【漫画】ノユ・ファンタズム:星野架名 感想 | つれづれマカロン

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46歳ひきこもりの
人生楽しみたい日々なのです

花とゆめコミックス『プレーンブルーの国』1985年刊)に収められています。星野架名さんの初コミックスです。架空のイギリス人画家イーノが描いた「ノユ」という妖精たちがいる「ノユ世界(ワールド)」がお話のベースになっています。大まかなあらすじは、ひょんなことから超能力を得た普通の女の子が、最初は喜んでいてもあとで疎外感に落ち込み…でもその力でみんなを救うお話です。

本橋妙子は夢のなかで魔王ウーレに、「お前が気に入った。望むものを言え」と言われた。とっさに望んだのは「超能力」。「与えよう!」ウーレの目が光った。妙子は少し不安になった。キュナの樹の上でノユたちが見ていた。

実は魔王ウーレの出番はここだけなのですけど、浮気性で、気に入った女性に贈り物をするのが趣味、なんだそうです。あと、キュナの樹、と書きましたが、この樹もここ以外、出てきませんでした。世界観を作るための小道具、といったところでしょうか。

遅刻しそうな時間に起きてしまった妙子。居間のドアを開けると、食器棚が倒れてくる。とっさに「止まれ!」と念じると、宙でお皿が止まった。そして何ごともなく元の位置に戻る。母親が来そうになったので、妙子は靴を持って二階へ上がる。

まずは超能力の発揮・その1です。食器棚倒れていたら大惨事でしたでしょうから、これはいい超能力でした(^▽^) 何で靴を持ってから二階に逃げるんだろう、と思ったんですけど、もう学校へ行った、と思わせるためだった、とあとから気が付きました。わたしは鈍いのです。

『ノユ世界(ワールド)』。大好きな画家・イーノの描いた世界。部屋中にポスターが貼ってある。昨日見たのはこの世界の夢。はっきり覚えているのは魔王ウーレに超能力を与えられたことだけだけど…。ノユは体長25cmの銀の妖精。いろいろな世界に入り込んで悪戯をする。

思えば、この『ノユ世界』を創造したのも星野架名さんなわけです。ほんとにイマジネーションが豊かな方だと思います。ノユは、のちに星野架名さんが描くことになるキャラクター『時野彼方』にどことなく似ています。とくに『彼方~まほろばフェスタ』に出てきた小さなたくさんのちび彼方ににているなあ、と。

お母さんが上がってくる音がする。靴を履いて部屋から瞬間移動! 外の道路に出る。テレポートは3mが限界。でも、すごい速度で走ることはできる。気持ちいい! ずっと夢見てきたこと。

すごい速度で走る超能力…というと、奥歯をかんで「加速!」のイメージでしょうか。風の様に通り過ぎた妙子を見て(というか「見えなくて」)、近所の奥様がたは「鳥かおもちゃでしょう」と言っています。そういうこと、できたらいいですよね('-'*)

ノユたちが噂している。妙子は学校へいくつもりだ、超能力をどう使うつもりだろう…。でも、元々彼女は特別な能力を持っているのにね、僕たちと同じ、異世界を行き来する力を。本人はまだ気づいていなくて、1年に1度使えたらいいほうだけど。

少女漫画のヒロインのお約束・本人は気づいていない特別な能力が備わっている! ですね(^▽^) もしかして、ノユ世界の夢をみたのはその力のせいでしょうか?

一限目の数学、抜き打ちテストがあることを予言する妙子。プリントを持って階段を上がってくる先生が見えたという。予言通りにテストが始まってみんな驚く。テスト中に落としたシャーペンを超能力で拾い上げる妙子。それを見てしまった山田くんは目を疑う。

とりあえず、身近なところから超能力を使ってみる妙子なのです。でも、予鈴がなってから一限目の抜き打ちテストを予言してもたしかにすごいが何の役にも立っていない!…ですけどね('-'*) シャーペンを超能力で拾うのは少しうかつではないかな、と思いました。みんながみんな、不思議なことに理解があるわけではないのに…。

休み時間、化学室の前を通るとすごく嫌な予感がする。何かが燃えているような…。その時、だれかが妙子のことを話しているのが聴こえる。山田くんが「シャーペンを拾うのを見た。抜き打ちテストも当てたし、気持ち悪いよな」と言っている。超能力。E.S.P。注意して使わないといけない…。

たぶんわたしだったら、クラスメイトの誰かが超能力らしきものを使うのを見ても「気持ち悪い」と言ったりしない!とは思っていますが、やっぱり実在すると違ってしまうものでしょうか。この「気持ち悪い」という言葉が妙子に大きなショックを与えることになります。

次の時間は化学。実験室に移動と聞いて、忘れ物を取りに行くふりをしてロッカールームに行く妙子。化学室のイメージが脳裏に浮かぶ。ガスが漏れているけれど、みんな薬品の匂いで気づいていない…。火花が走り、化学室で爆発火災が起きる!

