耳袋

江戸時代中期から後期にかけての旗本・南町奉行の根岸鎮衛が、佐渡奉行時代に筆を起こし、死の前年の文化11年まで、約30年にわたって書きためた全10巻の雑話集。

公務の暇に書きとめた来訪者や古老の興味深い話を編集したもので、さまざまな怪談奇譚や武士や庶民の逸事などが多数収録されている。

江戸時代の不思議な事

これは今で言うところの怪奇ものとしてではなく、奉行が当時は真実として思われた事を色々と綴ったのである。

江戸時代には不思議な事が、今の時代よりごく普通に身の回りに起こったようです。

なので人々はそれを疑うより、それを信じる事も生活の一部であったのではないでしょうか?

河童や天狗

例えば江戸時代の庶民は、河童や天狗は本当に居るけれど、ただ人々があまり見たことがないとか。

キツネやタヌキは時々化けて人間を驚かせるとか。

これが普通の人々の感覚だったようです。

 

同じように猫にも色々な話が残っています。

今回は猫の話をします。

猫の妖怪も中世はただ大きな猫だったのが、江戸期になると人に化けるようになりました。

 

日本では縄文時代の地層からネコの骨が出土していて、野生のネコと考えられています。

 

日本にイエネコが渡来したのは、奈良時代の初期に中国から仏教の教典を運ぶときに、ネズミの害を防ぐため船にネコを乗せたのが最初であるといわれています。

そして平安時代では高級なペットでありました。

しかし江戸期では数も増えて、普通に庶民の周りに沢山いました。

動物の研究 

そもそも昔、日本の学者は意味のない研究はしなかったそうです。

例えば食べる動物や、薬草になる植物は研究するが、猫や犬はその辺に居ても研究の対象にはならなかったのです。

ただの獣。

里山に居るキツネやタヌキもただの獣。

つまり獣はごく普通の動物であって、研究の対象にはあまりならなかったらしい。

犬もペットと云うより長屋に勝手に住んでいて、誰かが時々餌をやっていた獣でありました。

だから繋がれていません。

現在の野良猫みたいですね。

知らないおばさんが時々餌をあげています。

逆に高級猫は繋がれて飼われていました。

 

犬と狆(ちん)

狆は犬として別格の扱いでした。当時の日本で最も身近にいた犬は飼い主のいない里犬であり、ペットとして飼育されていた狆は里犬とは別の貴重な愛玩犬でした。

 

化け猫と猫又

江戸時代の猫は10年も飼われると知識と霊力を蓄え、喋ったり人間並みの知力を発揮することができると信じられていました。

化け猫同様にネコの怪異として知られる猫又が、尻尾が二つに分かれるほど年を経たネコといわれることと同様に、老いたネコが化け猫になるという俗信が日本全国に見られます。

 

化け猫はネコが妖怪に変化(へんげ)したものであり、猫又と混同されることが多いが、化け猫はしっぽが1本であることが特徴。

猫又は2本あると言われています。

 

猫又は大別して山の中にいる獣といわれるものと、人家で飼われているネコが年老いて化けるといわれるものの2種類がありました。

 

当時はそもそも現代みたいに長生きをする猫も珍しかった。

現在、室内飼いの猫の平均寿命は15歳前後となっていますが、野良猫の平均寿命と比べると、3倍近くも長い寿命になるのです。

江戸時代も5歳ぐらいが寿命だったのでしょうね。

 

猫の話

  • 「踊る猫」

昔、津軽藩の侍の娘が一人で留守番をしていると、猫が手ぬぐいをかぶり、「猫じゃ猫じゃとおっしゃいますなぁ 猫は下駄こはいて杖ついで しぼり浴衣こで来るものが。はぁおんにゃがにゃーのにゃ」と歌いながら踊った。

猫は娘に、自分が踊ったことを他言すると殺すと言った。

しかし娘は母親に話してしまう。

翌朝、娘は首を噛みちぎらて死んでいた。猫もそれきり帰らなかった。

 

  • 「10年生きれば、みんな話せるよ」

1795(寛政7)年の春、牛込山伏町(現在の新宿)のあるお寺で起こったできごと。

その寺の飼い猫が、庭で鳩を狙ってじーっとしています。近くで住職が声を出したところ、鳩は飛び立ってしまいました。すると猫が

うむ、ざんねんなり。

と喋ったではありませんか。

驚いた住職は、慌てて猫を追いかけ、台所で捕らえます。

突然人の言葉を話すなんて、なんとも奇妙だ。

なぜ喋れるようになったのか理由を言いなさい!言わぬのなら、わしはおまえを殺してしまうぞ。

猫はこう答えます。

人間の言葉をしゃべれるのは、わたしだけではないぞ。

10年も生きていれば、たいていの猫は喋れるようになるし、15年も生きれば変化(へんげ)の力もつく

 人間がわたしたちの力に気づかなかっただけだ。

ちなみに狐と交わって生まれた猫は、そんなに年をとらなくても、物を言うことはできるぞ。

 

住職は猫がきちんと回答してくれたので、他人の前では喋らないよう注意しました。

猫はしきりにお辞儀をしてその場を去りましたが、外に出るとそれきり戻ってくることはありませんでした。

 

  • 「何も言った覚えはないよ」

江戸番町(現在の千代田区)のある武家の屋敷では、どんなにねずみが家を駆け回っても、決して猫を飼わなかったそうです。

しかしこの屋敷では、ずっと昔に猫を飼っていました。

そのころのお話です。

 

あるとき庭先に来たスズメを取り損なった猫が

ざんねん。

と声をあげたので、屋敷の主人は耳を疑い、咄嗟に猫を捕まえて威嚇しました。

人間の言葉を喋る、怪しい奴め!

すると猫は

わたしは何も言った覚えはないよ。

としれっと答えるのです。

呆れているうちに、隙を見て猫は逃げ出して、そのまま戻ってきませんでした。

このことがあってから、家で猫を飼うことはありませんでした。

この様に江戸時代の猫は化けて、踊って、喋ったらしい。
怖い❣️
そして、明治になって更にこんな証拠が出ました。
「吾輩は猫である」
遂に猫は字を書くようになったのです。
お終い。
面白かったですか?
少し怖かったですね。