第1話 厄災の世界樹 | rune,wird

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ある日、ローキが道を歩いていると、キラリと光る物が落ちていた。

それは腕輪だった。

太陽が反射してキラキラ眩しい。


「わぁお♡純金じゃーん♡」


腕輪はズッシリと重く、よく磨かれ、大切にされている事がひと目でわかる。

これは良心のある者ならば、持ち主を探すか、役所に届けるか…


「落ちてるって事は、もう要らないから捨てたって事だね♪

今日からキミはボクの物〜」


良心の欠片もない邪神は、即、我がものとする。

そして腕輪を左腕に嵌めると、急にめまいが。

地震のように地面がぐらつき、一瞬にして視界が真っ黒になり、その場にローキは倒れた。






やがて目を覚ますと、男だか女だか見た目では分からない美人と目が合った。

真っ白い肌にロイヤルブルーの深い瞳。

その人は嬉しそうに叫ぶ。


「ご主人様!」


しっかりとローキを見てそう言った。

間違いなく、ローキの事を『ご主人様』と呼んだ。

…え、ご主人様??


ローキは訳が分からずポカンと口を開き、辺りを見回すと、どうやらベッドの上のようだった。

いや、正確にはベッドに置かれた枕の上だ。

ローキと比べ、何もかもが大きい。


(巨人の国?)


キョロキョロと見回すローキに、


「ご主人様は、その左腕にされている金の指輪…

いえ、金の腕輪に導かれ、この世界にいらっしゃったのです」


ああ、この腕に嵌めているのは、本当は指輪なんだ。

とローキは思った。


「私はこの屋敷の管理人、そして、ご主人様の『使用人』です。

名前を『タユナス』と申します」


タユナスはゆっくりと丁寧にお辞儀をすると、付け加えた。


「不躾ながら、ご主人様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


ローキは大きく頷く。


「『ローキ』だよ。指輪に導かれたってどう言う事?」


「はい。厄災を振り払う力を持った者が、指輪に導かれるのです。

世界樹…ユグドラシルの厄災から人々を救う為、ご主人様のお力が必要なのです」


タユナスの話では、この世界には四つの国があり、その真ん中にユグドラシルと呼ばれる世界樹があるそうだ。

その世界樹には悪魔が住んでいて、厄災という名の槍が天から各地に降り注ぐと言う。

実際に槍は降ってくるのだから、ユグドラシルには本当に悪魔が住んでいるのかも知れない。

そして、その槍は普通の武器では破壊する事が困難だと言う。

たった五振りの剣を除いては。


「ムスペル山のマグマで鍛えられた剣だけが、厄災を壊す事が出来るのです。

それに加えて、伝承では金の指輪の主人が剣の使い手と行動を共にすると、槍を完全に消滅させる事が出来るとか」


ちなみに、タユナスは剣の使い手の一人だと言う。


「この屋敷には、他に四名の使い手が住んでいます。

後ほどご紹介致しますね」


タユナスの説明に、ローキは悲観するわけではなく、ワクワク感を覚えていた。

自分より大きく、見知らぬ世界。

ユグドラシル、ムスペル…

聞き覚えのある名に、何か意味があるのか?


(北欧神話と関係があるのかな?

それなら、ボクが導かれたのも納得だ)


さて、これからどうなるのか、どうするのか。

物語の歯車は、どのように噛み合うのか。

先を想い、邪神は無邪気に笑うのだった。