耳袋③河童
耳嚢は、江戸時代中期から後期にかけての旗本・南町奉行の根岸鎮衛が、佐渡奉行時代に筆を起こし、死の前年の文化11年まで、約30年にわたって書きためた全10巻の雑話集。
公務の暇に書きとめた来訪者や古老の興味深い話を編集したもので、さまざまな怪談奇譚や武士や庶民の逸事などが多数収録されている。
今回は怖くないですよ。
大丈夫、大丈夫。
江戸深川 河童の事
天明元年の八月に仙台河岸伊達候の蔵屋敷で河童を叩き殺し、塩漬けにしたという事件の顛末を松本豆州が図持参で教えてくれた。
その場に居合わせた者から聞いたとのことである。詳しく尋ねると、その屋敷では幼い子供が特に理由もなく溺れて死ぬことがたびたびあったらしい。
原因を探るため掘、淵をせき止めて水を干すと、泥の中を風のように動き回るものがいる。
ようやく鉄砲で仕留めたところ、河童だったのだという。
傍らにいた曲淵甲斐守が「昔、河童の絵を見たことがあるが、この絵とまったく同じであった」と語った。
河童
深川に伝承あり
全国各地でいう水の妖怪。
河童という呼称は関東地方の方言カワッパが語源だと言われている。
水神系
東北地方のメドチ、北海道のミンツチなどがあり、子供の姿系には、関東地方のカッパ、カワランベ、九州地方のガラッパなどが入る。
姿形についても、地方によって相違があり、頭に皿が無いものや、人間の赤ん坊のようなもの、亀やすっぽんのようなものと、実にさまざまに伝えられている。
起源について
本所の置行堀の怪異の正体は諸説ある。
根強いのは河童の仕業という説とタヌキの仕業という説である。
河童説
本所の隅田川の他、向島の源森橋、江東橋の錦糸堀、仙台堀(現・仙台堀川)などに河童の伝承があることが根拠とされている。
タヌキ説
隅田川の七福神めぐりの中の多聞寺に狸塚が存在することから、タヌキには存在感があることが根拠とされる。
本所七不思議にはタヌキにまつわる話が他にもあり、近づいても囃子の音の主が分からないという「狸囃子」、正体をタヌキとした「燈無蕎麦」や「足洗邸」の絵双紙も描かれている。
置行堀のタヌキが、足洗邸と同様に屋敷から大足を突き出す怪異を起こしたとの話もある。
他にもカワウソ、ムジナ、スッポンによる仕業などと様々にいわれており、追いはぎによるものという説もある。
僕も犯人と思われているの?
ふふふ・・・それは秘密です。
両国の置いてけ堀
錦糸町の置いてけ堀
亀戸の置いてけ堀
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20220825/09/ugi77314/09/65/j/o1920108015165349122.jpg?caw=800)
立つと子供くらいで、頭の上は平らで皿みたいだし、水掻きがあって。川や池にいます。
やっぱり僕らしいね?
深川ではカッパは、仙台堀と木場の2箇所で捕獲されていたという
上記の話の仙台堀では伊達候の蔵屋敷で河童を撃ち殺して塩漬けにしたという。
仔細は、伊達候の屋敷では子供がよく水難事故に遭う。怪しむべしということで、堀の内、淵ともいえるところを堰き止めて水を干したところ、泥を潜って風のように早い何かがいて、ようやく鉄砲で撃ち仕留めたという。
木場入舟町では、この辺の川で水に入ると引っ張り込むものがいる。木場のいなせな兄いが捕らえてみると河童。
この水辺の者には、二度と悪さをしないと詫び証文を書かせて手判を押させて許したという。
昔、江戸には日本カワウソが沢山いました。
江戸の街には水路も沢山あり、浅草、本所、築地、深川にも日本カワウソが明治・大正の頃までは住んで居ました。
いわき市
常磐長孫町(じょうばんおさまごまち)の河童伝説
藤の花は五月に咲くのが通常です。
それなのに長孫の川土手には、節でもない真夏の土用に、真白い藤の花を見ることがしばしばあるそうです。
これは河童の恩返しだといわれています。
村人に河童が生け捕りにされたと聞いた長老が、今までこの岩崎川で河童が悪さをしたのを見たことも聞いたこともない、可哀相だから助けてあげなさいと言い、それを聞いた河童は右の小指を切って次の様に書いたのでした。
まだ人を殺した事はありません。 しかし私は天王様に人間の生き胆を奉納しなければなりません。
夏の土用の頃、川土手に白い藤の花を咲かせます。 その花を見た年は川に近寄らないで下さい。
必ず約束は守ります、命を助けていただきありがとうございます。
その何年か後の夏の土用の川土手に白い藤の花が咲きました。 人々は河童の花が咲いたと下の堰での水遊びを戒めました。 おかげで川での厄も起こらず済んだのだそうです。
現在では河川工事に伴い藤の姿が消え去ってしまい、この言い伝えを残すのみとなりました。
(文・常磐地区まちづくり懇談会)
人間を騙したりした事もないし
確かに魚は食べますよ
でもやはり僕なの、犯人は?
(『河童の世界』石川純一郎、『河童』大島建彦編、『神話伝説辞典』朝倉治彦・井之口章次・岡野弘彦・松前健編、『総合日本民族語彙』『民俗学研究所編、『日本未確認生物辞典』笹間良彦、『日本妖怪変化語彙』日野巌・日野綏彦、『耳袋』根岸鎮衛)。