【4月29日・土曜日】千葉のウリハッキョへ
楽しいはずの公開授業の日が…
校舎の前のベンチに座っていた女性と目が合った。今はやめてしまったが、焼き肉店をしていた頃は何度か、お店にお邪魔した知人だ。会うのは久しぶりだ。
私・「お元気そうで、今日は?」
女性・「孫の授業参観…二人の…教室はシジハバだらけ…」
私・「楽しそう…」
女性・「学校に来ると、普段会えない人ともあえて…アボジ、オモニだけではなく、祖父母も…今から運動会も楽しみ…」
授業は終わったばかりなのだろう。廊下には保護者があふれていた。JRではなく、京成線の最寄り駅で下車、初めての道なので少し遠回りをしてしまい、公開授業を逃してしまった。悔やまれる。
二階の講堂に上がっていこうとすると、新入生と一緒になった。担任の林先生が「ハナ、トゥル(一、二)」というと、児童たちは「セン、ネッ(三、四)」、「イルゴプ、ヨドル(七、八)」には「アホプ、ヨル(九、一〇)」と受ける。元気な声が響き渡っていた。多目的ホールの前に着くと、自己紹介の歌「ナヌンナヌン(私は私は)…」を。名前を言ったり、年を答えたりしていた。ソンセンニム(先生)の年は「秘密」とのことだ。
学父母集会が始まった。金校長の許可を得て、後ろの窓際の席に着いた。
新入生と二人の新任の先生が紹介された。六人の新入生が自己紹介の歌を笑顔でうたう姿に大きな拍手がわいた。思わず手を振るアボジがいた。オモニはスマホを向けていた。初級部二年を担任することになった趙先生は「可愛い児童たちと一緒に成長することができれば…」と、もう一人の朴先生は、朝大卒業後、他の総連機関で働いていたようで、「…希望通り教職に就くことができて…」と嬉しそうにあいさつ。慌てたのか、緊張したのか、担当学年を言わなかったが、会場から「五年生の担任」との声が上がった。
日程が詰まっているのか、司会進行役の裵先生は少し早口になっていた。
低学年のサッカークラブの説明があり、新年度から導入されるICT教育に伴っての四年生の電子教科書が紹介された。音読、声が出ます、新しい単語は、ペンで線も引けます…。会場からは、「線なら今の紙の教科書にもひけるのでは…」と。質疑応答の時間はないようだ。五年生から英語が正規の授業になることも報告された。

運動場から「まだだよ~」の声。窓越しにみると、三人の幼児が駆けまわっている。何度も転びそうになっていた。
続いて、運動会での席取り。例年早朝から列ができるようだ。「今年は事前に抽選で…小一と中三には優先権を…」
新年度の説明が終わると、そのまま教育会の総会だ。前年度の収入と支出が報告され、新年度のそれが発表された。理事長を兼任する金校長は、教育は国家の百年の計といわれる、従来国が担うべきものを独自で解決しようとすることは「奇跡」に近いことだと話していたが、財政状況は予想以上に厳しいようだ。それでも、アボジ会と昨年の七〇周年記念事業の実行委員を軸に新たに構成された二二人の理事が紹介された。「ナノハナ(私とあなたが一つ)」の精神で突き破っていくとの意気込みが伝わってきた。
休憩を挟んで、千葉市の補助金不交付に抗議しての「緊急集会」だ。二日前の四月二七日に突然通知された千葉市による五〇万円の補助金取消に抗議する集会だ。保護者集会中も度々、「この後、抗議集会かあるので…急ぎ足になって…」と、アナウンスされていた。共催団体の「千葉朝鮮学校を支援する県民ネットワーク」の会員も加わり、一〇〇名前後か会場を埋めた。
金校長と県民ネットワークの代表の廣瀬理夫弁護士、オモニ会とアボジ会、青年同盟の代表者ら六人が吐露したのが「憤り」だ。金校長は「私たちの歴史観や文化をだれも奪うことも、強要することもできない」と。廣瀬弁護士は、憲法違反、「事件」だとし、互いの文化に敬意を示し交流し、異文化を知ること、それを否定してはならない、「日本国民の総意」とはごまかしの論理だとのべ、日本人として恥ずかしいと語った。
ウリハッキョに四人の子どもを通わせているという女性は、「ウリハッキョが大好きだという子どもの心を傷つけては…」、「怒りと悲しみ、不当な扱いをはねのけ、一つになって子どもたちのために…」と述べた。

窓越しにジャングルジムにぶら下がる幼児が見えた。いま、この子たちの笑顔が奪われようとしているのだ。
会場では、アボジ会の代表は五〇万円のためではなく、ウリハッキョを守っていこうと。青年同盟の委員長の「어제간이 하라(オジェガニハラ=いいかげんにしろ)」との朝鮮語での一言が響いていた。
発言を求めた一世の同胞は、これは「暴挙」であり、日本の友人に対する挑戦でもある、けっして許してはならないと、静かにはっきりと述べていた。

抗議集会が終わって、校内をひと回りした。講堂の向かい側の中級部三年の教室の廊下側の壁には、「日・自治体、慰安婦合意批判したと朝鮮学校補助金切る」との「ハンギョレ」新聞のコピーが貼りだされていた。一階の掲示板にとめてあった、千葉市長への抗議文と、同校の生徒と先生に宛てた「連帯」の文には次のように記されていた。
「…補助金交付を取り消したことに幻滅しました。…私はこれまで幾度となく美術展と芸術発表会に足を運び、その都度、多文化共生の素晴らしさを実感しました。…再考することを切に願うばかりです。」
「…日本人として激しい怒りを覚えると同時に、みなさんには申し訳ない気持ちで一杯です。…朝鮮学校差別の問題は、日本人の問題であり、日本の民主主義が問われている問題です。」
「日本に住み選挙権を持つ私たちがきちんとした人権意識を持たないがために、外国人特に朝鮮半島出身の人たちには辛い思いを強いている現状を何とか変えたいものだと思っております。…みなさんと共に、これからも頑張っていきます。」

講堂では、引き続き集まりがつづいていた。アボジ会総会、学級別懇談会、部活別懇談会…。運動場では、生徒たちがボールを追っていた。
校舎の前のベンチでは、「こんな集会したくないね」、「千葉駅での情宣にも多くの人が参加するよう…」。緊急集会に参加した顔なじみの県民ネットワークの会員が、そんな話を交わしていた。
保護者たちにとって、公開授業は新年度の初のイベント、おしゃべりも楽しみ、学校の運営、ICT教育についてももっとたくさん話を聞きたかったはずだ。千葉市長の理不尽な措置が、そんな時間を奪ったのだ。

電車の中で、「緊急集会」で渡された新聞資料を見ると、「交流事業適さず」、「日韓合意批判で」との見出しに、思わず「オジェガニハラ」を発していた。連休初日は、まこと苦々して日となった。(記録する会)
再整理して、5月下旬に刊行する『朝鮮学校のある風景』43号に掲載します。