妙子の「炎のイメージ」はやっぱり予言でした。でも、化学室なだけにてっきり薬品関係で火災が起こると思っていたらガス漏れとは…('-'*) 妙子がロッカールームに居て無事だったことで、みんなを助けられたんですけど、何だかひとりで安全圏に逃げていたようにも思えますね(^▽^) いや、だれも嫌な予感のする部屋には近づきたくないけれど。

ノユたちが何とかしようとするが、妙子が向かっているのを見て「任せよう」という。火に取り囲まれたクラスメイトと先生を、妙子はバリアで囲んで校庭へテレポートさせる。残った数人の上に瓦礫が落ちかかるが、妙子は能力で瓦礫を宙で止める。そしてまたテレポート。みんなをテレポートさせ終わると、気分が悪くなって倒れる妙子。

クラスメイトを超能力で危機から助ける! 特に、落ちかかる瓦礫を宙に向けた手のひらでぴたっと止めてみせる! 格好いい! 災害の現場でなんですが、こういう超能力って憧れですよね…。ふだん目立たない女の子がそんなふうに活躍する夢をみることは多いと思います。わたしも夢見ました。最後に残った自分ひとりが脱出できない、というのもお約束です…('-'*)

火災を止めなきゃ、と朦朧とする意識で思う妙子。水は駄目だ、発火する薬品があるはず。空気を抜けば…。そして、妙子は意識を失ってしまう。小さなノユたちが合体して、ひとりの男子生徒に変身した。妙子を抱き上げて外へ連れ出す。でも妙子は気を失ったまま、動かない…。

こうして妙子のぎりぎりの活躍で、火災は最小限の被害で食い止められたのです。ノユたちが小さな『時野彼方』に似ている、と前に書きましたけど、彼らが合体して変身した男子生徒は彼方そのものでした。それにしても先生方、「本橋さんは男子生徒が連れだしてくれました。見たことのない生徒だったけど…」って、その生徒めちゃめちゃ怪しいじゃないですか。逃がしてはだめですよ('-'*)

意識の底で、もう学校にも戻れない、これからどうやって生きていこう…と途方にくれる妙子。怖かった…みんなの、妙子に向ける目が。世界から立ち去ろうとすると、どうして行ってしまうの?とノユたちが話しかける。「超能力はこの世界では異端だから…憧れていたのは確かだけど」と妙子は答える。

一日のはじめには、部屋から道路にテレポートしたり、超加速で走ったりして楽しんでいた妙子が、すっかり変わってしまいました。それはやはり、山田くんの言った「気持ち悪い」という言葉が引き金になっていると思うのです。あこがれだけでは済まなかった超能力。妙子は(ある意味)自殺を試みるほどに追い詰められてしまったのです。

ノユの世界では超能力なんてあたり前のことなのにね、と妙子はいう。ノユ世界は架空のものじゃなかった、画家のイーノが創りだした世界じゃなかったの?と訊くと、それはYESでもありNOでもある、と答えるノユたち。空想や作り話の世界は作者の世界の近くに時空や次元を超えて存在しているんだよ、と…。

星野架名さんのフィクション観が表れていると思います。誰かが物語を作るとき、その人の近くにたしかに物語世界は存在している、なんて、素敵な考え方です。ということは、星野架名さんのそばには、妙子も、緑野原のみんなも、ちゃんといるのでしょう。物語を作り出せるひとが羨ましくなるお話です。

あたしはクラスのみんなが好きなんだ、と妙子は帰ることを決める。魔王ウーレに伝言。超能力は大きすぎる力なので今はあなたに預けます、って、とノユたちに言う。ノユたちは「妙子は魔王が浮気した中で一番いい子だと思う」「魔王にはもったいない」と囁きあう。一日だけの超能力者・妙子。次に会えるのはいつだろう?

ちょっとこのあたりの妙子の心境の変化が謎でした。最初は「学校には戻れない。元の世界を去ってしまおう」と思いつめていた妙子が、元気にウーレに超能力を返して、元の世界に帰る、というのですから(^▽^) 一日だけの超能力者って、なんだか80年代の青春ラジオドラマの雰囲気で素敵です。いえ、これも80年代漫画なんですけどね。ノユたちが「魔王にはもったいない」というところなんて、妙子に自己投影している読者の優越感をちょっとくすぐります。

教室の懐かしい匂い。目を開ける。「本橋!」「妙子が目を開ける!」みんなの声。本橋妙子、それはたしかにあたしの名前。超能力、ノユ世界。あたしのそばにあった。さあみんなに不思議な話を聞かせてあげよう…。

このおはなしも、万々歳のハッピーエンド、というよりは、何か考えさせられる終わり方でした。前回の『妙子跳ねる!』に続いて、妙子が一度は自分を見失いかけて、そして妙子自身を取り戻すまでの物語です。妙子は人の何倍もの経験をしているんじゃないのかな。それにしても、『ノユ世界』の話なんかを大真面目にしたら、火災の影響で頭がどうかしたと思われそうではあります('-'*) いつの日か、妙子はウーレに預かってもらった超能力を受け取りに行くのでしょうか? 座ったまま落としたペンを拾う程度の能力は残しても良かったのでは…と残念に思ったりして(^▽^)

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