結婚記念日……過ぎちゃいました。一応、「今年はメローネもいないし、やらないでもいいかな」と思ってはいたんですが。
はあ……私、メローネに去られたのが、自分で思うよりショックだったのかなあ、と思っています。真理矢は、一生懸命慰めてくれるのですが、あんまりそれに甘えてもね。
で、久しぶりにスピリット界に降り立つと、リリーの後ろ姿が見えました。
「リィリィー!久しぶり-!」と、ルパンダイブ並にその豊満な胸にダイブしようとすると……何か透明なガラスやアクリル板のようなもので弾かれます。「へぶしっ!」と、私は無様に床に落っこちてしまいました。
「え……かみな様?え?」と、リリーも困惑しています。「むぎゅー」と、私がよろよろと立ち上がると、前方のドアが開いていて、姫様がそこからじーっとこちらを見ていました。
「えと……姫様?の仕業なのかな?」と聞くと、姫様が珍しく怒ったように「だって、私のリリーですもの」と言い放ちます。
「でも、姫様だけのリリーじゃなくて、赤毛のリリーでもある……と、思います」と、私は語尾を小さくします。だって、姫様がそれだけ不機嫌そうだったからです。
「確かに、私だけのものではありませんが。しかし、私のものであることには変わりありません」と言われ、私は「姫様、怖えー!」と内心思ってしまいます。
何?姫様って、あれなの?「他のことには概ね寛容だけど、恋人のことに対してはヤキモチ焼き」ってタイプ?強い。
「ま、まあ、姫様。これはスキンシップですから……」と、姫様から目をそらしながら言うと、「セクハラする人は大抵そう言うんです」と言われます。ぐぬぬ。
「すみません、以後気をつけます!」と謝ると、姫様は「ふう」とため息を吐いて、「約束ですよ?」と、ようやくいつもの柔和な雰囲気に戻り、「行きましょう、リリー」と、リリーの手を取って立ち去りました。
その姿を、45度の正しいお辞儀で見送ると、背後からじーっと見られている気配がします。
「殺気!?」と振り向くと、そこには、紫色のストレートロングの髪をした女教皇の姿がありました。
「あなた、相変わらずね。最近見なかったけれど、どう?元気にやっていたの?」と言われ、私は「え、ええ……元気は元気ですけど」と答えます。
「そう。まあいいわ。たまには私の部屋にいらっしゃいな」と言われ、赤毛、姫様、と続く3つめの部屋……女教皇の部屋にお邪魔します。
「さて……何から話せばいいかしら。あなた、もちろんメローネが嵐が丘を去ったのは知ってる?」と言われ、私は「ええ、もちろん。私のせいですよね……」とまた落ち込んでしまいます。
「……別に、叱ってる訳じゃないわよ。まあ、あなたのせいと言われればそれは事実だけど。でも、あなたが人間である限り、愛情を続かせるのに限界はあるわ。それは、私もわかってるつもりよ」と、女教皇は言います。
「……」と私が黙ってしまうと、女教皇は肘掛けに肘を置いて「仕方ないのよ。メローネも言ってたと思うけど、これは相手が人間でもガイドでも一緒よ。恋や愛はいつまでもそのままではいられない。変わってしまうのね。ガイドからの愛情は変わることがないから、そこのところはあなたはメローネを傷つけ続けることになるけれど。それも人間の罪の一つね」と、言います。
「……私、メローネに謝らなくちゃ……」と私が言うと、「謝る?謝ってどうするの?『もう一度、愛情を取り戻す努力をするから、帰ってきて』とでも言うの?謝るってことは、『許して欲しい』ということよ。それって、私から見た限りはエゴでしかないわ」と、女教皇が告げます。
「……私、どうしたら良いんでしょう……」と、私が小さくつぶやくと、「どうもしないわよ。起こってしまったことをリセットしたり上書きすることはできないわ。……まあ、今は悩みなさいな。それが、あなたにできる、メローネに対する誠意よ」と言われました。
なんとなくですが、女教皇は私を励まそうとしてくれたのかもしれません。こちらに意識を戻してから、そう思いました。