ブンケイと牛若丸(8) | ウカの小説掲示板(仮)

ウカの小説掲示板(仮)

ウカの小説読み放題!



マターリして行ってね⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン

俺には昔から妙な癖があったらしい。


らしいというのは、俺にはそんな記憶が全くなく、


親から教えてもらって初めて知ったからだ。


困ったことがあったり、悩んだり、といった、


何か壁にぶつかった時に、俺はよく指を噛んでいたそうだ。


なぜそんな話になったのか、よく覚えていないけれど、


確か俺が中学3年生で、家族みんなで食卓を囲んでいた


時だったように思う。そのときの俺は、全く自覚がなかった


ので、ただからかわれているだけだと思っていたけれど、


今思うと、あれはまぎれもない事実で、からかってなんて


いなかったのだろう。


なぜ急にそんな思い出話をするのかというと、


葵ちゃんにその癖を指摘され、昔の事が蘇ってきたからである。


あぁ、親父の言ってたことはあたってたんだ、とあの時、


親父を罵倒したことを少し反省した。(いわゆる思春期ってやつ


で、なぜかいらいらしていたんだ。)


閑話休題。


教室での実験は、ほぼ俺の予想通りの結論だった。


さえちゃんは、牛若丸に触られたことを、


完全には自覚することが出来なかった。


完全に、とは、触れられていることを自発的に自覚する、という意味で、


言われてみないと誰かに触られているとは分からない、言い換えるなら、


言われなければ、ただぼんやりと触られているであろう箇所が温かい、


程度の認識しか出来ない、ということである。


この結論はとても興味深い。


ここから、牛若丸は、


幽霊や死んだ者の怨念といった類のものではないのではないか、と


俺は考えた。


見えないというだけで、さえちゃんにもその存在は認識出来ているし


(あくまでぼんやりと、だけれど)、残りの3人は言わずもがなである。


だとすれば、この奇妙な現象を解く鍵はそのあたりにあるのかもしれない。


見えないのが普通で、見えているのが異常であるなら、


その見えている側を調査するのが、セオリーというもの。


俺達3人(あるいは探せばもっと見える奴はいるのかもしれないが)に、


何か共通因子のようなものがあって、何かのきっかけでそれが


発動し、見えるようになったのか…?


あるいは、葵ちゃんのような特殊な能力が俺とリョーマにもあって、


それが関係しているからなのか…?


気づくと俺は、もう自分の家にまで着いていた。


あの実験後、もう下校時刻が迫ってきていたので、すぐに俺達は


解散したのだった。問題は、牛若丸をどうするかだったが、


葵ちゃんが、「私の家ならなんとかなるよーっ。多分だけどねっ」


と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


家族も似たような能力を持っているせいか、そういった不思議現象


には割と平気らしい。それに、同じ女性同士の方が、


好都合かとも思ったので、口を挟むのは止めておいた。


ということで、問題解決。


一同解散し、みな帰宅の途についた、というのが20分前の出来事で、


その間俺は、実験結果の考察と今日の出来事を整理していたのである。


しかし、冷静に考えてみると、まるでSF小説のようなことが今まさに


起こっているわけで…。


やれやれ。こんなに忙しい新学期が今まであっただろうか。


「ただいま」


俺は返事を期待せず、扉を開けたのだが、予想に反して反応が


あった。


「おかえりーお兄ちゃん!」


返事をくれたのは妹のしずかだった。


今年10歳になる小学4年生で、俺と歳が離れているせいか、


とてもなついてくれている。兄の贔屓目なしに見ても、


なかなか可愛らしい顔をしていて、とても将来が楽しみな


娘である。


「お兄ちゃん、ごはん食べるー?」


今、まさに食べている最中に来ました、と言わんばかりに、


しずかの口元にはごはんつぶがついている。


漂ってくる匂いから察するに今日は、オムライスとみた。


「そうだな。あとで食べるから、置いといて、って言っといて」


「ほーい」


と、アイドルも真っ青の、とびっきりの笑顔を残して、しずかは


リビングへと戻っていった。


なんというか…俺に似ず、


まっすぐに育ってくれているようで、なによりだ。


俺は階段を昇り、2階にある自分の部屋へ行き、


ベッドに横になった。


明日からは普通に授業が始まるので、本来なら、


予習でも軽くしておこうという気になるのだけれど、


残念ながら、今の俺はそれどころではなかった。


俺の脳内の100%は牛若丸の事で占められており、


とても勉強などする気になれない。


「さて…どうする―」


下校途中の考え事の続きでもしようとしたその刹那、


俺の脳ははガラスの割れる甲高い音によって、


一時思考を中断せざるを得なくなった。


――何が起こったんだ?!


見ると、部屋一面に割れたガラス片が飛び散り、足の踏み場が


ない、惨憺たる状態になっている。


一体誰が…?


俺は慌てて割れた窓から顔を出し、この卑劣極まりない行為をした


人物を探そうとしたが、あたりは夕闇に包まれ始めていることもあって、


それらしい人影は見当たらなかった。


いたずらにしては度を超しているその行為に、俺は薄ら寒いものを


感じずにはいられなかった。


今までの人生で、これほどまでに自分に対して敵意を向けられること


などなかった俺。いや、たいていの人間がそうだろう。


悪意剥き出しの行為がこれほどまで人にダメージを与えるなんて…。




「慶太、今の何の音なの?」


どうやら、一階にまであの音が聞こえていたらしく、母さんが不審に


思ったようだ。(そりゃあれだけ大きい音がすれば誰だって思うだろう)


「なんでもない。ちょっと花瓶を割っちゃって…」


この部屋に花瓶などないのだが、それで納得したみたいで、


それならいいんだけど、という声がかすかに聞こえた。


ふぅ。危なかった。さすがにこの状況は見せられないからな。


母さんとのやり取りで、少しだけ落ち着きを取り戻した俺は、


まず片づけをしようと、身近にあった破片に手を伸ばした。


「ん?」


俺が手を伸ばした破片のすぐそばに、なにやら紙切れの


ようなものが落ちていた。


よく見ると直径10センチほどの石を白い紙で覆ったもので、


このガラスを粉々にした犯人はこれを投げて窓を粉砕したようだ。


けれど、たかだかこの程度の質量の石でここまで粉々に出来るもの


だろうか?


姿かたちの分からない相手によって自分が追い詰められている


ような、じりじりと後退させられていく感覚に近い。


ひやりとした窓から吹き込んでくる風が、俺の温まった


体を急激に冷やしていく。


取り払った紙に、何か書いてあることに気づけたのは、


その風のおかげだった。吹いてくる風によって紙が


反転し、文字側の方を表にしてくれた。



『あの剣士を連れて若紫学園体育館まで来い。


 もしこなければ貴様らの命はないと思え』



どうやら俺達は本格的に厄介事に巻き込まれたみたいだ。





最初から読む     前へ←     →次へ