(66)運転見合わせ
早めに終了したセミナーだけど、ホールでは混雑する人たちがざわついていた。
なんだか様子がおかしい。
終了時刻は早めてもらえたけど、どうやら風雪が来るほうが早かったらしく、誰かが運転を見合わせていると言っているのが聞こえた。
え? 帰れないの?
主催者側の人が前に出て説明してくれて、終了時刻の前倒しが天候の急変に間に合わなかった旨のお詫びの言葉があった。今からなら鉄道会社から代替えのバスが運行されるから、行先に合わせてバスを利用すれば帰宅できるのでそちらを利用するようにして欲しいと説明があった。
良かった、帰れそう。
ほっとして相葉さんにはLINEを入れた。
既読はつかないけどまだ早い時間だし、大丈夫。
そうは言っても代替えのバスだから本数は限られている。
線が違うミキちゃんにはすぐに帰れそうなバスがあったし、自分たちのもすぐに後からバスが出る。
「お先にごめんね波奈、まつん。またね」と、心配そうな顔をしながらも帰っていった。
大丈夫。
私たちもバスが出てくれればすぐに帰れるはず。
だけど、待っている間もだんだんひどくなってくる雪と強い風に、潤くんが、「ヤバいな…」とつぶやいた。
セミナー会場からの最寄りの駅で、ごった返す人混みの中、模造紙にマジックで書かれた代替えバス運行表を見ながらだんだん不安になってきた時、スマホが鳴った。
相葉さん!
「もしもし」
『波奈ちゃん。雪、そっちどうなの? 帰れる? 迎えに行くよ』
「え! それは無理です」
だって雪はどんどんひどくなっていて、金属のチェーンを巻いたバスでさえ遅れがちの道路状況なのに、いくらスタッドレスタイヤでも危険すぎる。
「大丈夫です。LINEにも入れましたけど、鉄道会社が代替えのバスを運行してくれるそうで、それを使えば帰れます」
『そうだけど…何時にはそっちを出られそう? バスが着くのがどこになるか後で教えて。そこまでは迎えに行くから』
「…わかりました」
そこまで来てもらうのさえ危険だとは思ったけど、バスが到着してからの交通手段がないのも確かだ。来てもらえたらありがたい。
「ありがとうございます。また連絡します」
『うん。連絡待ってる。気を付けてね』
心配そうな相葉さんの声に、「大丈夫ですから」ともう一度言って切った。
大丈夫とは言ったものの…状況はあまり良くない。
代替えバスは最初に説明された時よりもかなり遅れているらしく、なかなか来ない。
諦めてタクシー、と思ってもタクシーそのものが走っていない。乗り場も恐ろしいほどの長い列ができている。
そんな状況を今相葉さんに説明しても、心配させるだけだし。
雪と風が吹き込む寒い待合所で長い時間待っていたけれど、とうとう、十分な数のバスが用意できなくなったと言われ、宿泊希望者にはその費用の一部を持つことで鉄道会社からの妥協案が出た。
「この悪天候の中皆さまにはご迷惑をおかけいたしますが、道路状況によりバスの運行も危険であると判断いたしましたのでなにとぞご了承ねがいます。すでに乗車券をご購入済の方に限りまして、ご希望の方には払い戻し、又は宿泊費用の一部の負担をいたしますので、こちらの方で手続きをねがいます」
拡声器で係の人がしゃべっている。
泊まり?
そんな。
でも、こうして駅で待っていても、バスが来ないと言われればいつまでも構内にいても仕方ない。
潤くんと顔を見合わせて、どうしよう、と言った。
潤くんも困った顔をして、でもどうしようもない。
「波奈。早くどこか探さないと部屋がなくなるよ」
そうだ。
バスを待ってかなりの時間を浪費している。
費用はともかく、早くどこか探さないと、みんな泊まれるところを探しに散ってしまっていて、かなり出遅れている。
行かなきゃ。
思った通り、バスを待っている間に近隣の宿泊施設は、早めに帰ることを諦めて宿泊を決めた人たちでとうに埋まってしまっていた。
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