(69)ランドリー室
乾燥機は混んでいたけど、仕方ない。
並んでじっと待つ。
待っていると、いろんなことを考える。
ランドリー室も暖房は効いてたけど、みんな疲れていらいらしている感じで、いちように黙ったまま機械がごうんごうんと動く音の中でじっと乾燥が終わるのを待っている。
目の前の機械が止まった。
でも、誰も動こうとしない。機械の中の服の持ち主は、今ランドリー室にいる人たちの中にはいないみたいだ。
「あの、これはどなたのですか?」
声をかけて周りを見渡してみても、首をかしげるばかりで名乗り出てくる人がない。
どうしよう。
みんな待ってるのに。
「とりあえず出しておいて、次の人が使ったら」
と誰かが言った。
勝手に手をつけていいのかな。
戸惑っていると、
「しょうがないよ、いないのが悪いんだから。みんな待ってるんだから迷惑だよ。それ出して早く順番回してよ」
とさらにその人は言った。
仕方ないか。
備えつけのかごを引き寄せてきて、中のものを取り出そうとした時。
「なんだキミは! 勝手に他人のものに手をつけるんじゃない!」
大きな声がしてびくっとした。
みると50代くらいのおじさんで、まっすぐ私を見て怒っている。
「すみません。機械が終わったので、順番待ちの方がいらっしゃいますし、出させていただこうとしたんですけど」
「そんなに遅れてないだろう! ちゃんと来たんだから勝手に触らんでくれ!」
「すみません」
さっき私に、いないのが悪い、みんな待ってるんだからそれ出して、と言った人は知らんふりして関係ない人みたいに下を向いている。
謝る私におじさんが、さらに何か言おうと口を開けたとき。
「おっさん大人げないよ。さっきから見てたけどこんな混んでるのに席外して遅れてくる方が非常識でしょ。服出しといてくれてありがとうぐらい言えねえの?」
聞きなれたハスキーな声が聞こえて振り向いた。
潤くん!
「あんたも人に都合の悪いコトさせといて知らんふりかよ」
私に、みんな待ってるから出しといて、と言った人は潤くんにつけつけと言われてきまり悪そうにそっぽを向いた。
「もういいよ潤くん。ありがと。…あの、大丈夫ですから」
さらに何か言いたそうな潤くんにそう言ってから、そっぽ向いてしまった人にも声をかけた。
おじさんはしゅんとなって、悪かったな、ともごもご言ってるし、そっぽを向いてた人は私をちらっと見ると、ごめん、というみたいに会釈してくれた。いいです。こんな時はお互い様だし。
なんとなくバツの悪い空気が流れたところで、潤くんが「でしゃばってごめんな。あんま遅いから様子見に来たんだけどさ…つい口出しちまって。そんじゃ、俺、戻ってるわ。それ回したら終わりだろ?」と言って、颯爽と帰っていった。
なんだか、月光仮面というにはルックスも振舞いも派手だけど、助かった。
あとでちゃんとお礼を言っておかないと。
「素敵な彼氏だね」
さっき、みんな待ってるから出してと言ったのにおじさんに責められたら知らんふりして、でも潤くんに言われてごめんねの目配せをしてくれた人が、隣にやってきて、小声で話しかけられた。
いや、彼氏ではないんです、と言いかけて、こんなところで一緒に泊まるのに彼氏じゃないとか、相葉さん以外にもそんな面倒な説明もすることはないだろうと思い直して、「ええ、まあ」と曖昧に返事をしておいた。
ちょっと、さっきの一幕で忘れかけてたけど、部屋に戻ったら直面する今夜一晩の問題に、愛想笑いを顔に貼りつけながら憂鬱な気持ちにため息をついた。
→(70)