡。ああ、ようやくひと息つけた。
東京駅を出て、うちの社員から頼まれた土産を探しに行く。うわー、行列だよ。このあと何も予定なくて良かった。多めに購入したから、さつきさんへも一袋あげよう。
客人へビジネスメール。昨日のお疲れはありませんか? 沖縄へいらっしゃる際は是非お声掛けくださいね、など。これで仕事は私の手は離れた。夕方コサカに会うまで自由だ。

 

3-1.あけみさん、コサカ氏を手玉に取る

 

夕方になった。周到に用意してツー・ファー・ランド本社へ向かう。コサカの野郎が降りてきた。キョロキョロしてる。
「コサカさん」
「き、金城君?」
相手は仰天してる。まあ、そうだろうね。私、あけみだもん。うふふ。
「今晩はお招きいただき、ありがとうございます!」
丁寧に挨拶してコサカの手を握る。硬直する相手に構わず、ひっぱる。
「私、行きたいお店があるんです。ご一緒してもらえます?」
まさか振り解いたりしないよね? 第一、貴社はLGBT当事者協賛企業だよね? てことは、私がこんな格好をしていても面と向かって差別はできない。まして、私の行為をアウティングするなんてもってのほかだ。そんなマネしたら支援団体にチクってあげるわよ?
私はコサカをとあるベトナム料理店へ連れ出した。
「ここ、最近流行ってるんですよ」
カップル2名を上席へ案内してもらう。うふふ。さあて、どうしてやろうか。
メニューを開く。よし、目当ての品、見っけ! さっそく席に備え付けのベルを鳴らして店員を呼ぶ。
「すみませーん、カエルの唐揚げください!」
「……カ、カエル?」
「カエル、中国で流行ってるんですよ。是非お試しになって!」
私はニッコリ微笑みかける。コサカさん、あんたゲテモノは苦手だったな? きっちり調べはついてるんだよ。そうそう、あのメニューも忘れずに注文してあげよう。
「それから、この、シンガポール風カエルのお粥とオレンジジュースのセットを一つ」
「ええっ?」
そんな顔しなさんな。うまいんだからこれが。
コサカは既に青くなっている。あらま、序盤から飛ばしすぎたかしら。ゆっくり料理してあげたいのに。
 

さて、ご存知の読者様も多いことでしょう。ベトナムはビール天国。つまみも色々ございます。
「コサカさんはビールですか?」
押され気味な相手がうなずくのを確認してハノイビールにグラス2つ、おつまみにロンロンを。うふふ。ビール、お酌してあげるわ。
「今日はお誘いいただき、ありがとうございます。乾杯!」
はい、どんどん飲んでね。これからが本番よ。
ロンロン来ました。ぶっちゃけ、豚の内臓盛り合わせ。沖縄風に言うなら「中身」をそのまま持ってきた感覚。沖縄では腸を使いますが、こちらは胃袋です。香菜と一緒にレモンとかで食べます。
「美味しいですよ。あらどうしたのコサカさん、どんどん召し上がって!」
コサカは表情が引きつっている。どうしたの? こんなに美味しいのに!
続いて、カエルのお粥セット。お鍋に白粥、蓋付きポットに煮込まれたカエルのぶつ切りがたっぷり。
「よそってあげますね」
「いや、いいから、いいから!」
おい、まさか白粥だけ食べるつもりかい? 遠慮はいらないよ、一番美味しい太ももの部分入れたげる。チャポン。
「本当に美味しいんですよ! ほとんど鶏肉ですから!」

 

(image:Photo by Henrique Felix on Unsplash)
あけみと思ってね、うふふ♪

嘘じゃないよ。鶏肉より美味しいくらい。コサカさん、目を固くつむって食べてる。ね、美味しいでしょ? どうして顔をしかめるの?
そうしているとカエルの唐揚げも来たよ。こりゃ大分スパイシーに調理したね。水かきがよく見えるわ。コサカさん、ますます顔をしかめる。うーん、ビールによく合うし美味しいのになー。

 

3-2.あけみさん、誕生日のサービスを受ける

 
コサカさん、青い顔で白粥とオレンジジュースをちびちびやってるよ。気の毒に。でも釈放する前にもう一押し。ベルを鳴らし店員を呼ぶ。
「すみません、メニューに、誕生日の客にプレゼントありますって書いてあるんですけど」
「はい、お誕生日を証明するものはお持ちですか?」
私は免許証を見せた。顔はもちろん、あきお君。

 

おい、店員さん、そこで固まっちゃだめだよ。東京はオリンピックも開催した国際都市なのに、LGBTの客をこんな調子で扱い続けるつもりかい? コサカさんもコサカさんだ、自分がLGBTの客を連れ込んだ相手だと思われるのがそんなに嫌ですか? あー、修行が足りないな。もう少し鍛えてあげようか?
「少々、お待ちくださいね」
店員さんが下がった。コサカさんがどもりながら話す。
「……金城さん、今日、誕生日だったの?」
「あら、申し上げてなかったですか?」
そうよ。8月18日生まれ。獅子座なの。乙女座だったらよかったのに。
「お待たせしました。本日のデザートが一品サービスになります」
チュオイ・チン(揚げバナナ)だ。揚げバナナって書いたけど、バナナに米粉つけて揚げた天ぷらです。
「悪くないですよ」
コサカさんにも薦める。実は、すこし酸味がある。コサカさん、また顔をしかめたね。バナナと言わない方が良かったかもしれないが、今回はいいことにする。

 

以上です。コサカさん、本日はごちそうさまでした! 沖縄土産に本場のフォーを買い込みながらコサカさんに話しかける。
「またこの時期に呼んでいただけます?」
「いや、あの、ちょっと」
では、このあたりで釈放してあげましょう。気をつけてお帰りくださいませ。投げキッスしたげる。チュッ!
そしたらコサカさん、店先で転んだ。あーあ、気をつけてって言ったのに。
(途中ですが FIN) NEXT:逃避行の幕開け

第二部目次  ameblo

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小説「わたまわ」を書いています。

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「わたまわ」あらすじなどはこちらのリンクから:exblogへ飛びます。もうしばらくしたら非表示かなー?
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