(49)お試し
相葉さんは否定しなかった。
逆に疑問形。
本気で、どうして私がこのことを知ってるのか知りたがっているようだ。
でも、重要なのはそこじゃない。
やっぱり、私が似てるから、そんなこと言ったんだ。
思ってた通り、相葉さんは元カノさんを忘れるために、いろんな女の子と少しずつ付き合ってみてはやっぱりダメだったと言っては別れている。
それがきっと真実。
そして、予想通り、元カノさんに似た私にも同じことを言って。
「やっぱり、そうだったんですね。私が元カノさんに似てるんでなければ、私なんかをあんなに面倒見てくれたり…こんな、遠くまで誘ってくれたり送ってくれたり、するわけないんです」
声が震えた。
言いながら感情が抑えられなくて、涙が止められない。もう声が出なくて、必死で息を整えた。
「私、相葉さんのこと好きです。…ずっと、好きでした」
『ほんと…?』
ふふ、ちょっとびっくりしてる。
意外と鈍感だったと知っておかしくて、でもびっくりしてる相葉さんは可愛くて、泣きながら笑ってしまった。
「はい。ずっと、最初から、好きでした」
相葉さんはほっとしたように笑った。
私の大好きな、こっちまで幸せになってくるあの笑顔。
陽射しがそのまま形になったみたいな笑顔で、心から嬉しそうに私に近づいた。
抱き締めてくれようと腕さえ広げて。
今すぐ飛びつきたい。
でも駄目。
私、お試しカノジョなんて、無理。
そばにいられればそれでいいと思ってたけど、幸せになってもすぐに後から相葉さんから、やっぱりダメだったと言われるのがわかっているのに受け入れるなんて、悲し過ぎて耐えられない。
「でも相葉さんのこと好き、だから、やっぱり元カノさんと違うから、好きじゃなかったってあとで言われるのは、耐えられません」
『えっ』
抱きしめられる寸前に言い終えることができて、相葉さんは今度こそ驚愕の表情をしてぴたりと動きを止めた。
私がそんなことを言うなんて、本当にびっくりして言葉が出てこないみたいで、立ち止まったまま何度も口を開けたり閉じたりしている。
「ずっと、楽しく一緒に仕事できればそれでいいと思ってました。相葉さんの役に立てて、たまにコーヒーごちそうになったり…相葉さんに優しくしてもらえるなら、理由はなんだっていいって」
相葉さんは絶句して口を開けたまま、何を言おうか考えるように私の言うことを聞いている。
「でも、好きだけど、いやです。お試しで…カノジョになるのは、ムリ、かな」
最後は少し、無理やりに笑って見せた。
相葉さんはなにか言おうとして口を開けたけど、言葉にならないみたいで、またなにも言わずに口を閉じた。
きっと私の言うことが図星だからだ。
私がそこまで言うとは思ってなかったんだろう。
ひどい人。
いつもはあんな優しいのに、詰めが甘いんだから。
私、あとであっさり捨てられるのがわかってて、飛び込んでいけるほど強くない。
「前に相葉さんが櫻井さんと、ロッカールームに行く廊下の隅で話してるの、聞いてしまったんです」
相葉さんの顔色が変わった。
そう。
私、ずっと知ってた。
千秋先輩のことは言わないでおこうと思った。言ったらきっとなじってしまうから。
「相葉さんの好きな人は、私じゃないですよね。元カノさんのこと、まだ好きなんですよね。だから似てる私に、そんなこと…」
『違うよ!』
怒ったみたいに大きな声を出されてびくっとした。
相葉さんに大声を出されたのは初めてだった。
傷ついたみたいに顔を歪ませた相葉さんは、悲しそうに言った。
『ちがうよ…』
大きな声を出されて身をすくませた私に、ほとんど消えそうな声で苦しそうにつぶやいた。
『波奈ちゃん、誤解だよ。あの…ほんとに好き。でも、そっか…翔ちゃんとの話、聞かれてたのか』
じゃあ信じてもらえないよね、と小さく言った。
他の子と似てるから好きだなんて言う男、信用できないよね。当たり前だよ。
下を向いて、ひとり言みたいに言って、ごめん、とつぶやいた。
ごめんなんて言葉が聞きたいのじゃなかった。
でもそう言わせたのは私。
「相葉さん」
決めた。
唇を噛んで、肺いっぱいに息を吸い込んだ。
後悔しない。
…するかもしれないけど、それでも、私に他の選択肢はない。
「似てるからでもいいです。傍にいてもいいですか」
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