本の帯より
人工知能を搭載したロボットのクララは、病弱の少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。
生きることの意味を問う感動作。
愛とは、知性とは、家族とは?
「クララとお日さま」
著 カズオ•イシグロ〈早川書房〉
訳 土屋政雄
2021年 P440
第一部から第六部までの分厚い小説で、やはり最初は読めるだろうか?と自信がありませんでした。
AFという人工親友の存在。
子どもの孤独を助け、また子どもの生活の支えにもなるロボット。
人工知能の可能性を問う作品かとも思いました。
この時代の子どもたちは「向上処置」を受けています。この処置を受けない子どもは格差社会に受け入れられないのです。しかしこの処置にはリスクもあり、ジョジーの姉はそのことで命を落とし、またジョジーも病弱な体になっています。(予防接種がどの子にも合うとは限らないように)
ジョジーの幼馴染みのリックは、母親の判断でこの「向上処置」を受けていないために、大学進学も難しく、他の子どもたちからも特殊な扱いを受けます。しかし、リックは賢くジョジーとも将来の約束をしていました。
「向上処置なしじゃどうなるの。そりゃ、受けない子は大勢いる。ジョジーも?わたしはいやだった。ジョジーにはすべてを、いい人生を与えたかった。わかる、クララ?」
母親の願いは、自分の子どもには出来る限りのことをしてあげたいと思うこと。そして迷いながらも決断するのです。ジョジーにも当然のように「向上処置」を。
クララは「見る物を吸収し、取り込んでいく能力」に優れ「精緻な理解力」にずば抜けたAFでした。
クララのジョジーに対する無償の行為は、母親以上のもののように思えるのですが、それは愛と言うよりはクララに与えられた役割と言うべきなのだと思いました。
多少の理不尽さは感じましたが、それをすんなり納得させるカズオ•イシグロの創作世界に惹き込まれました。
私たちの次の世代は、ISP細胞で生命の誕生も操作出来る時代が予想されます。
それと同時に、AIとの共存も問いただされる時代が訪れるのだと実感しました。
人間の命の尊厳とは何か?
とても興味深く読みました。
そして、もっとカズオ•イシグロの作品を読んでみたくなりました。