ご近所の 花たち
草枯れの まがきに残る なでしこを
別れし秋の 形見とも見よ
おろかなる 老の涙の うすければ
夕日のかげの 大和なでしこ
※ 右近詩集 「 なでしこの 花 」 ( 38 )
・ 焼 香 ( 42 / 419 )
・ 祈りの家 ( 43 )
・ 花 押 ( 44 )
・ まだ見ぬ故郷 ( 45 )
・ 日本人 ( 46 )
【 焼 香 】
天正十年 十月半ば
京都洛北 大徳寺にて
織田信長の 弔いの儀が
見よ 盛大に 執り行われた
棺をおおう 金襴緞子 ( どんす )
弔いの列 果てることなく
警固にあたる 一万の兵
秀吉 ・ 諸侯 三千余人
洛中洛北 僧侶集めて
七日にわたる 法要続く
信長殿の 恩に感謝し
その死を悼む 気持ちはあるが
衆人環視 右近にとって
悩んだ末の 決意の行動
偶像礼拝 焼香はしない
天にまします われらの父よ
信長殿の 葬儀に集う
遺族 ・ 大名 すべての者に
救いのわざが なされますように
主の御名により 祈ります アーメン
【 祈りの家 】
緑の中の 教会堂
広い庭には 花あふれ
池に魚の 泳ぎいて
大樹のそばの 大いなる
十字架の下 ( もと ) 祈る民
新築された 会堂は
デウスを崇め 礼拝し
祈りの家に ふさわしく
材料すべて 新しく
心をこめて 造られた
夜明けを告げる 鐘がなり
朝一番に 宮に来る
ダリオとジュスト そして民
デウスの前に 跪 ( ひざまず ) き
パーテルノステル ( 主の祈り ) 祈祷文
雨風 寒さ 雪の日も
御前 ( みまえ ) に集い よろこびて
心合わせて 祈りゆく
神は答えて 高槻の
民を日に日に 救われる
【 花 押 】
近日出舟 ( でふね ) いたし候
この一軸 ( ひとじく ) を 進上致さむ
誠 ( まこと ) 誰にと 存じ候
永き別れに 志 ( こころざし ) のみ
[ 朗詠 ]
帰らじと 思へば兼 ( かね ) て 梓弓
なき数に入る 名をぞ留る
正行 ( まさつら ) 公は 戦場 ( いくさば ) に向かい
命おとして 天下に名を挙げ
我 南海に 名をば流して
天に命を 懸けるは如何 ( いかが )
六十年の 苦も忽 ( たちまち ) に
散りてあとなく この中 ( じゅう ) の礼
申さず候 恐惶 ( きょうこう ) 敬白
羽 ( は ・ 羽柴 ) 越中様 南坊 ( みなみのぼう ) 花押
【 まだ見ぬ故郷 】
日本を追われ 故郷をあとに
荒れる大海 ( おおうみ ) たゆたう小船 ( おぶね )
苦難の中に 主は共にいて
導き給う まだ見ぬ故郷
すべての人を 隣人 ( ポロシモ ) として
自分のように 大切にして
天のパライゾ めざして生きる
いつか旅行く まだ見ぬ故郷
押し寄せてくる 歓迎の声
ひびく楽の音 ( がくのね ) 清らかな歌
わが主に見 ( まみ ) え 喜びあふれ
旅路の果ての まだ見ぬ故郷
【 日本人 】 ━━ 巡察師ヴァリニャーノの見た
礼儀正しく 慎み深く
上品にして 清潔であり
よく学びとり 優秀優雅
豊富な一つの 言語を話す
戦乱続き 貧しいけれど
名誉重んじ 忍耐強く
苦悩は胸に 感情押さえ
道理を重んじ これに従う
思慮が深くて 理解力あり
秀 ( ひい ) でた天性 勉学好む
仕事に熟達 技術は精巧
すべてに調和が 保たれている