ある日、ローキが道を歩いていると、キラリと光る物が落ちていた。
それは腕輪だった。
太陽が反射してキラキラ眩しい。
「わぁお♡純金じゃーん♡」
腕輪はズッシリと重く、よく磨かれ、大切にされている事がひと目でわかる。
これは良心のある者ならば、持ち主を探すか、役所に届けるか…
「落ちてるって事は、もう要らないから捨てたって事だね♪
今日からキミはボクの物〜」
良心の欠片もない邪神は、即、我がものとする。
そして腕輪を左腕に嵌めると、急にめまいが。
地震のように地面がぐらつき、一瞬にして視界が真っ黒になり、その場にローキは倒れた。
やがて目を覚ますと、男だか女だか見た目では分からない美人と目が合った。
真っ白い肌にロイヤルブルーの深い瞳。
その人は嬉しそうに叫ぶ。
「ご主人様!」
しっかりとローキを見てそう言った。
間違いなく、ローキの事を『ご主人様』と呼んだ。
…え、ご主人様??
ローキは訳が分からずポカンと口を開き、辺りを見回すと、どうやらベッドの上のようだった。
いや、正確にはベッドに置かれた枕の上だ。
ローキと比べ、何もかもが大きい。
(巨人の国?)
キョロキョロと見回すローキに、
「ご主人様は、その左腕にされている金の指輪…
いえ、金の腕輪に導かれ、この世界にいらっしゃったのです」
ああ、この腕に嵌めているのは、本当は指輪なんだ。
とローキは思った。
「私はこの屋敷の管理人、そして、ご主人様の『使用人』です。
名前を『タユナス』と申します」
タユナスはゆっくりと丁寧にお辞儀をすると、付け加えた。
「不躾ながら、ご主人様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ローキは大きく頷く。
「『ローキ』だよ。指輪に導かれたってどう言う事?」
「はい。厄災を振り払う力を持った者が、指輪に導かれるのです。
世界樹…ユグドラシルの厄災から人々を救う為、ご主人様のお力が必要なのです」
タユナスの話では、この世界には四つの国があり、その真ん中にユグドラシルと呼ばれる世界樹があるそうだ。
その世界樹には悪魔が住んでいて、厄災という名の槍が天から各地に降り注ぐと言う。
実際に槍は降ってくるのだから、ユグドラシルには本当に悪魔が住んでいるのかも知れない。
そして、その槍は普通の武器では破壊する事が困難だと言う。
たった五振りの剣を除いては。
「ムスペル山のマグマで鍛えられた剣だけが、厄災を壊す事が出来るのです。
それに加えて、伝承では金の指輪の主人が剣の使い手と行動を共にすると、槍を完全に消滅させる事が出来るとか」
ちなみに、タユナスは剣の使い手の一人だと言う。
「この屋敷には、他に四名の使い手が住んでいます。
後ほどご紹介致しますね」
タユナスの説明に、ローキは悲観するわけではなく、ワクワク感を覚えていた。
自分より大きく、見知らぬ世界。
ユグドラシル、ムスペル…
聞き覚えのある名に、何か意味があるのか?
(北欧神話と関係があるのかな?
それなら、ボクが導かれたのも納得だ)
さて、これからどうなるのか、どうするのか。
物語の歯車は、どのように噛み合うのか。
先を想い、邪神は無邪気に笑うのだった。