(52)百パーセントの彼女
「ただいま」
私の大好きなあったかい笑顔で手を振って帰っていく相葉さんを見送ったあと、現実感のないままふわふわと家に帰って、お母さんに顔を見られないように真っすぐに部屋に入った。
「波奈、おかえり。夕飯は?」
部屋の外から声をかけてくれるお母さんに返事をした。
「あぁ、うん。ごめん、夕飯、いらない…食べてきたから」
ごめんお母さん。
ご飯なんか、食べられない。
今日、本日をもって、私は相葉さんのカノジョになった。
なんだかまだ信じられない。
別に社内恋愛禁止の会社じゃないし、知られたって構わないのだけど。
本当に私、相葉さんのカノジョ、でいいのかな。
幸せなはずなのに、びっくりするほど現実感がなくてこんなはずはないという確信だけはあるなんて。
相葉さんは信じてって言ったけど。
信じなきゃ、って思うけど。
この先、やっぱり僕はただの先輩でいた方がいいみたいだなんて言い出す可能性を、相葉さんは予想しないんだろうか。
私はといえば、それでもいいと言ったくせに、馬鹿みたいに疑心暗鬼になって、まだ来てもいない未来を恐れてるというのに。
相葉さんのカノジョになれたのは嬉しい。でも、百パーセント完全な彼女とは言い切れない。
だってそうでしょ。
これから先どうなっていくのかを予想したら、元カノさんに似ていること以外で相葉さんが私を好きになってくれた理由が見つからないから、どうしたって明るい未来を描けなくて、だから手放しでこの状況を喜べない。
自分でそれでもいいと言ったのだけど。
もちろん嬉しいのだけど。
今の状況はすごく幸せなんだけど。
明日からどうやって会社に行こうか。
しばらくの間は着替えるのさえ忘れてベッドに座っていた。
そろそろ寝なきゃ。
どんなに気持ちがとっ散らかってても、仕事は仕事。
ちゃんと分けて、公私混同はせずに、今までどおり仕事をがんばる。
そう決心したのに。
翌日からもちゃんと普段通りに仕事はしたつもりだけど、私が相葉さんと付き合い出した、という噂はあっという間に広まってしまった。
→(53)