Q. 前田利長が 点前をした時に、炭が 十文字の “ 嫌い炭 ” になった時の状況が よくわかりません。どういうことですか。
A. 加賀藩史料の 「 旧邦記 」 ( 1753年 ) に記されているものです。
加賀藩 二代藩主 ・ 前田利長が、髙山南坊を 正客として、近臣の者たちを茶会に招いた時のこと。
“ 炭点前 ” を、皆がそばに寄って拝見していた時に、
利長の手元が乱れて、白い枝炭が、作法では 嫌い事になっている
“ 十文字 ” になってしまいました。さあ、大変!
他の所作においてさえ、交叉させることは ないほどです。
一度置いたものは、さわらないのが原則です。
利長は 困ってしまいましたが、どうしようも ありません。
正客の右近 ( 南坊 ) をはじめ、皆が注視している中でのことですから、ゴマカしようが ありません。
炭点前の 最後の しるしとして、御薫物 ( おたきもの ) の 香を加えて 香らせ、煙が立ち上っていきます。
この時、正客の 髙山右近が、
「 源三位の 歌人の俤 ( おもかげ ) を 」 と言って、
━━ 様子が、心の中に浮かんできます、と 会釈して 挨拶したのです。
それを受けて、利長は 思わず、含み笑いで 答えたのでした。
● 列座の家臣たちには、何のことか わかりませんでした。
後日、お客の一人だった 生田四郎兵衛 が、利長公にたずねました。
「 汝ら 知らざるべし。先日の炭に、嫌い事の 十文字を置くなり。
せんかたなさに、薫物をして 会釈せしを、南坊 会釈せしなり。
昔時、源 三位頼政 は 歌人なるゆえ、
禁中 ( 宮中 ) より “ 煙十文字 ” という難題を下されし時、頼政読む
曙の 嶺にたなびく 横雲の
立つは炭焼く 煙なるらむ
となり。この心遣いもて、南坊が “ 十文字の炭 ・ 薫物の煙 ” に、
取り合わせ面白し という事を、褒賞して申すもの也。」
( 「 旧邦記 」 )
たなびく 横雲の白、それに 交叉する形で、炭焼く煙が立ち上っていく。
その歌の意 ( こころ ) のように、
横になってしまった 白い枝炭と、薫物の 香の煙。
なかなか、風流な景色では ございませぬか。
━━ と、エールを送ったのでした。
勿論のことですが、前田利長にも 髙山右近にも、双方に、
源頼政の歌についての 知識がなければなりませんし、
もし、利長に その知識がなければ、随分 失礼なことにさえ なってしまいますよネ。
https://www.youtube.com/watch?v=zAiZBIiM_ZU
※ 今日 ( 6/28 )、 近所に咲く 愛の花 【 アガパンサス 】
ギリシャ語 agape ( 愛 ) + anthos ( 花 )
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