サランの会の一日給食
【2月27日・土曜日】
集合時間からだいぶ遅れた。それでも昼食時間の一時間前には着いた。
「阿佐ヶ谷朝鮮学校サランの会」は、学期毎に一度、独自に給食を提供している。いつもは準備でごった返しているはずの給食室に人影がない。ピンポン玉より大きい肉団子が大きな二つのお鍋の中で踊っていた。多目的ホールにはすでにテーブルと椅子が並べられていた。
隣の会議室からは話し声が、顔なじみの五、六人のサランの会のメンバーが談笑していた。授業が終わるのを待つばかりのようだ。メインの肉団子スープの大方の仕込みは前日に終わったとのことだ。

いつものように校舎をひと回り。東京第九は教室のドアがくもりガラスなので、廊下から児童たちの授業風景を見ることができない。かすかに児童の声が聞こえる。立ち上がったのだろう、椅子を引く音が漏れてく。学校ならではのこのざわめきがたまらない。
一階に降りてきて、いつものように玄関正面に貼りだされている「オモニ会寄贈図書」をチェック。「くれよんのくろくん」、「にゃんともクラブ」、「大どろぼう…ふたたびあらわる」、「時間をまきもどせ」など、愉快なタイトルが並んでいた。

一二時半、いよいよスタートだ。
児童一人ひとりに「少なめ」とか、「多め」とか声をかけてご飯をよそう。体格を見ながら高学年は大目だ。大きな肉団子を載せスープをかけると、具だくさんの人団子入り汁入りご飯、クッパだ。小柄な若い女性の先生のどんぶりは、大柄の校長先生より大盛りになっていた。まだまだ育ち盛りのようだ。

「サランの会」のメンバーも児童たちに交じってテーブルに着いた。「サランの会」の黄色いTシャツを着た長谷川代表の笑い声が響いていた。「耕さない、肥料を与えない」、自然栽培のコメを提供した同胞は、児童たちに米ができるまでを丁寧に説明していた。彼も「サランの会」のメンバーだ。

昼食が終わると、昨年一一月からスタートした「第九の部屋」。元ウリハッキョの先生がハングルの本の読み聞かせとか、全国の日本の学校を回っている劇団員による朗読と歌とか、歌舞伎の口上だとか、手ぶりや声色を変えての語りとか、毎回、「詠み人」をゲストして迎えている。五回目を迎える今回は、来日して一〇年という女性によるハングル版の「星の王子さま」の朗読だ。
図書館に行くと、「詠み人」の洪さんが児童一人ひとりと話しながら名前を書き留めていた。少し早口なので、低学年の児童はぽかんとしていたが、高学年の児童は、壁に映し出される文字と、洪さんの口元を交互に見ていた。ネイティブのウリマルは児童たちに刺激を与えたようだ。
「緊張した…今度はもっと準備をして…上手に…」と、言いながらも、洪先生自身、言葉が通じ合うウリハッキョの児童との交わりを楽しんだようだ。終わった後も、運動場で児童と笑顔でバスケットボールに興じていた。

その頃、炊事場では後片付けが続いていた。「サランの会」のメンバーにもかかわらず、結局この日は、スープづくりにも、後片付けにも携われなかった。ただご飯をよそい、肉団子を四つも食して引き返した。

運動場では一人の男子児童が地ならしをしていた。四年生で、サッカー部だとか。よほど楽しいのか飛び跳ねるようにして、行ったり来たりを繰り返していた。
「面白い?」と聞くと、「面白い」という返事が返ってきたが、学校かなのか、サッカーなのか聞きそびれた。


最寄り駅まで下校する児童を追った。二人とも一年生だという。一人は昨年二学期、静岡のウリハッキョから来た転校生だ。「サランの会」の事務局長が追い付いてきた。「三木さん」「三木さんだ」、児童たちの人気者のようだ。男子児童は、駅まで事務局長に話しかけていた。***
*加筆して、3月下旬に刊行する『朝鮮学校のある風景』36号に載せます。