「正直、何が起こったのか分からない」
デインが静かな口調でそう言った。
手術に成功し、目覚めたデインに話しを聞いているのだが、どうにも的を得ない。
ロキはと言うと、疲れたからと早々に自室へ籠ってしまっていた。
「いつも通り、自分が厄災を跳ね除け、ロキさんには住民の避難を誘導して貰っていた」
思い出しながら話すデインは伏し目がちになり、金の瞳が微かに揺れる。
その姿はまさしく天使そのものだった。
(デインは『ウリエル』…。めちゃくちゃ美形…天使のイメージピッタリ…)
そこでローキは思った。
デインの外見に嫉妬したロキが、後ろから槍でグサリ!と…
(そんなワケないか。やってるなら、ボクが来る前からやってるだろうし)
「背後に気配がして、振り向く間もなく槍を受けて気を失ってしまった」
(あれ?嫉妬説ありだったりして?)
「その時、馬の鳴き声を聞いた気がした。タユさんはどう思う?」
デインの話しに聞き入っていたタユナスは、うーんと首を捻る。
「ロキですわ!」
シャルロッテは叫んだ。
「ロキがデインのその、全世界をも魅了するかのように美麗たるや悩ましい姿に嫉妬してぶっ刺したのですわ!」
わぁお、ボクが思った事より盛られてるぅ〜。
ローキは笑いが込み上げるのを必死に我慢した。
「それはないですぅ。ぶっ刺すなら、もっと早い段階でぶっ刺してますよぉ」
マーガレットまでも、ローキの思った事を口にする。
「シャルロッテさん、『ぶっ刺す』の表現は些か下品では?」
「では、ぶっ刺し遊ばしましたのよ!」
タユナスの論点もズレているが、シャルロッテの直しもおかしい。
デインが放けていると、
「馬が居るなんて、時間帯的におかしいです。
デイン、確かに馬の鳴き声を聞いたの?」
やっとティナがマトモな事を聞いてくれた。
「あぁ、確かに馬の鳴き声だった。
近くに馬車は無かった。運行時間も過ぎていたし。
馬小屋は街の反対側にあるし…」
デインの話で分かったのは、デインは何者かに襲われた可能性が高いと言う事だ。
「暴漢ですわ!デインが美しすぎるから!」
「厄災が降ってるのに、それは無いと思いますぅ」
「それに、デインくんは使い手一番の強者です。
そんなデインくんの背後を取るなんて…」
各々話し合う中、ティナが飲み薬をデインに手渡す。
「とにかく、今は養生しなくちゃ。
さ、飲んで」
「イヤだ。苦い…」
「ダメ、飲むの!」
「ヤダ。ティナが飲んでくれ」
「痛み止めなんだから、ちゃんと飲むの!」
ティナがわざと肩の傷を叩き、デインが弱った隙に無理矢理薬を流し込んだ。
咳き込むデインを哀れに思ったローキは、
「キミのお姉ちゃんヒドイね」
と、声を掛けた。
「あぁ、この人がユグドラシルに住む悪魔かも知れないと時々思う…」
その台詞にブチ切れたティナは、もうひと瓶無理矢理デインの口に流し込むと、デインはその場ですぐ寝てしまった。
どうやら、眠り薬のようだ。
「養生には寝るのが一番!」
それを見てタユナスは言う。
「もう遅いですし、皆さんも休みましょう。
もし眠れなかったら、ティナさんからお薬を貰いましょうね♪」
本気なのか冗談なのか、
とりあえず、誰も笑えなかったと言う。