風花 67 橋 | 緑の木陰で妄想日和

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相葉さんのお名前をお借りして
女の子といろいろ絡むお話。
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本家FC2ブログ「心にいつも相葉雅紀」から
お話部分のみ、お引越し♪
この分野にご理解のない方はお控えください。

(67)橋

「波奈、こっち」
駅のすぐ近くにあるビジネスホテルに駆け込んで、フロントに潤くんがかけあってくれた。

「どうしても二部屋欲しいんです」
「申し訳ございません。あいにく満室で」
フロントの心から気の毒そうな顔を見ては無理は言えない。こんな状況だ。部屋があるのなら対応してくれているだろう。仕方ない。

駅近くの宿泊施設で歩いていける範囲なんてたかが知れている。
スマホでここから距離の近いホテルを調べて片っ端から電話してみたけど、どこも満室で、中には呼出音が鳴るばかりでフロントが出てもくれないところさえあった。

 

「くっそ。バスを待ってる間にどっか押さえとけばよかったな」

潤くんがいまいましそうにつぶやいた。

そう言えばそうだ。

そこまで頭が回らなかった自分に自業自得だとため息が出た。


「フロントが電話に出なかったとこあったじゃん。まだ断られたわけじゃないから、行ってみよう」

潤くんはそう言ってすでに暗くなった外へと走り出ていった。慌てて後を追う。
雪はどんどん降ってくるし足元は滑りやすいし暗くて歩きにくかったけど、電話が通じなかったホテルに直接行ってみたら幸いスタッフがその時はいて、空き室を調べてくれた。寒くて歩きにくい暗い中を歩いてきて、もう疲れてくたくただ。
二人とも服はぐっしょり濡れて、暖房の利いたロビーでも震えがくる。見ると潤くんの唇は紫色だった。

ややあって、スタッフの人が戻ってきて、一部屋なら普段従業員用の控え室にしている部屋を空けることができますと言ってくれた。
「良かった! 波奈、ここに泊まれよ。俺は…どっか、探すから」
「探すって」

更にもう一部屋なんて無理じゃない?

潤くんはポケットからスマホを出して操作しようとして、「さいあく」とつぶやいた。
「死んでる。波奈の貸して」

さっき、外を歩いた時に濡らしてしまったらしい。
慌てて自分のをポケットから出した。


ロックを解除すると画面がやけに暗い。バッテリーがもうほとんどなくて3%になっている。

間に合ってと祈る思いでタップしたけどいちいち画面の反応は悪い。焦りつつ操作していたら、とうとう警告音が鳴った。

すぅっと暗転する画面。
それからは何度電源を押しても画面は一瞬明るくなるだけですぐに真っ暗になってしまう。

顔を見合わせて、どうしよう、とつぶやいた。
相葉さんと連絡が取れない。
ホテルも探せない。

「潤くん、いいよ。泊まって」
「でも」
「仕方ないよ。風邪引いちゃうし、そもそもこの部屋を確保してくれたの潤くんだし。さっきの人に言って二人部屋にしてもらおう。で、電話も借りよう」

こんなことになって、相葉さんになんて言おう。
ホテルのフロントの電話も短いけど列が出来ていた。
同じようにスマホが駄目になった人は他にもいたらしい。
順番が来て、相葉さんに電話した。
持っていた名刺に相葉さんの携帯番号があったから助かった。でないと、スマホの電話帳に入ってて普段は見ないから番号がハッキリとは思い出せない。
数回のコール音の後、相葉さんが出た。

「もしもし」
『え、波奈ちゃん?』
知らない電話番号だから警戒していたのだろう。事務的に出た声はすぐにいつもの相葉さんの声になった。ごめんなさい、帰れないです。

『どう? 今どこ? 無事だった?』
「あの…」

事情を説明するあいだ、相葉さんは、え、とか、そんな、とか、でも、とか言ったけど、状況は飲み込んでくれた。
ただ、それでいいのかと言ったら別問題だ。

『やっぱり最初に迎えに行けば良かった。ホテルどこ? 今からでも行くよ』
「そんな。絶対無理です」
バスも走行できなかったくらいなのに、絶対無理だ。もちろん相葉さんだってそのことは十分わかってるのに言ってくれてるのは分かってるけど。

『だってひと部屋しかないんでしょ? それはだめだよ』
「でも今からなんて無理です。…大丈夫ですから」
『大丈夫って』
「…」


信じてください、と言いかけて、散々今まで相葉さんのことを信じてこなかった自分がなにを言うんだろうと思ったら声が出なかった。

意味は違うけど。今ここでは使うべき言葉だと思うけど。
耳元からは更に相葉さんの声が流れてくる。
『松本は、いいやつだと思うけど…。波奈ちゃんを信じてないみたいで、いい大人がだだをこねてるみたいでこんなの言いたくないけど、同じ部屋で一晩なんて、僕は絶対嫌だ。波奈ちゃんはいいの? …なにかあったらと思うほうが僕は嫌だから行くよ。ホテルどこ?』
「無理ですって」

電話をしている後ろでは人が待ってるけど、なかなか終わらない押し問答が続く。
そんな私の後ろから肩をノックされ、振り向くと潤くんが声を出さずにロビーにある大型テレビを指さしていた。

「相葉さん…」
テレビの画面にくぎ付けになり、声がもれた。
「相葉さん、橋が、封鎖されました」
『…橋?』

こちらに来るのに途中ひとつしかない橋が、封鎖されたというニュースだった。

『…波奈ちゃん』
事態を悟った相葉さんの声。
「大丈夫です」
言い切った。
信じて。相葉さん。

『松本、そこにいるの? 松本に代わって』
「はい」
私の話すことをじっと後ろで心配そうに聞いていた潤くんを振り返り、ピンクの受話器を差し出した。
「あいばさんが、代わってって」
「ああ…もしもし」
潤くんは覚悟したように言って、少し緊張した様子で受話器を受け取り、いつも通りの声で電話に出た。
顔を上げてさりげなく向こうを向いて、私から表情は見えなくなった。

少し硬い声の潤くんが返事をしてるのが聞こえてくる。
話してる内容は容易に想像はつくけど。
「はい」
相葉さんの声はまったく聞こえないけど、どきどきする。
「はい…わかりました」
潤くんの落ち着いた返事。
「わかりました。大丈夫ですよ、ご心配なく。…波奈に変わります」
潤くんを私の方を向いて、無言で受話器を差し出した。
目でありがとうと言って、急いで受け取った。

「相葉さん。ごめんなさい、こんなことになって」
『迎えに行けなくて、ごめん。今すぐそっちに飛んで行きたいよ…波奈』
「ごめんなさい」
『信じてる。気を付けて』
「大丈夫です」

こんな状況で、大丈夫なんて言葉がどれほど頼りないか。
一晩、どれだけ心配させるだろう。

『早く、帰ってきて』
「はい」


後ろの人も待っているからいつまでも電話はしていられない。
ようやく納得してくれた相葉さんに挨拶して電話を切った。
寒い。
濡れた服が身体まで染みて、ぞくっと身震いした。



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