(68)お風呂
部屋が用意できたと言われ、係の人に案内された。
元々従業員用の控室ということで畳敷きの狭い部屋だった。備品なんかは急いで用意した感じだったけど、ユニットバスはついてる部屋だったから、とにかく暖房と寝具、温まれるお風呂があれば十分だった。
こんなお部屋しかご用意できず申し訳ありませんと言ってくれるスタッフの方に、こちらこそ無理を聞いていただいてありがとうございましたとお礼を言った。
泊まるところが確保できただけでもありがたい。
あ、家にも電話を入れなきゃ。
すっかり忘れてた。
もう一度ロビーの電話の列に戻ろうとして、潤くんが声をかけてきた。
「わりぃ、先に風呂使ってる。マジで風邪引きそう」
「うんわかった」
肩越しに返事をして、財布を持って部屋を出た。
ロビーの電話はもう列が少なくなっていて、すぐに家に電話できた。
家族は心配してたけど、宿が取れたから明日帰る、とだけ言って電話を切った。
もう一度相葉さんに電話、と思ったけど、電話したらまた長引くと思ったし、服がまだ濡れたままで早く着替えたかったからやめておいた。
あちこち動き回って、ホテルの中は暖房が効いているとはいえ、いつまでも濡れた服のままいていいはずがない。
たいていこういうホテルの一階に備えてあるランドリーを見ると、乾燥機もたくさんの人が順番待ちしていた。こういうのは一晩中使えるはずだから、あとでちゃんと乾かしに来よう。
一階のショップで下着だけ買って部屋に戻った。
私もお風呂を使って、服も乾かさなきゃ、本当に風邪引いちゃう。
部屋に戻ると潤くんがお風呂から出たところだった。
ホテルの浴衣とはんてんに着替えている。
「先に、ごめん。波奈も早くあったまれよ」
「うん」
潤くんの顔を見ないようにして、ホテルの人が用意してくれた浴衣とはんてんを持ってお風呂に行った。
熱いお湯を張ってとにかくあったまる。
かじかんでいた足先と手に感覚が戻ってきてじんじんする。
どうしよう。
膝をかかえて入らないとお湯に浸かれない狭い浴槽で、なんだか頭がまだ混乱している。
こんなところで、自分が無防備に裸でお風呂に入っている状況が頼りなくて仕方ない。
水音を聞かれているかもとか考えて緊張する。
でもあんまりいつまでも入っていたらさすがにのぼせる。
緊張しながら、さっき買った下着をつけて浴衣に着替えて、はんてんのひもをぎゅっと固く結んだ。
それから、濡れた服を持って浴室を出た。
「潤くん」
向こうを向いて座っていた後ろ姿に声をかけた。
「ああ、出たか」
「うん」
ちょっと沈黙する。
「そんな緊張すんなよ。なんもしねえよ。…さっき相葉さんにしっかり釘刺されたからな。約束は守るよ」
「うん」
笑って言ったけど、また沈黙する。
「あの、潤くん、服、濡れたの、一階で乾燥機かけてこようか。大分混んでたけど、乾かさないと明日着れないし」
なにか言わなきゃと思って言った。
そういえば潤くんの服はどこだろう。
「俺のはそんな中までは濡れてなかった。ドライヤーで十分だよ」
「そう。じゃ、私ちょっと行ってくるね」
厚地の冬服が湿って重たく、これをドライヤーで乾かしたら焼き切れそうだ。
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