岩城けい(小説「さようなら、オレンジ」) | 内田也子のブログ

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「さようなら、オレンジ」


著 岩城けい〈筑摩書房〉

2013年 P166


オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練学校で英語を学びはじめる。

そこには、自分の夢をなかばあきらめ夫について渡豪した、日本人女性「ハリネズミ」との出会いがあった。


物語は、アフリカ難民のハリマのオーストラリアでの生活と、職業訓練学校で様々な母語を持った異文化の数人と英語を学ぶ過程と、そこで知り合った(固い直毛のアジアの女)「ハリネズミ」が恩師へ綴る手紙とが交互に描かれます。


ハリマは、母国のごたごたで満足に学校に通えず、ほぼ文盲に近い状態でした。母国では自分の年齢を意識することも無く、自分が今何歳なのか?何歳で子どもを産んだのか?すら曖昧な状態でした。

オーストラリアで、自分で稼ぎ生きるすべを覚えたサリマは、黙々と働きます。


彼女は無心になにかを求める人です。

たとえ、そのなにかが手に入らなくても、求める途中で得たものが大切なものとして手元に残るのではないでしょうか。

国籍や人種、そして自分の境遇を言い訳にしない、言い訳そのものを知らない、希な人であることは間違いありません。(ハリネズミの恩師への手紙より)


ある日、ハリマの下の息子の学校の先生から「お母様にお国のことを子供たちにお話ししていただけたら、と思いまして」と依頼があります。「多文化のわが国」というテーマの勉強のためゲストスピーカーとして呼ばれたのです。

たどたどしい英語で(職業訓練学校の英語教師やハリネズミのアドバイスを受けながら)ハリマが書いた「私の故郷」は、ネットなどで紹介されているアフリカとは異なり、そこで生まれ育ったハリマの生い立ちと、そこに生まれたハリマ自身そのもでした。


ただひたすらに生きるハリマの生命力が、感動的でした。