「お兄ちゃ~ん!オムライスさめちゃうよ~っ」
妹のしずかが俺の部屋の惨劇を見つけたとき、
俺はもう部屋にいなかった。
校庭の桜が強風にあおられてあでやかに散っている。
俺は春の夕暮れの風に頬をなぶられて、
そんな場合じゃないってわかっていながらも
若干センチメンタルな気持ちに浸っている。
俺はあの手紙を見てすぐに、リョーマとさえちゃんの携帯に
電話をしたけれど、通じなかった。
葵ちゃんの携帯を聞いていなかったのを後悔したが、もう遅い。
とにかくいてもたってもいられずに、
二階の窓から簡易はしごを使って外に出て、学校を目指した。
学校に向かって走りながら、
俺の頭は様々な疑問でオーバーヒートしていた。
誰がいったいあんな手紙を投げ込んだのだろう?
牛若丸の後を追ってきた何者かなんだろうか。
牛若丸はあんなにのほほんとしているので
俺はあまり彼女の身の安全を考慮していなかったけれど、
もしかしたら相当危険な状態にあったんじゃないのだろうか。
そして、手紙の「お前ら」というのは誰のことなんだろう?
俺、リョーマ、さえちゃん、葵ちゃんも入っているのだろうか?
誰にも見られていないと油断していたのに、
牛若丸の話でスパークしていた俺たちを、
誰かがどこかで監視していたのかもしれない。
そいつに牛若丸は見えるのだろうか…。
息も切れ切れに学校に着いた俺は、体育館の角で誰かに勢いよくぶつかった。
「なんだぁ、お前文覚か!こんな時間にどうした!」
黒髭だ。くそっこんなときに面倒だぞ。
「えーとすみません、体育館に忘れ物しちゃって」
「忘れ物だぁ?!何もこんな夜遅くに来なくても明日でいいだろう?」
「いや、あの、大事なものなので」
「大事なもの~!適当なことをぬかしおって!大人をバカにするな!
全くお前ときたら・・・
真面目にやれば窓側にも座れる実力はあるのに勉強に身をいれず…」
このタイミングでお説教かよ!こいつ、MAXめんどくさい!
俺はブチっときてしまった。
「すみません!悪いけど急いでるんでそこどいてください!」
言うが早いか、黒髭の巨体に体当たりして、
バランスを崩して倒れた黒髭を飛び越え、俺は体育館の入り口に向かった。
後ろから黒髭の怒声が追いかけてくるが、わき目もふらずに走る。
こんなワイルドな行動、普段の温厚な俺からはちょっと考えられないけれど、
細かいことに構ってはいられない。
なにしろ今は一刻を争うのだ。
心臓が激しく脈打っている。
もしもあいつらに何かあったら…!
俺は体育館の重い扉を開けた。
体育館特有のかびくさい匂いとともに、一瞬生ぬるい風が俺を襲った。
中は真っ暗で何も見えない。
俺は中に入っていきながら叫んだ。
「リョーマ!いるのかーっ!」
何の返事もない。
生ぬるい風はもわりと澱んでいて、じっとりと汗ばんだ俺の体にまとわりつく。
これは…もしかしたら血の匂い…?
「リョーマ!さえちゃん!葵ちゃん!牛若丸!」
俺が一歩足を踏み入れるごとに、血の匂いを含んだ生ぬるい風は濃くなっていく。
俺は胸騒ぎが激しくなるのを感じながらも、
みんなの名前を呼びながら奥へ奥へと進んでいく。
進むにつれて、足元の床がぐにゃぐにゃとゆがんでいくように感じた。
俺の気のせいなのだろうか?まるで土の地面を歩いているような感触だ。
ささやくようにかすかな声がした。
「きちゃダメ…」
この声は…葵ちゃん?
その瞬間、後頭部に燃えるような痛みが生じ、俺は意識を失った。