(50)信じ、て
『波奈ちゃん』
泣いている私に相葉さんは腕を伸ばして、私の髪に触れた。
とたんに新しい涙が込み上げて、嗚咽が漏れた。
相葉さんの大きな手が私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめられた。
温かい胸に包まれて、本当だったら泣くほど幸せなはずなのに、今私が泣いているのは、きっと違う涙。
『そんなこと言わないで、信じて。信じてもらえないかもしれないけど、信じて。波奈ちゃんが好きだよ』
わからない。
そう言ってくれるのなら信じなきゃ。
信じて、後で傷つくかも知れないけど。
`やっぱり前の彼女のことが忘れられないって友達に戻って…'
頭の中で響く声に耳を塞ごうとして、目をぎゅっとつむった。
聞きたくない。
そうしている間も相葉さんはずっと私の髪を撫でていた。
何度も何度も。
『好きだよ』
私の大好きな相葉さんの掠れた声が、耳元近くで聞こえる。
`彼ね、カノジョの髪を触るクセがあるのよ'
千秋先輩の声が聞こえた。
嫌。聞きたくない。
目をぎゅっと閉じた。
何も見たくなくてきつく目を閉じている私の唇に、温かいものが触れて息がかかった。
びっくりして目を開けたら、相葉さんの顔が至近距離にあって、あわてて目を閉じた。
何度も角度を変えて繰り返されるそれに、私の涙が伝う。
相葉さんは唇でそれを吸い取って何度もついばむように繰り返し触れた。
『泣かないでよ…』
途方にくれたように相葉さんは寂しそうに言った。
ごめんなさい。
嬉しいんだけど、涙が出るだけ。
ただ黙って泣く私をふわりと抱きしめて、『信じてもらえるまで、待ってるから』と言った。
待つ?
何を待つの?
待つのは私じゃないの?
相葉さんの心から元カノさんの面影が消えるまで待たなきゃいけないのは、私でしょ?
「相葉さん、好きです」
もう一度キスされた。
深くて熱のこもったそれを受け止めながら、これでいいんだ後悔しない、と心の中で言ってみた。
心の奥に押し込めた不安に鍵をかけて、相葉さんの傍にいられる幸せを感じよう、と思った。
だって、あんなにずっと好きだった人だもん。
断わるなんて選択肢ありえない。
結局、相葉さんの心次第。
私は相葉さんを好きで、相葉さんの心の中がどうあれ私を望んでくれるなら、私は受け入れるしかできない。
これから先、相葉さんからやっぱりダメだったと言われる未来が来るのなら、それも受け入れるしかない。
あんなに望んでいた相葉さんの腕に抱きしめられながら、幸せだと思えない自分はきっと、贅沢で我がままな人間なんだと思った。
→(51)
……………
旧風花から新展開です。
今回、波奈は相葉さんと付き合う以外に私には選択肢はない、と言い切って付き合うことを決心しましたが、旧風花では、似てるから好きだなんて言うひとはきらいです、と言い切って断っておりました。(←選択肢あったやんけ)
ここのヒントもTさんからいただきました。
旧風花がぐだぐだした原因はここで波奈がごねて相葉さんからの申し出を断ったことから端を発したとTさんとのやり取りのおかげで気付いたので、旧作からは真逆の決断をしてもらいました。
さあて。
旧作と真逆の決断を下した波奈は今後どうなっていくのでしょうか?
Tさんありがとね!